二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ポケットの中の夏。

INDEX|18ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

「えーまた急だなあ……。うん! でもそうしな。君を待ってる事があるんだから」
「夏男さん、ありがとう! 本当に、ありがとうございます。何か僕、少しわかった気がしました。卒業も、僕の位置、ていうか、そんなのも」
「そう……。良かったじゃん!」
「今日は、カレーにしましょうよ!」
「あ! 夏男カレーいっちゃう? いいよー、用意するから、ちょっと泣いてて」
「ふぁい……」
 姫野あたるは、その場に膝(ひざ)をついて、堪(こら)えていた涙を解放した。
 だから、別れは辛いんだね。
 僕の居た時間は、全て、好きな人達と共有した時間なんだ。一つも無駄な時間なんてないんだ。一人でいても、一人じゃない。そんな何処かで聞いたふうなキャッチコピーも、今ならわかる気がするよ。
 ああ、早く、会いたいな。君に……。

       11

 二千二十一年二十二日、乃木坂46全国ツアー2021大園桃子卒業セレモニー当日。乃木坂46ファン同盟の五人は、大園桃子のグッズに身を包んで、〈リリィ・アース〉地下六階の〈映写室〉へと集結した。
 五人が巨大スクリーンを見つめる中、それは始まる……。
 影ナレは生田絵梨花であった。彼女の一言一言に拍手の沸き起こる、笑いをはらんだ影ナレであった。生田絵梨花は、今日は大園桃子ちゃん、卒業の日です、一旦皆さん、一度ここで燃え尽きちゃいましょう、と語った。
 続いて、伊藤理々杏をMCとして、与田祐希、大園桃子、吉田綾乃クリスティの九州、沖縄メンバーが可愛らしい前説を行った。この時に、風秋夕は『三番目の風』を心に聴いていた。
 紫一色に染まる会場――。ざわざわとしている。暗闇に包まれ、オーバーチャーがかかり始めると、一瞬にしてその場の空気感が変わった……。
 風秋夕は胸の鼓動を感じるように、深呼吸をした。稲見瓶は、興奮する息を整える。磯野波平は、黙って巨大スクリーンを見つめている。姫野あたるは、必死にサイリュウムを振った。駅前木葉は、高鳴る鼓動を抑え込むように、胸を押さえた。
遠藤さくらの煽(あお)りから、一曲目の『太陽ノック』が開始される。センターは四期生の遠藤さくらである。曲中に山下美月の会場を煽る演出が熱かった。
続いて、二曲目。高山一実の煽りから、『ロマンティックいか焼き』が始まる。センターは一期生の高山一実と同じく一期生の秋元真夏のダブルセンターであった。風秋夕は大好きなその楽曲の、まるで夢の世界の様な可愛らしいパフォーマンスを、言葉を失ったままで見つめ続ける。
三曲目は『あらかじめ語られるロマンス』である。今回は珍しく全員でこれを歌った。トロッコも登場し、会場は大いに盛り上がりを見せる。稲見瓶は腕に走った鳥肌を、そっと手の平で押さえた。
北野日奈子の煽りから始まる続いての楽曲は『13日の金曜日』である。センターは二期生の北野日奈子であった。可愛すぎると、磯野波平は自然と浮かんできた笑みを受け入れる……。
続いて、『裸足でサマー』。センターは言わずと知れた一期生の齋藤飛鳥である。歌い踊るメンバーの後ろ側で、表題曲人気第一位であると、バックスクリーンにて表示されていた。
「やべえな、めっちゃいい感じだな……」磯野は笑みを浮かべてそう囁いた。
「飛鳥ちゃん可愛い」夕はにこやかに言った。
 爆音で、お互いの声は聞こえていない。
「ああ、ライブって、凄いんだね……」稲見はスクリーンを眺めたままで呟いた。
齋藤飛鳥の落ち着いたMCから始まったのは、『他人のそら似』であった。センターは齋藤飛鳥である。
この楽曲には、二十七枚分のシングル表題曲の振り付けが全て盛り込まれていた。
「凄いでござる!」あたるは絶好調で興奮する。「全部入ってたでござるよ! しかも梅ちゃんのあのシンクロニシティで顔を歪めて手で隠すシーンが、この曲だと笑顔バージョンで見れるでござる!」
「ああ神様、今この場に立ち会わせて頂けた事、深く感謝いたします……」駅前はスクリーンを見つめたままでそう言った。
齋藤飛鳥の挨拶から始まり、秋元真夏のMCで会場を煽った。落ち着いた貫禄のあるキャプテンとしてのトーク力があった。
大園桃子は、最初はどうしようかと思ったが、楽しめそうですと語った。
乃木坂46結成十周年記念に、募集から受け付けて、厳選した四十曲の中から、今回のライブにて曲を披露していると秋元真夏が語った。
 星野みなみは、三期生で一番最初にみなみちゃん、と呼んでくれたのが大園桃子であるから、卒業するのをやめてほしいと語った。
 与田祐希は、大園桃子との一番の印象は『逃げ水』の期間だと涙ながらに語った。
 久保史緒里は、初期に大園桃子と手紙交換をしていた事を赤裸々に語った。大園桃子は今でもその手紙を大事にとってあるらしい。
「手紙取ってあるところが桃子ちゃんだよな」夕は感心しながら言った。
「最強に女の子してるよな、桃ちゃんは!」磯野は大興奮で納得する。
「桃子ちゃん以上に可愛くなまってる子を俺は知らない」稲見は無表情で淡々と言った。
「小生が書いた手紙も読んでくれたでござるかな……。匿名で送ったでござるが」あたるはスクリーンの大園桃子を見つめながら言った。
「桃ちゃん……ああ、ダメ、まだ泣かないわ」駅前は感極まった顔で我慢する。
七曲目。『あの日僕は咄嗟に嘘をついた』が始まる。センターは一期生の和田まあやである。演奏前に、パンチ力を測定する演出があり、和田まあやの順番になると、自然と拍手が発生した。乃木坂46の中でも名曲色の強い楽曲である。
続いて八曲目となる『~ドゥ・マイ・ベスト~じゃ意味はない』が歌われる。センターは三期生の岩本蓮加である。吞み込まれるような独特の清潔感溢れる雰囲気が印象的だった。
 風秋夕は自然と笑みを浮かべていた。
 稲見瓶も笑顔である。
 磯野波平も、姫野あたるも、駅前木葉も、笑顔であった。
『ファンタスティック3食パン』が始まった。歌うのは、一期生の齋藤飛鳥と、三期生の梅澤美波と、同じく三期生の山下美月であった。いわゆる、映像研の三人である。衣装はパンのついたそれぞれ異なる制服姿であった。
曲中にユニット曲人気第一位であると、梅澤美波のMCで楽しく伝えられた。
 演出で、くじで3色パンを引いた者が、ぶりっ子萌え台詞を言う、という企画で、齋藤飛鳥が選ばれた。
齋藤飛鳥が言った台詞は「飛鳥ちゃんね、大好きだお」というフレーズであった。
「やば……、もっと好きになる……」夕は立ち尽くして呟いた。
「波平もあすぴーの事好きだお!」磯野は気色悪くそう叫んだ。夕は嫌な顔をしている。
「可愛いな、さすが、飛鳥ちゃんだね」稲見は照れ笑いを浮かべながら囁いた。
「ズッキューン! でござるっ!」あたるは恋の矢に打たれる。
「これが世界レベルのキュンなんですね、ええ、受け取りました。確かに!」駅前は息を荒くして興奮する。
十曲目、『制服を脱いでサヨナラを…』が歌われる。一期生の齋藤飛鳥と、同じく一期生の星野みなみのユニット曲であった。稲見瓶は大好きな楽曲に、満足そうな笑みを浮かべている。
 VTRが流れ、期生楽曲についてをメンバー達が語っていく。
作品名:ポケットの中の夏。 作家名:タンポポ