二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ポケットの中の夏。

INDEX|21ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

二十五曲目に、感謝の気持ちを込めて贈らせて下さい、と語った遠藤さくらセンター曲の『ごめんねファンガーズ・クロスト』が歌われる。情熱的な炎の演出があった。実に美しくクールな表情で歌い踊る乃木坂46のメンバー達を見つめながら、風秋夕は時の経過を完全にこの世から忘れていった。

『皆さーん、ありがとうございました~!』

『ここの会場の皆さんと、配信をご覧の皆さんと沢山、思い出を作れたんじゃないかと思いますので』

『思い出を桃子に持って帰ってもらって……』

『皆さん本当に、ありがとうございました~!』

 秋元真夏の貫禄あるMCで、一時ライブは幕を下ろした。
 ステージから乃木坂46の姿が無くなると、会場中がスティックバルーンを打ち鳴らし始める。
 ライブ開始時と同様に、紫一色に染まった会場……。
 褐色(かっしょく)に染まるオーディエンスのサイリュウム……。
 スティックバルーンを打ち鳴らす木霊音(こだまおん)が、徐々に速度を増していく……。
 VTRに、オーディション当時の大園桃子の姿が映し出される――。人前に立つのが苦手だった彼女は、いつの時も、泣いていた……。
 できない自分に敏感で、感情に嘘もなかった彼女。
 その顔は、泣き顔から、徐々に、笑顔へと変わっていった……。
 ブルーに染まったステージに、大園桃子が純白のドレスで登場する。
 その気持ちを、手紙につづってきたと、彼女は涙を流しながら、それを読み上げる。
 彼女は、五年間乃木坂に居れた事に、メンバー、家族、スタッフ、そしてファンの皆へと感謝した。
 五年間を経て、私は乃木坂46になれました、と……。
 私は、乃木坂46が大好きです、と……。
「桃子ちゃん……」夕は思わず、呟いた。
「っ……っ……」磯野は顔を腕で覆い隠して泣いている。
「……」稲見は頬の涙を指先で消す。
「本当にいい人でござるっ!」あたるは涙して叫んだ。
「桃子ぢゃーーーん!」駅前は泣きじゃくっている。
感動の渦の中、『三番目の風』が流れ始める……。センターは大園桃子で、メンバーは三期生達。その全員が、泣いている……。姫野あたるはその光景を、眼の奥の、脳裏に深く焼き付けながら、泣いていた。
続いて『思い出ファースト』が始まる。センターは大園桃子であった。三期生全員で歌う、十二人で歌うこの瞬間が、実に尊かった。駅前木葉には、耐えられぬ大感動であった。   
続いて、大園桃子の齋藤飛鳥との思い出が詰まった曲であるという語りから始まる、『やさしさとは』は、実に言葉にならぬ名曲であった。風秋夕は強く、歌う三期生を見つめる。大園桃子は、大きな涙をいっぱいに浮かべていた。
 途中、齋藤飛鳥が登場し、大園桃子へと言葉を捧(ささ)げた。
泣きながら……。「桃子、よく頑張ったな、卒業おめでとう」という齋藤飛鳥の言葉に、大園桃子は声を出して泣いた。乃木坂46全体で歌う『やさしさとは』は、大きな涙と笑顔に包まれていた。
歌を再開して、抱きしめ合う齋藤飛鳥と大園桃子の二人……。
「忘れるもんかっ!」あたるは感極まった顔面で、叫んだ。
「忘れない」夕は、そう呟いた。
「忘れっかよ!」磯野は大声で叫んだ。
「忘れないよ」稲見は誰にでもなく、うんと、頷いた。
「忘れませんっ、桃子ぢゃーーん!」駅前は子供の様に泣きながら、そう叫んだ。
次に、『孤独な青空』が大園桃子のセンターで歌われた。トロッコに乗って、オーディエンスに大きく手を振る大園桃子。会場は大園桃子カラーの緑とピンクのサイリュウムで溢れていた。
『転がった鐘を鳴らせ』では、再度、トロッコに大園桃子が乗り込んだ。大きく手を振る大園桃子。サイリュウムを振り返すオーディエンス。ステージに戻り、乃木坂46という大きな存在と一体となる大園桃子は、笑っていた――。
 秋元真夏のMCで、大園桃子とのトークが始まる。各期から、代表して、桃子に言葉が贈られる。
 まずは四期生を代表して、筒井あやめが言葉を贈った。桃子さんの周りは、いつも穏やかな空気が流れていて、優しかったと。桃子さんの笑顔が大好きだし、一緒に活動出来た期間が私の宝物だと。
 続いて二期生を代表して北野日奈子が言葉を贈った。桃子は私にとって、初めての後輩だと。桃子は本当に心が綺麗な人だから、救われた事が沢山あったと。ただ手を差し伸べて、支える事だけが愛じゃなくて、心に寄りそって、見守る事も、愛であると教えられたと。
 続いて、一期生を代表して、齋藤飛鳥が言葉を贈る。桃子の事を好きかどうか、それだけでいいと、大園桃子は語った。齋藤飛鳥は桃子が一番好きだと笑って語った。
 ラストは、五年間三期生を共に歩んできた、梅澤美波が言葉を贈る。三期生のセンターでいてくれて、本当にありがとうと、彼女は語った。笑顔の中心に、いつも桃子の笑顔があったと。ここまで続けてくれてありがとうと。泣きながら。なんとなく、ずっと一緒に居られるんじゃないかという気がしていたとも語った。卒業を初めて聞いた日から、何度も何度も止めてごめんねと。私達三期生、十一人になっても頑張るからと。誰よりも幸せになって下さいと。
 最後に、秋元真夏が、キャプテンとして言葉を贈る。桃子は十年間で出逢った中で、一番人間味のある子だなと思ったと。桃子には気を許せたと。桃子だったら本音で話せると思った事。桃子に凄く救われたと。何かあったら駆けつけると。本当にお疲れさまでしたと、秋元真夏は語った。
「一つ一つの場面を、記憶に焼き付けるからね、桃子ちゃん」夕は優しくそう囁いた。
「桃ちゃん! 大好きだからなー!」磯野は大きく叫んだ。
「思い出にしたくない。ずっとここに留(とど)まっていたいな」稲見は小声で呟いた。
「小生の人生を賭けて、桃ちゃんの笑顔は忘れないでござるっ!」あたるは強烈にしかめた顔を、強引に笑わせて、叫んだ。
「みんな、桃子ちゃんが大好きなんですね……」駅前は、静かに、それだけ呟いた。
 次の曲で最後になると語られた。秋元真夏は、大園桃子に、乃木坂46最後となる曲ふりをして下さいと笑顔で言った。

『それでは聴いて下さい。乃木坂の詩……』

 それは『乃木坂の詩』。センターは、大園桃子である。
 乃木坂46ファン同盟の五人は、声を上げて乃木坂46と共にそれを歌った。
 「本日は、本当にありがとうございました~!』と元気よく叫んだ大園桃子に続いて、乃木坂46もそれに続く。
 本当にこの景色が、今までで一番綺麗だな、と大園桃子は語った。
 秋元真夏のMCは見事であるが、彼女もまた、最後には声を詰まられて泣いていた。
 本日は本当にありがとうございましたと、深々と頭を下げる乃木坂46――。
 会場のオーディエンスは、「大園桃子、五年間ありがとう」というメッセージをかかげていた。それを見て、大園桃子は、改めて「皆さん、五年間本当にありがとうございました」と涙した。
 さよなら――と言い残し、乃木坂46として、大園桃子はステージを降りて行った。
 バイバイ――と、笑顔で手を振る大園桃子は、「サヨナラ」を最後に、見えなくなった。
作品名:ポケットの中の夏。 作家名:タンポポ