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BUDDY 5

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「どうしたんだ? アンタは休んでていいだろ? 監視は俺が、」
「監視がお前の役目だというのなら、監視を続けながら魔力を供給すればいい」
「は?」
 意味がわからない、と言いたげな顔をする士郎の背後に回り、アーチャーは腰を下ろした。
「あのぅ……?」
「なに、気にするな。供給だ」
「えっと……」
 すっぽりと士郎を腕と脚で囲い込むアーチャーに、士郎は戸惑っているようだ。
「寝てしまってもかまわん」
 子供をあやすように、ポンポン、と軽く頭を撫で叩く。
「さすがにそれは……、一応、監視役だしさ」
「周囲の監視は、私に与えられた役目だ。屋敷内はセイバーが担当している。お前は寝ていても問題ない」
「…………べつに、眠くはない」
 士郎自身が眠くなくても、魔力が減ってくると士郎は意識を失うはずだ。その状態は、散々自身の座で見てきた。アーチャーが守護者の仕事を終えて戻ると、必ずと言っていいほど士郎は意識混濁状態に陥っていたのだ。
 アーチャーが座にいない時間がどのくらいかはわからない。だが、士郎の魔力が枯渇寸前くらいまでは減っている。
(一度、どのくらいで魔力切れを起こすのか、試してみる必要があるが……)
 聖杯戦争中にそんな無謀なことはできない。戦闘がないという確約の下でなければ、試すことのできないことだとわかっている。
 今、ここで現界している間は、マメにアーチャーが魔力供給をしており、その上、まともな戦闘も行っていなかったため、士郎の魔力は、常に満タンに近い状態であっただろう。
 だが、今夜はランサーと遭遇し、武器の投影をしてる。探索だけならばさほどの消費はないのだろうが、少しといえども戦っている。しかも、ランサーを相手にしてだ。魔力消費量がいつもの倍以上になった可能性もある。
(ランサーに口止めをし損ねたな……)
 こちらに不利なことを口止めしたとしても守られるはずもないだろうが、ランサーの性格ならば、あるいは、と期待をしてしまう。敵ではあるが、その人となりは好青年と呼ぶに相応しいものだとアーチャーは認識している。
(少々、おかしな感じではあったが……)
 先ほどのランサーの言動を思い出し、また、呆れてしまう。
「まったく。お前の服が、そんなだから――」
 アーチャーは、すぐに口を噤んだ。アーチャーにもたれて、士郎が寝息を立てている。魔力の温存のためにその身が睡眠を欲したようで、意識を失った感じではない。普通の人のように、本当に寝入った感じに見える。
 すべてを預けきった士郎には慣れた。生前には全くなかったことだが、士郎が魔力を必要とするようになってから、何度も味わった至福……。
「三分の一どころか、一割程度しか残っていなかったのではないのか……?」
 力が抜けて、ずる、と屋根からずり落ちそうな士郎の身体を横抱きにし、羽織らせた外套で身を包み、さらに赤い聖骸布を取り出して全身を包んだ。
 今夜は少し風が強い。冬の風は身を切るような冷たさを持っている。迷うことなく士郎を抱き寄せた。冷たい身体に、少し罪悪感を覚え、ため息をこぼす。
(いつも、冷え切っていたのだろうな……)
 遠坂邸で、屋根の上か庭木でずっと過ごしていた士郎は、凛が就寝してから屋内に入ってくると、氷のように冷たい身体をしていた。
 サーヴァントや士郎のような幽霊だか死霊だかが寒暖の差で人のように身体に変調を来すことはない。ただ、暑いも寒いも感じることができる、というだけだ。
 寒かったかと訊いたが、平気だと言っていた。冷たい身体で、指先を震わせて……。それでも士郎は文句一つ言わず、ずっと屋外で監視を続けていた。
「士郎……」
 そっと頬を包み、親指で唇に触れ、口づけて、魔力を摂取させる。柔らかい手触りの髪を梳き、冷えた身体をさらに抱きしめる。
「…………」
 士郎を労わろうとしていることに、違和感を覚えた。なぜ、己がこんなことをしなければならないのか、と改めて疑問を浮かべている。
「……この格好のせいだ」
 隙間だらけの帯状の服。こんなものを着ているから冷えるのだ、とアーチャーは無理やりな理屈で己の感情をから目を逸らした。
「そうだ……、こいつが、こんな格好で……」
 座に現れたからだ、と二人でいるときの落ち着かなさを士郎のせいにして見ないフリをする。
 本当は、向き合わなければならないと思いながら、今は聖杯戦争を理由に棚に上げておく。
(座に還ったら、きちんと話す……つもりだ……)
 決意とも呼べない不確かな目標を掲げて、薄絹を広げたように曇った夜空を見上げていた。



***

「新都に行くらしい」
 アーチャーは黒っぽい普段着姿で言った。
「えっと、じゃあ、俺は、こっそりついて行く感じだな?」
 見る間に眉間に深いシワが刻まれ、士郎は何か間違ったことを言ったのかと冷や汗をかく。
「その格好では目立つだろう」
「う、うん、確かに……」
「私は霊体で、と言ったのだが……」
 アーチャーは士郎のことも考えて、凛に霊体でついて行くと言ったようだ。が、凛は、実体でついてこい、と命令したらしい。
「もしかして、令呪、使われたのか?」
「…………まあ」
 不本意だと、全面に露わにした渋面のアーチャーに、士郎は吹き出す。
「笑いごとではない! 共闘関係の親睦を深めるなど、冗談ではない! 今は聖杯戦争の只中だぞ! だというのに、凛は、」
「それ、俺じゃなく、遠坂に言えば?」
「…………」
 ぐうの音も出ない様子で、アーチャーは深いため息をこぼした。
「…………そういうわけだ。朝食後には出かけることになる。適当に投影しておいた。好きなものを着ろ」
 アーチャーが手に持っていたのは洗濯物ではなく、士郎の着る服だったようだ。
 今、衛宮邸の主とセイバーは道場にいる。士郎はいつも夜が明ける前に屋根の上から土蔵の中へ移動し、潜んでいた。そこにアーチャーは主たちの目をかいくぐり、珍しい格好で訪れている。
「わ、わかった。ありがとう」
 久しぶりに見る、アーチャーの武装ではない格好に、士郎は僅かに跳ねた鼓動から目を背けたくなった。
 内心、落ち着け落ち着け、と繰り返して唱えながら、その焦りを表情にはかけらも出さない。士郎もアーチャーと似たり寄ったりの無表情を習得している。子供のようにいろいろなことを顔に出すこともなくなっていた。
「礼には及ばん。隠れてついてくるのは、骨が折れるだろうからな。今のところ、魔力が不十分なせいで、セイバーは気づけてはいないようだが、何か引っかかる、と思うことはあるようだ。気をつけろよ?」
「了解」
 それだけ言うとアーチャーは土蔵を出て行った。
 アーチャーの話によると、この世界の衛宮士郎とセイバー、凛とアーチャーの四名で新都に遊びに行くらしい。聖杯戦争中ではあるが、昼間の人が多い街中などでは戦闘行為が起きないというのが定石だという。であれば、夜になる前に戻ってくれば問題はない。その上、それぞれにサーヴァントを従えているのだ、何かあっても十分に対応できるだろう。
「ここの遠坂は、俺の知る遠坂とは違うんだなぁ。なんだか、ダブルデートみたいじゃないか」
 微笑ましい、と士郎は笑みをこぼし、そうして、胸の痛みに目を伏せる。
作品名:BUDDY 5 作家名:さやけ