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恋を召しませ、召しませ愛を

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そこまでしなければ渡せないというのに、それでも獲得数2位。炭治郎としては、流石は義勇さん! と誇らしい気持ちもあるけれども、それ以上に心の奥がモヤモヤとするのも認めざるを得ない。
獲得数トップの宇随先生や3位の煉獄先生ならば、そこまで厳しいことは言わない。コラッと軽くお叱りはあっても、ありがとうと笑って受け取ってもらえるのだから、ミーハー気分で顔の良い教師にチョコをあげたいだけの女子ならば、そんな二人や実はこっそりとマニア人気の高い不死川先生なんかにあげるのが常だ。
だから冨岡先生が持ち帰るチョコといえば、本命も本命、本気で先生が好きという思いつめた女子からのものばかりだったりする。名乗ることも出来ないチョコだがせめて受け取って欲しいと願う、涙ぐましい乙女の努力には頭が下がる。と同時に、すんなり受け取ってはもらえなくとも、恋する気持ちを込めたチョコレートを渡すことが許された女の子たちが、羨ましくて仕方がなかったし、渡すことのできない自分に泣きたくなるから、去年までの炭治郎はバレンタインが好きではなかった。

そんな一途な乙女心を一向に意に介さない朴念仁の冨岡先生はといえば、チョコを持ち帰る日には必ず竈門ベーカリーに寄って買い物をしていく。そうして店の常連で炭治郎が昔から知るお兄ちゃんな義勇さんの顔で、甘い物はそんなに食べられないからと竈門兄妹に紙袋に入ったチョコを渡して帰っていくのだ。何故かチョコベーグルだのパンオショコラだのといったチョコ系のパンを一つ買い、俺はこれだけでいいと薄く笑って。
義勇は高校生の頃からそうだった。甘い物は嫌いじゃないがこんなにあっても食べきれないと、チョコの入った紙袋を竈門兄妹のおやつへと提供しておいて、自分はチョコレートのパンを一つ買っていくのだ。中学の頃のように貰ったものを少し選んで取っておけばいいのに、炭治郎からパンの入った袋を受け取りこれだけでいいと笑う。
女の子の想いの籠ったチョコレートを何だと思っているのかと、一部の過激なフェミ団体などが知ったら髪を振り乱して詰め寄ってきそうな所業だし、炭治郎としては義勇を想う女の子たちからのチョコというのは些か複雑だ。
まだ幼かった頃の禰豆子なども、当時は紙袋いっぱいのチョコレートに目を輝かせていたけれど、小学校も中学年程度になった頃には困り顔をしていた。それはそうだろう。禰豆子とて恋を夢見る女の子だ。義勇の所業は正直惨いと思っても仕方がない。
炭治郎だって同感ではあるが、それと同時に喜びと安堵もあった。義勇が女の子たちの想いの表れであるそれを食べることはないのだ。義勇は誰のものにもならない。少なくとも今年はまだ、誰の気持ちも受け取るつもりがない。それを義勇から横流しされるチョコレートで確認しては、自分を慰めていた。まだ自分の気持ちが恋だと気づく前からそんな具合だったのだ。自分でもいっそ呆れるより他ない。
中学生の頃辺りはまだ義勇も、無表情のまま少し困った様子で二つほどチョコを取り出すと残りを炭治郎に渡し、これ以上は食べられないから食べてくれないかと炭治郎に訊いてきたものだった。折角の心遣いだからと自分でも食べる努力をしていたのだ。それじゃあ炭治郎のあげるチョコは食べられないかと炭治郎がしょんぼりとすると、炭治郎のを絶対に食べたいからこれだけで十分なんだと笑ってくれた。
だから炭治郎は保育園に通っていた頃はバレンタインには必ず、小さなチョコを義勇に渡していた。最初は保育園のおやつのお徳用チョコ。次の年にはコンビニで買った一粒ずつ売ってる小さなチョコレート。その次の年はいたチョコ1枚。少しずつグレードアップしていったチョコは、そこで終わった。
炭治郎が義勇にバレンタインのチョコを渡したのは、保育園に通っていた頃だけだ。小学校に上がってからは、クラスの皆が言う「男がチョコを渡すのはおかしい」という言葉にショックを受けて、渡せなくなってしまったから。
自分が変だと言われるだけなら、俺は義勇さんが大好きだからいいんだと笑えただろう。けれど、受け取る義勇までもが変だと言われ、きっと本当は嫌がってる筈だと言われてしまえば、炭治郎にはチョコを渡すなんてこと出来る筈がなかった。
バレンタインは、大好きな人にチョコレートを上げる日。なのに、大好きな義勇に炭治郎はチョコレートを渡すことは許されない。それが哀しくて、恋心を自覚してからは尚のこと、切なくて苦しくて。親友の善逸とは違う意味合いとはいえ「くたばれバレンタイン」と喚きたくもなった。
けれども、今年は違う。だって恋人なのだ。男だけれど炭治郎は義勇の恋人。堂々と義勇に自分の恋心の籠ったチョコレートを渡せる日になった。
実に14年ぶりになるチョコレート。しかも今度は、恋人として。
となれば、悩むのも道理だろう。
漸く渡せる恋人としてのバレンタインチョコだ。誕生日に失敗した分も、ここで張り切らずしてどうするってなものである。

誕生日のケーキのリベンジに、チョコレートケーキというのも考えなくはないのだが、正直自信はない。あれだけ特訓したのにスフレチーズケーキは失敗したのだ。にわか仕込みのケーキは誕生日の二の舞を演じる可能性が高い。
既成のチョコレートを買うより他ないが……正直に言おう。予算がない。
誕生日プレゼントやらなんやらで、炭治郎の貯金はかなり目減りしている。からっけつとは言わないが、義勇が貰う女子たちからの本命チョコよりも特別感のあるチョコを用意するには、少々心許ないのは事実だ。
禰豆子や花子にリサーチした結果、本命チョコの相場は2千円から3千円程度らしい。それぐらいなら炭治郎だってなんとかなる。だけれども、初めて恋人として祝うバレンタインである上に、誕生日のリベンジを兼ねるとなれば、やはりもうちょっと張り込まなければ炭治郎の気が済まない。
禰豆子たちに言わせると、恋人になってからのバレンタインならチョコは千円程度で代わりにプレゼントを渡す人も多いらしいが、そうなると、チョコはともかくプレゼントにまた悩む。
当初の予定では、義勇に炭治郎の財布事情を心配させないようプレゼントは諦めて、2千円ぐらいのチョコを準備するつもりだった。それぐらいなら義勇を心配させることなく喜んでもらえるだろう。
バイトを始めたとはいえ炭治郎はまだ学生で、殆どの生活費は義勇が負担してくれている。炭治郎がどうしてもと言い募って出している家賃は、義勇との交渉の結果、月に1万5千円。家賃の半分にも満たない。それに加えて食費や光熱費、生活に必要な諸々の諸経費は、主に義勇の財布から出ているのだ。
実際に財布のひもを握っているのは、義勇から丸投げされた炭治郎だけれども、義勇へのプレゼントや祝いの料理の費用までそこから捻出するなど、炭治郎の性格上、出来よう筈がなかった。