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恋を召しませ、召しませ愛を

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先日の誕生日に、プレゼントに料理の材料費、そして特訓用を含めてのケーキの材料費を炭治郎の貯金から出した結果、バレンタイン用の予算はかなり絞られている。当然、バレンタインも料理はいつもよりちょっと特別にするつもりだったから、チョコレートはコンビニで買えるうちのちょっといいものを。それぐらいなら義勇も気兼ねなく喜んでくれる筈。そう思っていたのにこのザマだ。
しかも風邪を引いた炭治郎を、義勇が自由に出歩かせてくれる筈もなく、過保護っぷりをいかんなく発揮した義勇によって炭治郎は実に3日間もベッドに留め置かれた。
予算も日程も、あまりにも少なかったのだ。
そんなわけで、炭治郎は朝からうんうんと悩んでいる。リベンジの意気込みとは裏腹に、打つ手はあまりにも少ない。病み上がりにバレンタインチョコを買い求める女性で賑わうデパートへなど行ったことがバレようものなら、義勇の眉間にきつい皺が寄るのは間違いなしだ。それぐらいはいい加減炭治郎も学習している。
炭治郎が思い描いていたよりも、義勇が炭治郎を想う気持ちは存外深いらしい。いつかは厭われる、飽きられる、捨てられる。そんな不安はまだまだ消えないけれども、今のところ義勇の愛情は一心に炭治郎に向けられているようだ。それについては疑いようがないのだと、先日の義勇の誕生日で漸く思えるようになった。
義勇が望むのは、炭治郎が我儘も不安も義勇の前では曝け出して、義勇に全てを見せ委ねること。炭治郎自身が捨て去りたいと厭う嫉妬や独占欲も義勇は受け止め、それこそが望むものだと言わんばかりに炭治郎を甘やかす。全面的にそれに乗っかる度胸はまだないが、じわじわと義勇の愛情は炭治郎に染み込んで行き渡り、いずれ炭治郎の全身は指先や爪先までどころか、髪の一筋一筋に至るまで、義勇の炭治郎への愛で染め上げられるのではないかと予感している。望むところだ。そんなもの喜ばしい以外の何物でもない。
もとより炭治郎の身体も心も義勇への愛に染められているのだ。互いの愛が混ざりあい染め抜かれる日なんて、待ち遠しいし嬉しい以外言うべき言葉などある筈もなかった。
とはいえ。義勇の心配性なまでの過保護っぷりは、こういう時には少々厄介だ。もうすっかり元気なのだから、多少の人混みに赴いたところでぶり返すことなどないだろうと思うのに、義勇はきっとへそを曲げるだろう。炭治郎が渡すチョコを喜んではくれるだろうが、その後できっと無理をするなと言っただろうと眉間に皺を寄せて、もしかしたら炭治郎を再びベッドの住人にしかねない。
別の意味でそうされるのは、気恥ずかしいけれども嬉しいけれども。いや、もしかしたらどちらの意味合いも同時に果たされる可能性はあるか。
そんなことを考え炭治郎は、我知らず熱くなった顔を覆ってテーブルに突っ伏した。想像してしまったそれに一人身悶える。だって誕生日は結局なにもできなかったのだ。いつも通りに腕枕で添い寝してもらって終り。愛しくて愛しくてたまらない温もりに、寄り添い抱き締められていたというのに、なにもなし。義勇の誕生日という、炭治郎にとって一番特別な日だったっていうのに!
けれども風邪も治った。今日はバレンタイン。甘い甘い恋の日だ。それなら展開的にそちらの意味でもリベンジは当然あるんじゃないのか? 明日も義勇は休日出勤だから、一晩中というのは無理だとしても、ちょっとぐらいは……。
うわぁっと叫びだしたくなって、炭治郎はジタバタと足を揺らした。まだ午前中だというのにこんな想像が頭を巡るなんて、自分で自分に呆れてしまうけれど、赤くなる頬を止められない。

「いやっ、こんなことしてる場合じゃないんだった!」

うっかりと義勇の汗の味やらその時の匂いやらまで思い出してしまっていたけれども、そんな場合じゃなかった。時間がないのだ。義勇は今日も帰りが遅いだろうけれど、まだ今日のプランも定まっていない状況では、なにも出来ずに終わりかねない。
そうしてまた、どうしようとうんうんと悩みだしたところで、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
来客の予定はないが誰だろう。思いながらドアのスコープを覗けば禰豆子が立っていた。
「禰豆子っ、どうしたんだ? こんな早くに」
慌ててドアを開けると、禰豆子は呆れたように苦笑した。
「11時は早いとは言わないよ、お兄ちゃん」
「えっ、もう11時!?」
驚く炭治郎に禰豆子はいよいよ呆れた顔をして、大きな紙袋を差し出してきた。
「義勇さんの誕生日に風邪ひいたって聞いたから、はい、これ」
お兄ちゃんのことだから、きっとどうしようって悩んでると思ってと、渡された紙袋の中には陶器の鍋やピックなどが入っているようだ。
「鍋ならうちにもあるぞ?」
「それね、フォンデュ鍋なの。お兄ちゃん、義勇さんへのバレンタインチョコまだ用意できてないんじゃないかと思って。チョコフォンデュにすれば、商店街でチョコと果物買うだけでちょっとオシャレなバレンタインチョコになるでしょ?」
花子と私からお兄ちゃんと義勇さんへのバレンタインチョコの代わりにプレゼントと、笑って言う禰豆子に、炭治郎はぽかんと口を開いた。
我が妹ながら推察力と気遣いが凄い。そして有り難い。
「うわぁ、ありがとう禰豆子! 花子にも後でお礼を言わなくちゃっ。あ、ごめん! 寒いだろ、入ってくれ」
「いいよ。これから待ち合わせなの」
笑いながらもう一つ持っていた小さな紙袋を掲げてみせる禰豆子は、寒さの所為ばかりでなく少し頬が赤い。
「あぁ、善逸かぁ」
「うん。善逸さん手作りチョコ欲しがってたから、フォンダンショコラ」
頑張っちゃったと言ってくふんと笑う禰豆子の顔は嬉しそうだ。見慣れた顔なのに、炭治郎が知る妹の顔ではなく、恋をしている少女の顔で禰豆子は笑う。
ほんのちょっと寂しい気持ちを飲み込んで、炭治郎も笑った。
「そうか、きっと善逸も喜ぶよ! あ、ちょっと待っててくれ。俺も買い物に行くから商店街まで一緒に行こう」

急いで紙袋を台所に置いてくると、炭治郎はコートを着こんで玄関を出た。マフラーもしっかり巻いておく。また風邪を引くなんて冗談じゃない。
「お待たせ、禰豆子。行こうか」
商店街へと続く道を禰豆子とのんびり歩く。禰豆子が話すのは家の様子や善逸のこと、春から通う専門学校への期待と不安。それに答えてやりながら、炭治郎も大学のことや家のこと……つまりは義勇のことなどを、あれこれ話す。
俺もチョコを手作り出来たら良かったけどとちょっぴり愚痴を洩らせば、それならパンは自分で焼いたらどう? とアドバイスをくれたりもしたので、フルーツの他に具材としてクロワッサンを焼くことに決めた。意外なところでポテトチップも合うよなんて言葉に、ジャガイモも少しばかり購入。聞いていた八百屋のおじさんまで、チョコにポテトチップ!? と炭治郎と一緒に驚いていたのが可笑しい。イチゴやバナナ、キウイや林檎にマシュマロと、禰豆子お薦めの具材を買って、忘れることなくチョコと牛乳も買えば買い物は終了。