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恋を召しませ、召しませ愛を

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料理なんてまったくしたこともない義勇が率先して台所に立ち、訪れた親友すらほっぽって今はここにいない小さな男の子の為に、ココアを淹れる練習なんかしてる。
炭治郎が義勇を見る瞳に、恋心が満ち満ちて光っているように、義勇が炭治郎を見つめる瞳にも、同じ光がきらきらと宿っている気がするのは、多分錆兎の気の所為じゃない。
いいのか、これ? 親友として止めるべきじゃないのか? 思ったことは何度かあるけれども、結局錆兎はそんなことは一度として口に出していない。
むしろ義勇に彼女が出来た時の方が、苦々しく思ったし、親友として忠告したぐらいだ。
それまでまったくその子に関心を向けたことなどなかったくせに、告白されたから受け入れたと何でもないことのように言った義勇に、思わず真菰と顔を見合わせ揃って眉を寄せた。好きでも何でもない相手と付き合うなんて義勇らしくない。そんな言葉と同時に、炭治郎はどうするんだ、なんて。すんなりと脳裏に浮かんだくらいには、義勇と炭治郎は想い合っている。傍目にも疑いようなく分かる程に。
小さい炭治郎と無表情な義勇では、それが分かるのは錆兎たちのように極々親しい者に限られるだろうけれども、確かに二人は恋しあっていると分かっているのだ。
大っぴらに応援できる恋じゃない。問題だと思うし心配にもなる。けれども、反対しようなんて思わない。引き裂けるような想いじゃないと、錆兎には分かるから。
だというのに、なんの関心もない女子の告白を受け入れお付き合いを開始したばかりか、義勇はさっさとその子相手に童貞を捨てたらしい。いや、義勇からはっきり聞いたわけではないのだが。
というか、聞きたくもないのにその子が友達相手に自慢げに、微に入り細を穿つ詳細さで語る現場を、うっかり通りかかってしまった我が身の不運を錆兎は嘆いている。
女子のエロ話、エグイ……怖い。親友の息子の膨張率だとか達するまでの時間なんて、知りたくなかった、本当に。
真菰はきっとそんな話を友達にしたりしない。二人だけの秘密と照れ笑いしてくれる筈。いつそんな日が来るのかは、未だに告白すら出来ずにいる錆兎には分からないけれども。
我知らず仄かに熱を帯びた頬を誤魔化すように、錆兎は意味なく咳払いした。義勇は振り向かない。ココアを練るのに一心に集中している。
ともあれ、錆兎からすれば明け透けすぎて恥知らずにすら思えるその女子は、義勇の隣に立つには相応しくないと思ったし、義勇が意中にない女子と付き合うこと自体心の底から心配ではあった。
義勇が自分の想いを持て余し、悩んでいることは分かっていた。多分その頃、義勇自身は自分が炭治郎に恋していることすら自覚はなかったのだろう。問い質したことはないが、義勇が女子と付き合った真意は、炭治郎への想いを可愛い弟に対するものへと引き戻す為の悪あがきだったのだろう。
馬鹿な奴だと錆兎は苦笑する。そんなことをしたって、傍目には二人が心底想い合っているのはバレバレで、逃れようとしたって無駄なことぐらい錆兎にすら分かるっていうのに。
その女子とはやはり長続きはせず、義勇の気持ちはちらりとも揺らがぬままに終わりを迎えたようだった。当然だろう。義勇のことなどその子はちっとも分かっちゃいなかった。クールなのが格好いい? 誰だそれ。義勇がクールだなんて言われても、錆兎や真菰にしてみればへそで笑うってなものだ。
義勇はむしろ情熱家だ。感情の読めない表情の裏には、熱く激しい想いがある。情も厚い。心底優しい男だし、多少突拍子もないが気遣いだって怠らない男なのだ。
関心を抱けないものには徹頭徹尾無関心であるだけのこと。それすら分からず見た目だけで格好いいだのなんだのとはしゃぐ女子に、錆兎は義勇を任せたくはない。勿論、義勇が本心からその子を好きだと言うのなら、心配はすれども応援する。だが、義勇が一筋に想いを寄せているのは別人なのだ。

僅か7歳の男の子。義勇の見た目だけでなく、分かりにくい優しさや思い遣りもきちんと全部受け止めて、嬉しい大好きと笑う子供。義勇が落ち込んでいればすぐに気づいて、一所懸命癒そうとする炭治郎。

正直に言おう。錆兎としては、義勇の隣で微笑み合うのは炭治郎がいい。炭治郎こそが義勇に似合うと、本当は思っている。
とはいえ、今はまだ二人の恋に問題があるのは確かだし、時期尚早に燃え上がってしまえばどうなるかを考えると心配にもなる。
だから、親友としては一言ぐらいは言っておきたい。
「……理性は保てよ?」
「当然だ」

うん、まぁ、いいや。

節度と理性を持ち続けられるなら。義勇のことだから、炭治郎と引き離されるような事態にはなるまい。それはきっと義勇にとっては身を引き裂かれるのに等しいのだろうから、そんな事態は全力で避けるだろう。止められない恋心を胸に秘めて。
いや、止められないから恋なのだ。錆兎だって知っている。だからまぁ、精々頑張るといい。炭治郎が大きくなって、堂々と──は、性別的にちょっと難しいかもしれないが──これは恋ですと笑って言えるようになるまで。
自分でコーヒーを淹れながら、明日辺り真菰と一緒に竈門ベーカリーに行こうかなと、錆兎は思う。親友の恋と自分の恋。ココアとコーヒー。どちらも美味しく飲めるのなら、多分なにも問題はない。
恋の味なんて、きっと人それぞれなんだから。



ひとしきり他愛ない話に興じて帰っていった錆兎を見送り、台所へと戻った義勇は洗い物をしながら小さく苦笑した。
心配させてるのは事実だろうが、それでも義勇の恋に気づきながらも咎めない錆兎は、本当にいい奴だ。
義勇が女子と付き合いだした時は、あんな風に優しく苦笑なんかしなかった。苦々しく眉間に皺を刻み、そういうのは良くないと思うと忠告してきた錆兎は、恋に対して真剣だ。好きでもない相手と付き合い、あまつさえ性交渉を持つなどと、男らしく正義感に溢れた錆兎にしてみれば言語道断だっただろう。
義勇が悩んでいることを悟っていたから、そんな一言に留め、けれども忠告だけはきっちりする。そういう錆兎だからこそ、人付き合いの苦手な義勇も親友として心開けるのだ。
とはいえ、錆兎にも気づかれない本心も、義勇の胸の中にはある。
義勇にとってもっとも大切な炭治郎を、大事に大事に囲い込むためには、時間が必要だ。そして何よりも努力が。
炭治郎の年齢もある。まさか7歳の幼子に、世間一般的な恋愛のアレコレなど求められるわけがない。そんなことをすれば即刻義勇は炭治郎と引き離され、下手をすれば二度と逢うことは出来なくなるだろう。
だから、自分の劣情を抑え込むことなど努力でもなんでもなく、当然のことだ。元々、炭治郎への想いの深さに対する葛藤や苦悩がなければ、性欲なんてさほど覚えることもなかったのだから、発散の術を求める必要もなかった。
結局のところ、炭治郎にしか向かわないのだ。義勇の「欲」のすべては。

洗い終えたばかりのカップに改めてコーヒーを淹れ、義勇は口の中のココアの甘さをコーヒーで流した。甘い物は嫌いではないが、好んでもいない。どちらかというと苦手な方だ。
義勇が絶対に食べたいと思う甘味なんて、バレンタインに炭治郎から渡されるチョコだけだった。