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雪の日の完璧な過ごし方

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 冬休み最後の日を、義勇のお達しの通りダラダラとベッドの上で過ごす羽目になったのは、まぁいいのだ。義勇の機嫌はすこぶる良かったし、炭治郎だって、甲斐甲斐しく世話を焼かれながらイチャイチャできるのは、少し申し訳なくも喜ばしいことではある。
 いつもなら土曜か日曜の恒例行事ではあるが、明日の朝から炭治郎は二泊三日で留守だ。だからこそ、五日の夜に前倒しということだったのだろう。本当なら、学校が始まれば忙しくなるからと五日に、連休に入れば休みだから中日辺りにと、都合二晩は熱い夜を過ごせたはずなのに。
 いや、まぁ、夜のムニャムニャはともかく、年末にも一人寝をせざるを得なかったというのに、またすぐに二泊三日とはいえ離ればなれというのは、正直こたえる。

「なんでこんな時期にゼミ合宿なんてするんだろうなぁ」
「全国の郷土のおせち料理研究だったか?」

 はぁっとため息をつきつつ言った独り言に、返ってきたのはそんな言葉。振り返れば、少しぼんやりした寝起き顔の義勇が立っていた。
「おはようございます。はい、もう松の内も過ぎてるっていうのに、おせちを作るってのもアレですけど」
「松の内は十五日までという説もあるぞ。おはよう」
 苦笑する炭治郎の唇に、チュッとかわいらしい音をたててキスして、義勇が席に着く。お返しのキスは義勇の頬に。こんなやり取りを照れずにできるようになったのは、つい最近だ。いや、今もドキドキしてしまうのは変わらないのだけれども。
「今日も寒いな」
「エアコンの調子悪いみたいで、なかなか暖まらないんですよね。年末にフィルター掃除したんだけどなぁ」
 昨夜の週間天気予報では、日曜あたりから雪が降るらしいので、エアコンには頑張ってもらわないと困る。なにせ、義勇は結構な寒がりだ。学校ではジャージで過ごしているけれども、実は貼るカイロのお世話になっていることを、炭治郎だけは知っている。
 以前、外食の約束をしたときに、大学まで迎えに来てくれた義勇を見て、キャーキャーと騒いでいた同級生たちをなんとなく思い出す。
 あの子たちが知ったら多分幻滅するんだろうなと、炭治郎はくすりと笑った。
 アンダーウェアにぺたりと貼られたカイロは、なんだかかわいくて、なのにそれを脱ぎ捨てれば現れるのは見事なシックスパック。その落差に炭治郎は、これがちまたで言うギャップ萌えってやつかと感動したぐらいなのだけれど、禰豆子や花子はあきれ返っていたから、女の子の感想は違うのかもしれない。
 以前なら、女の子に騒がれる義勇を見れば嫉妬に身を焼かれもしたけれど、このごろはだいぶ余裕が出てきた気がする。そうだろそうだろ、俺の義勇さんは格好いいだろ、もっと褒め称えてもいいぞ。なんて。内心でうんうんとうなずきながら、ニンマリとしてしまったりするのは、愛されている自信がついてきた証拠だろう。
 義勇が女性とふたりきりでいれば、今でもギュッと胸が痛くなって不安に駆られるけれど、姦しく騒がれているぐらいなら、さほど嫉妬はしなくなった。炭治郎をさいなんだみっともなくて浅ましい嫉妬も、自分はあんなふうに好きだの格好いいだのと、軽々しく口にできない立場だったことによるものが大きい。

 だから、毎日好きと告げられる今は、それほど苦しくないのかも。でも、なんでだろう。いまだに体の芯がきしむような心地がときどきする。いつだって俺の義勇さんは完璧と思うたび、誇らしくなるのに、体の奥がかすかにきしむ気がする。愛されていることを疑ったりしていないのに、不思議だな。

 そんなことを考えつつ、もぐもぐと昨夜の残りの白菜のおひたしを咀嚼していた炭治郎は、また頭に浮かんだゼミ合宿の四文字に、再びため息をつきたくなった。
「そんな顔をして食うな。飯がマズくなる」
 いただきますと味噌汁に口をつけた義勇は、責めるつもりで言ったわけではないだろう。
『おまえがせっかくおいしく作ってくれたのに、浮かない顔をしながらでは心配になる』
 言いたいことはそんなところだと、わかっているから不安にもならない。ほかの人にもこんな具合だから誤解されるんだよなぁとの心配はあるが。
 ついでに、しかたのないことだろうとの慰めと苦笑も、つっけんどんに思える言葉には含まれている。それがちゃんとわかるから、炭治郎も苦笑した。
「そうなんですけど……やっぱり寂しくって。冬休み中はお互い外泊が多かったですから」
 義勇が研修や修学旅行の引率で何泊か留守にすることはあるし、炭治郎だって実家に帰って留守にすることもあった。正月にも、たまには家族水入らずで過ごせと言われて、一泊だけとはいえ実家に泊ったばかりだ。
 だから、離れて過ごすのは初めてではない。なのに、なんだかとっても寂しい気がしてしまう。
 それは多分、炭治郎にとっては本意ではない外泊だからだろう。
 部活の恒例だから合宿はしかたがない。実家へのお泊りだって義勇の厚意からだし、久しぶりに茂や六太にしがみつかれて眠る夜は、炭治郎にとってもほっこりと心温まるものだった。
 でも、ゼミ合宿はそうじゃない。
 ゼミ合宿に参加しなくても、単位にはとくに影響しない。不参加の生徒だってそれなりにいる。炭治郎としては、義勇と過ごせる時間は一秒たりと減らしたくない。
 だから炭治郎も、最初は断ったのだ。だというのに、なぜ義勇と一緒にいられる時間を減らしてまで、しなくていい外泊をしなければならないのか。解せぬ。
 ゼミの仲間や教員と交流し親交を深め、結束力を強くする。良いことだと思う。思うけれども合宿という形でなくても、十分果たせることだとも思うのだ。それに自分がいないほうが、ゼミの人たちも気兼ねなく過ごせるだろうにというのが、炭治郎の掛け値なしの見解だ。
 なにせ炭治郎が専攻する家政科は、ほとんどが女子で構成されている。同じゼミには炭治郎しか男子はいない。炭治郎はあまり性差を気にしたことはないが、やはり女の園に男が一人というのは、気にする人もいるだろう。ましてや泊りともなれば、炭治郎だけが個室をあてがわれるわけで、その分みんなが負担する金額も、多少なりとも増えることになる。
 なのに、断った炭治郎にゼミの全員ががっかりした様子をみせたものだから。おまけに男手があるほうが安心だからだの、一緒に行けるのを楽しみにしていたのにだのと言い募られれば、炭治郎の性格上断ることなどできなくなった。
 決まってしまえば、もうしかたがない。断頭台に登るような心地でゼミ合宿の件を告げた炭治郎に、義勇は苦笑して、楽しんでこいと言ってくれたけれども、残念だと思っている匂いが少しした。炭治郎がいたたまれなくなるのがわかっているからか、そんな素振りは露と表には出さないけれど、炭治郎のよく利く鼻は義勇のちょっぴりの落胆を、しっかり嗅ぎとってしまった。
 不自然な男同士の行為で炭治郎にかかる負担を、たいそう慮る義勇は、炭治郎が休めるという前提がなければ、激しい行為におよぶことは決してない。挿入をともなわないイチャつき程度なら、かなりの頻度で手を出されはしているものの、最後までするのは休みの前日と決めている節がある。