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雪の日の完璧な過ごし方

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 基本的に義勇は、真綿でくるむような愛しかたをする人なのだ。快楽の頂点へと追いつめるような抱き方よりも、溶けあうような優しい交わりを好む。

 どこまでも甘く優しい交合は、とろとろと煮詰まっていくジャムに似ている。義勇の愛という火にかけられて、ゆっくりと煮崩れ溶けていく苺になったような心地がするのだ。
 炭治郎という赤くみずみずしい苺を、甘くとろけるジャムへと作り上げるのも、余さずそっくり食べるのも、義勇一人。それがうれしい。火傷しそうに熱いけれど、ひたすらに甘く抱かれる夜が炭治郎は好きだ。
 とはいえ、炭治郎はまだ若い。義勇だってまだまだ衰え知らずだ。たまには理性や自制心をかなぐり捨てて、激しく求めあう夜を過ごしたくなることだってある。ふたりの欲求がピタリと合致して、かつ、炭治郎が確実に休める日の前夜。それが絶対条件ではあるけれども。
 五日の夜がその日になったのは、至極当然の成り行きだっただろう。
 秋口には早くも決まっていた義勇の冬休み期間中の出勤スケジュールで、義勇が留守がちになるのはわかっていた。幼い弟妹達が炭治郎のお泊りを楽しみにしていたのも、しかたがない。今年も一緒に二年参りへ行こうと約束もしていたし、義勇の実家に新年のご挨拶に顔を出すのは恒例行事だ。となれば、炭治郎がベッドの住人になっても支障がない日は、自然と限られる。
 だからなんとなくそういう夜になるなら五日だろうなと、かなり前から思ってはいたのだけれども、問題が一つ。激しい夜を過ごしたあとが問題なのだ。
 満たされて、しばらくご無沙汰になってもいいかなとはなぜだかならず、いつもの優しい夜も堪能したいという気持ちに駆られる。この連休は、そんな炭治郎の望みを完璧にかなえてくれるはずだったというのに、ゼミ合宿のために絵に描いた餅になってしまった。しかもとびきりおいしいことが約束された、極上の餅である。
 惜しい。あまりにも惜しい。
 ため息がまたこぼれそうになるのをこらえて、箸を進めていると、一足先に食べ終えた義勇がようやく口を開いた。
「俺も連休中に出勤することになった」
「え? そうなんですか?」
 冬休み中に出勤した代わりに、連休は三日とも家にいると言っていたはずなのに、どうしたことだろう。
「不死川が弟たちと旅行するらしい」
「あぁ、代わってあげたんですか」
 なるほど。強面でたいへん厳しい数学教師が、実は弟妹想いの長男だというのは、つとに知られるところである。不死川も義勇同様に忙しいから、家族サービスもなかなかできないに違いない。この連休に休めるのは幸いだろう。
 義勇と不死川は表向きそれほど仲がいいわけでもないけれど、いがみ合っているわけでもない。マイペースが過ぎる口下手の義勇に、不死川は始終怒っているようだが、なんだかんだと文句を言いつつも世話焼きの血が騒ぐのだろう。義勇が時間を空けようとスケジュールを詰めていると手伝ってくれたり、出勤日を代わってくれたりもするらしい。
 今回の交代は、そんな不死川へのいつものお礼というところだろう。付け加えるならば、ゼミ合宿の参加が決定した炭治郎の罪悪感と落胆を、幾ばくかでも減らすためというのもあるに違いない。もしかしたらそちらのほうが比重は重いかも。
「楽しんできてくれるといいですね!」
「あぁ」
 ちょっと眉を下げた困り顔で笑った炭治郎に、義勇はおまえも楽しんでこいと、小さく笑ってくれた。