二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 幕間5 ~ エンナマルナへ ~

INDEX|11ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

 アニタとロッテニーナに連れられ、ジーナも話の輪に加わり、いつの間にかいつもの笑顔を取り戻している。
 
 ――今朝、何も話してくれなかったのは
 ――『邪気』のせいだったのかね……

 ――それとも
 ――あたし達には話したくなかったのか……
 ――アゴルは何か
 ――気付いているみたいだったけれど……

 変わらぬ愛らしい笑顔に眼を細めながら、ふと、そう思う。
 でなければ、

     『必ず、エイジュを連れて戻ってくる』

 あのような言葉を言い置き、娘を託して、一人――行ってしまったりはしないだろう。

 開かれた幌幕の向こうに広がる砂の大地……
 風に乗って微かに聞こえる、刃のかち合う音。
 深い藍色に染まる空には、いつもと同じく広がる、満天の星――
 ここで、皆を待つ。
 その決断に後悔はない。
 皆の意に沿う形になっただけで、自身の本心でもあるのだから……

 ――みんな……
 ――必ず無事に、戻って来るんだよ

 そっと、胸に手を当てる。
 瞳を伏せれば鮮明に、皆の一番の笑顔が瞼に浮かんでくる。
 ゼーナは浮かぶ笑顔に口元を綻ばせながら、絶えることのない笑い声に、耳を傾けていた。 

          *************

「離せっ!! このアマッ!!!」
 胸座を掴まれ、宙吊りの状態で、睨みつけてくる賞金稼ぎの男――
 足をバタつかせ、逃れようと剣を振り回し、渾身の力で手を引き剥がそうとしている。

 ――こいつが……
 ――『風』の能力と『毒』を使い
 ――イザークを捕らえた男……

 ――……カイダール
 
 近づく地面を見やり、身を捩り暴れ、体の自由を取り戻そうとするカイダール。
 その身に、『嫌な気配』を持つ黒い霞が、寄り集まって来ているのが、視える。
 カイダールの『能力』が、増幅されてゆくのが分かる。
 増幅された『力』に呼応するかのように――
 自身の『力』も、漲ってくるのが分かる……

 剣を振り回す手を、空いた左手で掴む。
 胸座を掴む手に更に力を籠め、もう一度、地を蹴り中空に身を躍らせる。
 漲る『力』に抑え込まれるかのように『感情』が、どこか片隅へと追いやられてゆく。
 凍り付く湖面のような『無情』が……満ちてくる――

 吹き荒ぶ風が土煙を巻き上げ、通り抜けてゆく。
 眼下に広がる、草木一つない荒れ地に叩き付けるように、エイジュはカイダールを投げ落としていた。
「クソがっ!!」
 身を翻し、苦も無く地に足を着け、睨みつけながら悪態を吐く、カイダール。
 その眼前に、音もなくふわりと降り立つエイジュの脳裏には何故か……昼間の出来事が、想いが――蘇っていた。
 
          ***
 
 ただ只管に真っ直ぐな地平線が、果てもなく続いている……
 遥か頭上から放たれる、強い陽の光が、皆の影を荒れた大地に落とし込んでゆく。
 地面の僅かな凹凸に車輪を取られ、左右に揺れる馬車。 
 幼い『気』が、自分へと向けられているのが分かる。
 迷い、躊躇い、疑問…………
 それらの感情が交じり合っているせいだろう、彼女の『気』は、さざめく波のように落ち着きがない。
 ……同時に、北の地に集まる気配が――
 じっとりと纏わり付くような『嫌な気配』が、濃く、強くなっているのも分かる。

 ――拙いわね……

 襲撃が近い……そう感じる。
 『あちら側』から何の伝えもないが、恐らく今日、夕刻――襲撃者たちはやって来るに違いない。
 『嫌な気配』……『邪気』と共に――
 今の『気』の状態のまま、ジーナが『邪気』と接したら、どうなるだろうか……
 占者とは言え彼女はまだ幼く、その『占者』としての経験値も、ゼーナと比べれば遥かに少ない。
 『邪気』を躱すことや撥ね退けることが、上手く、出来るのだろうか……
 それが出来なかった時――どのような影響が彼女に……今のジーナに、現れるのだろうか。
 ……不安は尽きない、だが、避けることも出来ない。
 
 馬車の中へ探りを入れる。
 ゼーナの大きく柔らかな気が、ジーナを包み込むようにしているのが分かる。
 ジーナの様子の変化に、彼女も気付いていたのだろう。
 アニタとロッテニーナも、ジーナを案じてくれている……

 ――これで
 ――解決出来れば、良いのだけれど

 心から、そう願う。
 彼らを護り抜く為ならば、この身など、どうなろうと構いはしない。
 だが、どれだけ覚悟を決めようとも、戦いの最中に措いては些細なことが――不確定な要素が、『命取り』になりかねない……
 ジーナは……
 同じ年の頃の子供と比べれば、聡明であり、とても、賢い。
 分を弁えてもいる……
 皆の戦闘中、余計な真似などしないだろうと思えるが――予断を許さない。

 ……もしも……
 もしも襲撃者が、『邪気』を取り込んでいたとしたら――
 その『力』を、使い熟せていたとしたら――
 どれだけ『能力』が強化されているのか、分かりはしない。
 万が一にも、己が敗けることなど有りはしないが、不測の事態は起こりうる。
 誰かの命が危険に晒された時、直ぐに救いに行けるのか、どうか……
 それが、戦いに参加しないジーナの身に、起こらないとは言えない――――

「あそこの岩場で、少し休憩を取る!」

 先頭を行くアゴルの声が、荒れ地の風に乗り流れてゆく。
 強い陽光を弾き、白く光る大きな岩が、視界に映る。
 移動の間、常となっていた一行の気の張りが、僅かに緩んでいくのが分かる。
 皆に、促さなければならない……戦闘の、気構えを。
 もう一度、話し合わなければならない……襲撃者への対策を――
 切に願う……
 事が起きるまでに、いつものジーナを取り戻してくれることを……
 もしも、それが叶わなかった時――
 ジーナを気遣ってやれる余裕が、あれば良いが……

 ――あたしに……

 ふっと、自嘲の笑みが浮かぶ。

 ――いけないわね……

 ジーナの不安定な『気』に釣られるように、己の『気』まで、安定を欠いているではないか。
 徐々に近づく岩場を見やり、今、自身に課せられている『役割』に措いて、『優先』すべきものは何であるのか――
 改めて胸に刻み込むように、指先をそっと、宛がってゆく。

     『優先すべきは皆の命』

 そう、それこそが、今自分がここに在る、『理由』……

「あれ? 姉さん?」

 ガーヤの声に、馬車を見やる。
 幌幕から顔を覗かせるゼーナと、眼が合う。
 その表情の硬さに、彼女も『気付いた』のだと分かる。
 軽く頷き、中へと戻ってゆくゼーナ……
 二人のやり取りを見て、ガーヤも気付いたのだろう。
「……いよいよだね」
 呟くその表情は厳しく、引き締まってゆく。

 旋風が遠く……
 砂を巻き上げながら流れてゆく。
 自身に向けられた幼気な『気』を感じながら、エイジュは旋風の動きを、視界の端で追っていた。
 
          ***

 ゆっくりと……
 暗く沈んだ瞳を、カイダールへと向ける。
 視線が交わった刹那――
 警戒し、後退るその瞳に、少し……怯えの色が見える。
 解せぬのだろう。