ポケットに咲く花。
秋元真夏のMCで、本日は本当にどうもありがとうございましたと、深々と頭を下げる乃木坂46達……――。汗をかき、全てをやりきった彼女達の姿は、想像を絶するほどに気高いものであった。
改めまして、本日は本当にありがとうございました――と。再度、深々と頭を下げた乃木坂46達。スクリーンに最後に映し出されたのは、やるだけの事を全てやりきったように、小さく微笑む、遠藤さくらの笑顔であった。
会場中がバルーンスティックの太鼓音で重なり合う……。
アンコールを心待ちにするオーディエンス達……。
再び、紫色一色となる会場……。
スティックバルーンの止まないアンコール……。
様々な色のサイリュウム……。
『乃木坂の詩』が流れ、乃木坂46の十年というタイトルと共に、齋藤飛鳥のナレーションが始まる……。
懐かしい映像がVTRに映し出された。
秋元真夏、高山一実、樋口日奈、星野みなみ、和田まあや、生田絵梨花と、その想い想いのメッセージは、マイクのリレー形式で楽曲へと続いた。
その楽曲は、乃木坂46の原点でもある、『ぐるぐるカーテン』。
二十六曲目に、一期生だけの『ぐるぐるカーテン』が開始される。
衣装は黒のツアーTシャツと黒のスカート姿だった。いつの間にか、気が付けば、乃木坂46は全員で『ぐるぐるカーテン』を歌っていた。懐かしいあの頃の映像が、バックスクリーンに映し出されていた。
「みなみちゃんのトーク、感動したぜえ……」磯野は感慨深く言った。
「メンバーとの出逢いを語って、君の名は希望との出逢いも語ったね」稲見は頷きながら言った。
「ひなちまは、泣いてたなー……」夕は視線を優しくして、呟いた。
「そして始まる君の名は希望! でござるよぉ~!」あたるは感動している。「涙が出るでござるよぉ~!」
「改めて、名曲だなあと思ったよ」夕は柔らかく微笑み、頷いた。
「後ろのスクリーンに、昔の映像が流れててな。エモいよな!」磯野は鳥肌を立てながら言った。「うおっ鳥肌たったわ!」
秋元真夏からスタートされたトークは、高山一実へと続き、二期生との出逢いが語られた。続いて、マイクは新内眞衣へと移され、山崎怜奈、鈴木絢音、寺田蘭世、北野日奈子と続き、この曲と共に、新たな挑戦を続けてきたと彼女達は語った。
二十八曲目となるその楽曲とは『インフルエンサー』の事であった。
激しく踊るメンバー達を鼓舞するかのように、舞い上がる炎の演出がとても相応しく思えてならなかった。センターは三期生の与田祐希と、同じく三期生の山下美月である。実に貫録(かんろく)に溢れたダブルセンターの『インフルエンサー』であった。
楽曲が終わり、山下美月を始めとして、与田祐希に引き継がれたマイク。彼女は三期の加入を語る。そして、大園桃子へと、マイクを乃木坂のメンバー達で引き継いでいく。梅澤美波、久保史緒里へと、マイクはリレーし、最後には齋藤飛鳥が、その楽曲との出逢いを語った。
それは繊細(せんさい)で、美しい世界が広がった楽曲であると。
二十九曲目となる、その楽曲とされたのが、『シンクロニシティ』であった。美しく舞い踊る蝶のような乃木坂46達――。センターは梅澤美波である。なんとも繊細で美しく描写(びょうしゃ)された歌とダンスであった。
秋元真夏、高山一実、星野みなみは、沢山の出逢いや、別れを経験してきた事を語り、齋藤飛鳥、遠藤さくら、嘉喜遥香、生田絵梨花が、変わらないもの、変わっていくもの、それらを両方、愛しながら、見守っていてくれるとありがたいです。とそう語った。
三十曲目を飾る楽曲は、『他人のそら似』という曲だった。センターは齋藤飛鳥で、それは曲中に、様々な楽曲の印象的な振り付けが取り入れられている……。
秋元真夏はMCとしてアンコールへの感謝を語った。その先程の楽曲は、乃木坂46結成十周年を記念して制作された楽曲であり、ファースト・シングルから二十七枚目シングルまでの振り付けが全部、その一曲に詰め込まれている事が明らかになった。
与田祐希はこのグループに入って本当に良かったと語った。三期生は乃木坂の十年の、ちょうど半分の五年が経つと。与田祐希が涙ぐみ、声を詰まらせる感動的な一節もあった。齋藤飛鳥はいい歌多いなと語り、秋元康先生に、今後も良い詞を書いて欲しいと、楽しみにしていますと語った。
やがて、次の楽曲で最後だと告げられる……。いつもの『乃木坂の詩』ではなく、乃木坂46結成十周年を象徴とした歌であると。
最後となる楽曲は、『きっかけ』であった――。涙を堪(こら)えて歌うメンバーもちらほらとうかがえた。言うまでもなく、実に見事なまでの名曲であった。
やがて楽曲が終わりを告げると、秋元真夏はキャプテンとしてマイクを持ち、大きな節目にいる中、いっぱいの笑顔でライブを行えた事を感謝すると笑顔で語った。全てをプラスにかえる挑戦をしたいと、そう語った。そう語った秋元真夏は、微笑みながら、涙ぐんでいた。
本日は本当にありがとうございました――と、深々と頭を下げ、声を合わせる乃木坂46の一同。
すると次の瞬間、「十周年おめでとう」と書かれた、応援メッセージをかかげるオーディエンスの姿があった。
乃木坂46のメンバー達は大号泣する……。そうして、笑い、泣き、また微笑み、最後まで満面の笑顔で帰っていく乃木坂46の姿は、とても言葉では表し難い、とてつもなく尊いものであった。
6
二千二十一年八月二十八日。FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~第1夜にて生放送の収録を終えた乃木坂46は、今宵(こよい)何名かが、巨大地下建造物〈リリィ・アース〉に遊びに訪れていた。
巨大な空間を誇る地下二階のエントランス・メインフロアの東側のラウンジ、通称〈いつもの場所〉にて、乃木坂46一期生の高山一実と、同じく一期生の齋藤飛鳥、星野みなみ、別収録を終えて〈リリィ・アース〉に立ち寄った生田絵梨花、二期生の新内眞衣、三期生の与田祐希と、同じく三期生の山下美月、四期生の賀喜遥香と、同じく四期生の遠藤さくらが、疲れ切った身体を休めながら、談笑に花を咲かせていた。
乃木坂46ファン同盟からの参加者は、風秋夕と稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、駅前木葉の五人であった。今晩は皆勤賞である。
「かっきーのセンター最っ高!」夕はとびっきりのウィンクで遥香に微笑んだ。「んもう何百回でも叱って!」
「ああー、ありがとう」遥香は苦笑した。
「でもかっきーっぽいよね、今回のシングル」絵梨花は皆を一瞥しながら言った。
「あのね、私、本っ当に、かっきーがセンターで良かったな、て思ってる」一実は持ち前の笑顔で言った。
「ありがとうございます」遥香は恐縮して一実におじぎした。
「本っ当に思ってるの」一実は改めて、遥香に優しく微笑んだ。「賀喜ちゃんのの笑顔って、凄く、みんなを魅了する笑顔だと思うから。これからも頑張ってほしい」
賀喜遥香は恐縮して、「ありがとうございます」と言葉を返した。
「君に叱られたのさ、出だし、かっきーの最初の困った顔で始まるとこがっ、ん最っ高!」夕は思い出しながら興奮気味に言った。「なんか困った顔でキョロキョロしてんじゃん、」最初」