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ポケットに咲く花。

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「やーめーなってー」遥香は、今日これで何度目かの溜息を吐いた。

       7

 乃木坂46二期生の寺田蘭世が、二千二十一年九月十七日に、乃木坂46の公式ユーチューブ・チャンネルに投稿された最新シングル『君に叱られた』の特典映像「ドキュメンタリー・オブ・ランゼ・テラダ」の先行動画内で、乃木坂46からの卒業を衝撃発表した。
 無慈悲なまでの真夏の熱気もようやく終局に向かってきた頃、〈リリィ・アース〉の地下二十二階の〈プール〉にて、乃木坂46の二期生である寺田蘭世と、同じく二期生の山崎怜奈、四期生の松尾美佑、弓木奈於、卒業生の堀未央奈が、夏の終わりの風物として日頃酷使(こくし)している身体を安めに訪れていた。
 乃木坂46ファン同盟からは風秋夕と姫野あたると駅前木葉が参加していた。
 尚、女子達は全員が、水着の上にTシャツと短パンを着用している。男子達は長めのハーフパンツ・スタイルの海水ズボンであった。
 寺田蘭世はゴムボートの上にうつむけに横になり、水面にぷかぷかと浮いている。
「ねえ蘭世ぇ、浮いてるだけで楽しい?」未央奈は大きな瞳を不思議そうに見開いて蘭世を見つめる。「泳がないと、ダイエットにもならなくない?」
「んー、だってさあ、だってここ、サメがいそうなんだもん」蘭世はひょこっと水面に顔を出して言った。「うちにはちょっと深いし」
「こっちちょうどいい深さだよ?」少し離れた場所から怜奈が言った。
「だって」未央奈はまた蘭世を見つめる。「誘ったのそっちじゃん」
「いや、もっとみんな来ると思ってたから」蘭世は考える。「んー……、サメ、いない?」
「いなぁいよ、っふふ、なにぃ? サメって」未央奈は吹き出して笑った。
 現在、この屋内プール施設〈プール〉には、乃木坂46の『ブランコ』が流れていた。
「誰が一番遠くまで、息継ぎ無しの潜水でいけるか、やるでござるか?」あたるは女子達の顔から下を見ないようにして、ぎこちない表情で言った。「小生、意外と、強いでござるよ!」
「俺なんて潜水のななの次に潜(もぐ)れるぜ?」夕は自信ありげに微笑む。「やるなら何か賭けようよ、簡単な罰ゲーム、とかさ」
「えー、何がいい?」奈於は顔色を窺(うかが)う。「みゆちゃんは何がいい?」
「えー……」美佑は少しだけ考えて、言う。「ここって何でもただだからなー……、おごり系は、ないよね」
「罰ゲームでしょ? じゃあさ」怜奈は笑顔で提案する。「罰ポイントつければ? とりあえずそれでいいんじゃない?」
「あの、それって私も参加でしょうか?」駅前は困った顔で五人に言った。「中学生の時に溺れていらい、泳げないのですが……」
「じゃあ木葉ちゃんはジャッジして」怜奈は駅前に微笑んだ。「審判ね、木葉ちゃん」
「ほら~、あっち遊んでるよう?」未央奈は蘭世の乗るゴムボートを揺らす。
「ちょ、やめてやめて! わかったから!」蘭世はそう叫んでから、一息ついて未央奈を見つめる。「美央ちゃんが偶然リリィにいたから誘ったんだよ……。無理に、とは言ってないでしょ?」
「蘭世と遊びたーいー」未央奈はくすくすと笑いながら、蘭世の乗るゴムボートを両手で揺らした。「落とすよ」
「わーかった、わかったから!」揺れが落ち着くと、蘭世は溜息をついた。「せっかくまだシャツが濡れてないのに……」
 プールの中央にて、左から、弓木奈於、松尾美佑、風秋夕、姫野あたると並び、その右隣(みぎどなり)に駅前木葉が審判として構えていた。
「行きますよ、よーい……スタート」駅前は激しく水面を叩いた。
 風秋夕は一番乗りで素早く水中に潜った。間一髪後れて、姫野あたるも水中に潜る。
少しためらって、松尾美佑が続いて水中に潜った。弓木奈於は最後までためらってから、ようやく水中に潜る。
「あれ?」未央奈は、景色を見て驚いた表情を浮かべる。「木葉ちゃんだけになっちゃった……」
「え、みんなはどこ?」蘭世もそちらを向いて驚く。「え何でいないの?」
「ぷっはあ!」奈於は水面から顔を突き出して深く呼吸をした。「あー、負けたあ!」
「わ、急に出てきた」未央奈は笑う。
「あ、潜ったのね」蘭世はほっとした。「サメに食べられたのかと……」
「ぶあ!」
 続いて、姫野あたるが水面から顔を突き出した。
「ん?」あたるは周囲をきょろきょろとする。「弓木ちゃんだけ、でござるか?」
「はい」奈於は苦笑で返事をした。
 少ししてから、松尾美佑が勢いよく水面から顔を出した。
「はぁ、はぁ~、あれ?」美佑は辺りを見回す。「夕君は? まだ?」
「まだです」駅前が答えた。
「蘭世ちゃーん! 未央奈ちゃーん!」
 少ししてから、ゴムボートの真横から突如として、水しぶきを上げながら顔を突き出した風秋夕に、寺田蘭世と堀未央奈は短い悲鳴を上げた。
「もー!」蘭世は夕の肩をぶった。「脅かさないで」
「心臓に悪いから」未央奈は苦笑する。「ねーやめて」
「はい罰ゲーム誰よ?」夕は顔の水滴を手の平で拭(ぬぐ)いながら、駅前に大声で聞いた。
「弓木ちゃんです」駅前はそう言いながら微笑んだ。「一番は夕君、二番は美佑ちゃん、三番はダーリンでした」
「罰ゲーム、じゃなく、罰ポイントでござるよ、夕殿」あたるは平泳ぎで夕の方へと近づく。
「二十メートルぐらい潜ったか」夕はそう言ってから、蘭世と未央奈の方を見る。「星空って好き? プラネタリウム見る?」
「え?」未央奈は大きな眼を見開く。「ここで?」
「えプラネタリウム、できるの?」蘭世も眼を見開いて言った。「見たーい、かも」
「イーサン、プラネタリウムだ、今すぐに」
 風秋夕は高い天井を見上げて言った。すると間も無く、徐々に全ての照明が落ち、やがて完全なる暗闇を一瞬の刹那に、見事な星空がプラネタリウムと化した空間に広がった。
「うそー……」蘭世は星空を見上げて、しばし、固まった。
「え待って、え超キレイじゃん待って」未央奈も星空を見上げて感動する。
「わあ……」奈於は思わずそう呟いて、うっすらと笑みをこぼして星空を眺める。
 松尾美佑と姫野あたると駅前木葉の三人は、星空をよく観察する為に、一度プールサイドへと上がった。
 夜空に輝く無数の星座を眺めながら、そのまま、松尾美佑はプールサイド・チェアに座った。姫野あたるはプラネタリウムを見上げたままで、プールサイドにあぐらをかいた。
「感動する……」怜奈は、その発言が少し可笑しく感じて短く笑った。
「夕君、どうしてこんなに、女の子が喜ぶものを次から次へと用意できるんですか?」駅前は美佑の左隣にあったプールサイド・チェアに腰を下ろした。「お祭りだったり、生誕祭だったり、映写室だったり、ドリンクやフードだったり、洋服や部屋まで」
「星が好きなんだよ」夕はにこやかに駅前に答えた。「星を見て感動する乃木坂が好きなのかもしれないけど」
「あんがい、単純なものなのかもしれぬでござるなぁ」あたるは星空を見上げながら誰にでもなく言った。「自然は、例えそれが疑似的なものだったとしても、人の心に余裕をくれるでござるよ」
「あ、流れ星」蘭世は声に出して言った。「たまーに、流れ星ある」
作品名:ポケットに咲く花。 作家名:タンポポ