ポケットに咲く花。
「ここいらでみんな、ポトポトポットスでも食べる?」夕は皆に言う。「大人はお酒でも吞んで、ティーンはジュースでも飲んで、少し休憩しようか」
「あ、じゃあテーブルあるから」未央奈はプールサイドのテーブルを指差して言った。「座ろ?」
八人はプールサイドの大型テーブルに腰を落ち着けた。風秋夕が近くの〈レストラン・エレベーター〉に電脳執事のイーサンに注文したドリンクとフードを取りに行った。
大型トレーに載せて、風秋夕はビッグサイズのポテトチップスと、松尾美佑のサイダーと、弓木奈於のアサヒ・ザ・リッチと、寺田蘭世のパフェと天然水と、堀未央奈のアサヒ・スーパードライと、山崎怜奈のクリア・アサヒと、姫野あたるのキリン・氷結レモンと、駅前木葉のアサヒ・スーパードライと、己の注文したアサヒ・ザ・リッチを皆の待つ大型のテーブルへと運んだ。
大型のテーブル付近だけ、幾つかのシーリングライトで照らされていた。
堀未央奈の掛け声で、八人は乾杯を済ませた。
プラネタリウムは、夜空の星々を見事に反映させている。
「ポトポトポットスだよ、なっつかしい」夕は悪戯っ子の様な笑顔で皆に言った。「四期わかる? ポトポトポットス」
「わかるー」奈於は笑顔で答えた。「ポテトチップだよね?」
「お見事!」あたるが拍手した。
「チョンチョロリンは?」夕は四期生の二人に言う。「わかる?」
松尾美佑は考えながら、小首を傾げた。
「あれ、何だっけな……」奈於は顔を歪める。
「あれだよねえ?」未央奈が言う。「ヘアゴムだっけ?」
「お見事!」あたるは大喜びで拍手した。
「じゃあ、最後の問題」夕は皆に微笑む。「チャッスは? な~んだ?」
「やめてほんと、ほんとごめんなさい」蘭世はたまらんぜとばかりに苦笑する。「うちの家族がおかしいの」
「わかんない?」夕は四期生の二人に微笑む。
「チャック?」奈於は閃(ひらめ)いた顔で答えた。
「ブブー、違うんだ」夕は楽しそうに微笑んで言う。「れなち、答えは?」
「お茶」怜奈は微笑んで言った。蘭世を見る。「だよねえ?」
「そう、ごめん」蘭世は苦笑を強(し)いられる。「あ……」
「あ。ふふ、ごめんなさい、なんか」未央奈は照れ笑いを浮かべる。
現在〈プール〉には堀未央奈の歌う『冷たい水の中』が流れている。
「え、今日って、九月?」蘭世は皆の顔を見る。「何日だ?」
「十八日です」駅前が答えた。「そろそろ、皆さんがシブヤノオトに生出演してる頃ですね。新曲を歌っている頃ですよ」
「君に叱られた、でござる!」
「この時間、今生出演してるのは、確か、かずみんと、飛鳥ちゃんと、与田ちゃんとかっきーとさくちゃんだな」夕は指折り数えて言った。「歌自体は収録済みだと思う」
「ポトポトポットスちょうだい」怜奈は未央奈の近くにあるポテトチップスに手を伸ばして言った。「まだ、家でポトポトポットスって言ってるの?」
「わかんない」蘭世はパフェを中断して、苦笑する。「たまーに、聞くかも」
「あー……、ビール美味しい」未央奈は皆を一瞥して言った。「やぱ、こうしてグラスに入れて呑むと、より美味しいよね」
「わかります」奈於は笑顔で未央奈に同意する。「全然違いますよね」
「全然ちがーう」未央奈は可愛らしく言った。尚、自覚は無い。
「あれですよね、怜奈さんは、何呑んでも同じですよね」美佑は面白がって言った。
「みゆたん」怜奈は眼を白黒させて苦笑する。「どういうふうに思われてるわけ? 私は」
「ポトポトポットス食べますか?」奈於は笑みを浮かべて怜奈に言った。
「弓木」怜奈は苦笑する。「何なの、あんた達」
「いじられてる」蘭世は苦笑した。
「なめられてるよ、れなち」未央奈は微笑んで、ポテトチップスを小さく齧(かじ)った。「頑張れ、二期生」
「がんばろう?」蘭世は未央奈を一瞥して言った。
「しかし、蘭世ちゃんが卒業とはね……」夕は片手で前髪をかき上げながら、蘭世を一瞥して言った。「アンダーライブでセンターやってくれたのが、ついこないだの様にも思えるけど……。時間経ってんだよなぁ」
「ううー、思い出さないようにしてたのに、でござるのに……」あたるは顔をしかめた。
「ほら、始まりがあれば、終わりもあるから」未央奈は真剣な眼つきであたるに言った。
「イーサン、ブランコをかけて下さい」駅前は空間を見上げて、唐突に言った。
了解いたしました――と、電脳執事のイーサンのしゃがれた老人の声が応答すると、すぐに流れていた音楽が中断され、寺田蘭世をセンターとした乃木坂46の楽曲『ブランコ』が流された。
「泣くでござるよ!」あたるは駅前に言った。
「泣かないで」蘭世は弱々しくあたるに言う。「うう、うちも泣きそうになるから……」
「泣いちゃいな、泣きなよ」未央奈はポテトチップスを食べながら適当に言った。
「八年、ですね」駅前が言った。「長いようで、一瞬の月日でした……」
「八年間は決して短くないでござる」あたるは顔をしかめたままで言った。「小1の子が、中2になるでござるよ」
「中学生だったね、蘭世」未央奈は蘭世を見つめながら言った。
「子供だった」蘭世は、パフェを中断して言った。「でも、心構えというか、なんか、気持ち的なところは、最初っから変わってない気がする……」
「はっきりした性格だったよね」未央奈は微笑んで言う。「今もか」
「そうはっきりしてるの」蘭世は頷いた。「昔っから、はっきりしてるんですよ。嫌な事は嫌―って言っちゃうから。ふふ、子供なの」
「1たす1は、2だなんて誰が決めたんだって、今でも思う?」夕はにやけて、テーブルに頬杖をついて、蘭世を見つめた。
「1たす1は百だよ」蘭世はそう言って笑った。
「えー、先に行っちゃうの?」怜奈は悲しそうに笑う。
「ごめんね」蘭世は小さく小首を傾げて、また笑った。「先に行きます」
「嫌でござるよ!」
「うぅる、せえな、お前は……」夕は嫌そうにあたるを見る。
「はっはっは、ダーリン面白い」未央奈はにこやかに言った。
「蘭世ちゃんをリスペクトした方がいいよ」夕は四期生の二人に微笑んだ。「こんなに真っ直ぐな人も、なかなかいないからね~」
「尊敬してます」奈於は恐縮して言った。
「もう、憧れです」美佑は笑顔で言った。
「ありがとうねぇ」蘭世は微笑む。
「ねえポトポトポットスもうないよ?」未央奈が言った。「どうする?」
「小腹減ったな……」夕は皆に提案する。「カップスターでも食べる?」
「おお、そうでござる。今日昼にカップスターを食べた時」あたるは美佑を見て微笑んで言う。「ふたを見たら、カップスターを食べながら聴きたい乃木坂の歌は? という問いかけに、ミュウ殿が答えていたでござる。夕殿、わかるでござるか?」
「逃げ水だろ?」夕は微笑んで答えた。「俺が何食カップスター食ってると思うよ?」
「蘭世ちゃんは、箸(はし)が止まらんぜ、でござるよ」あたるは得意げに言った。
「れなちさんは、また会いましょう、ですね」駅前は赤面しながら発言した。「未央奈さんは、箸君で食べてね、です」
「あれ、未央奈ちゃんって、スープは飲む派? とかじゃなかったっけ?」夕は思い出しながら苦笑して言う。「何パターンかあるか」