ポケットに咲く花。
「じゃあ、一応」祐希も笑みを浮かべて頷いた。
「まあやもやる」まあやはそう言ってから、ドリンクを一口飲んだ。「てやり方わっかんないけど。教えてくれるんでしょ? え誰、が知ってるの?」
「何でかやる方向に行ってんな……」夕は小さく呟いた。「まあ、これもラッキーか」
「俺が教えてやんよ」磯野ははりきってまあやに言った。
「ややこしくなるから、説明は俺がしよう」稲見は冷静に説明を買って出た。「まず、割り箸がここに、十一本、用意されてるよね。この一つに、赤いマジックで、王様、と書いてある。他の十本には、黒いマジックで、一から十まで、一本ずつに数字が一つずつ、書いてある。ジャンケンをして、王様を決めた後は、王様が命令を出せる。何番が、何番に、何々をする、というふうにね」
王様ゲーム。まずは人数分の割り箸を用意する。そのうち一本に、マジックで王様と書き込む。残りの割り箸には、①から順番に数字を記入していく。
ジャンケンで王様を決めたら、王様が数字を使い、「何番が何番に~をして下さい」と命令ができる。命令を受けた番号を持っている参加者は、王様の命令通りに行動しなくてはならない。というゲームである。
「接吻はエヌジーね」一実は笑いながら言った。
「せっぷん?」磯野は首を傾げる。「て何だ?」
「キスだよ」夕は驚いた顔で磯野に説明する。「お前、時代劇とか観ないの? せっぷん、ていうだろ、キスのこと」
「禁止なのかよ!」磯野は興奮する。
「シカトかこら!」夕も興奮した。
「いや当たり前でしょ~」一実は笑う。「遊びだから、遊び。ね」
「さくちゃんそれでいいんか?」磯野はソファから立ち上がって、急にさくらに言った。
「え?」さくらは面食らう。「は、い……。え何が?」
「かっきーはキス無しでいいんか?」磯野は強く遥香を見つめる。「それでいいのかよう!」
「いいに決まってんでしょ」遥香は溜息をついた。「早く、やりましょ」
「じゃあ、やりますか」夕は緊張してきていた。「ジャンケンね。じゃ~んけ~ん……」
ジャンケンの結果、王様に選ばれたのは寺田蘭世であった。
稲見瓶は、改めて寺田蘭世にゲーム内容を説明した。
「えー……、じゃあ、六番と八番がぁ……、九番にぃ……、秘密を打ち明ける」蘭世はそう言って、きょろきょろとする。「だあれ?」
「え、八番……」日奈子は眼をまんまるにして割り箸を見せる。「えー私ぃ? 秘密ぅ?」
「あと誰ぇ?」一実は皆を見回す。「あ、夕君?」
「六番みたい」夕は苦笑した。「秘密かぁ……」
「意外と面白いね」七瀬はくすっと小さく笑った。
「九番、です……」祐希は眼を白黒させながら、小さく挙手(きょしゅ)をしていた。
「えー秘密ぅ? え、みんなに聞こえなくていいの?」日奈子は蘭世にきく。
「どうしよっか」蘭世は一実を見る。「え、どうしたら、いいですか?」
「あれじゃない? 九番に選ばれた人は、特別なんだから、特別だから、あれじゃない九番だけの方がいいんじゃない?」一実は蘭世に答えた。
「じゃ、そういう事で」蘭世は微笑む。
「じゃあ、私から」
北野日奈子は、ソファの後ろ側へと回って、与田祐希の後ろ側へと移動した。そしてにやにやとしながら、与田祐希の耳元で囁(ささや)く。
「うちには、ドレッシングが二種類あるんだけど……、一つは、ママのドレッシングで、もう一つは、かあちゃんのドレッシングっていうんだけどね。むふ、……ママのドレッシングは、ちょっと酸味が効いたもので、んふっ……かあちゃんのドレッシングは、にんにくが効いたドレッシングなの」
北野日奈子は「はい!」と笑顔で秘密の暴露(ばくろ)を終えた。与田祐希は「そうなんだ!」と驚いている。
ざわつく中、次に風秋夕がソファの後ろ側へと回り、与田祐希の後ろへと移動した。
風秋夕は短く深呼吸してから、与田祐希の耳元まで寄ろうとして、「はああ、いい匂い!」と興奮し、磯野波平と姫野あたるにブーイングをもらった。
改めて、風秋夕は与田祐希の耳元で秘密を囁く……。
「波平の背中なんだけどね、実はタトゥーが入ってて、眼の絵が入ったピラミッドを持ってる女神が彫られてるんだけど、眼ぇつぶった顔がどことなく飛鳥ちゃんに似てるんだよ」
風秋夕は与田祐希にウィンクをして、秘密の暴露を終了とした。与田祐希は「へー、そうなんだ」と唸(うな)っている。
「えー何だろう……、何言ったんだろう?」一実はにこやかに微笑む。
「これ、全員に聞かせるべきだったかも」蘭世はそう言って苦笑した。
「ちょっとだけ聞こえた」遥香は誰にでもなく微笑んだ。「タトゥーが、どうのこうのって……。あと、ドレ、ッシング? がどうたらこうたら、とか」
「聞こえてんじゃん!」日奈子は満面の笑みで遥香を指差した。
「お前タトゥー秘密じゃねえの?」磯野は笑って夕に言った。
「秘密だよ」夕は笑顔で、口元に人差し指を立てた。
王様ゲーム第二回戦。ジャンケンで王様に選ばれたメンバーは、和田まあやであった。
「えーなんだろう、なんか、じゃあ……、一番、があー……、十番、にい……キス」まあやはきょとん、とした顔で言った。
「十番売ってくれ!」磯野はソファを立ち上がる。「全財産で俺に売ってくれよぉ!」
「いや、まあや、キスはエヌジーううるっせえなクソガキっ!」夕は騒ぎ散らす磯野に憤怒してから、またまあやに優しく言う。「キスはダメだよ、したいし、してほしいけどさ」
「だよね」まあやは微笑む。「うそうそ。えーとねえ、一番があー……、十番にい、愛の告白をする」
「一番は?」一実はきょろきょろとする。「ああー、与田ちゃーん!」
「二回目」七瀬は笑った。
「二回目……」祐希は苦笑しながら、小さく手を上げていた。
「十番誰よ?」夕は素早く皆の顔を確認する。「誰?」
「ううん、三番だよ」日奈子は夕に言った。
「八番」遥香も夕に言う。
「七番です」さくらも夕に言った。
風秋夕は咄嗟(とっさ)に姫野あたるを確認する。姫野あたるは「小生は四番でござる」とつまらなそうに呟いた。磯野波平は「十番売ってくれえ!」と騒いでいる。
風秋夕は稲見瓶を確認する。「うおっ!」と思わず声を上げた。稲見瓶は十番の割り箸を皆に見せながら、小さく挙手をしていた。
「イナッチ~!」一実は驚く。「よおく乃木坂と乃木坂にならなかったねー、すごーい」
「告白だよ、与田」美月は巨峰を食べながら祐希に微笑んだ。「イナッチだって。がんばれ」
「えー、どうし、どうすればいい、の?」祐希は困(こま)り果(は)てている。
「あー、じゃあね、愛してる、て言えばいいよ」まあやは祐希に言った。
「えー!」祐希は口元を両手で隠して、困り顔である。「えー、本当、ですか? 本当に言わなきゃダメですか?」
「だーめでしょう」まあやは一実達を一瞥する。「ずー、どうなの?」
「いやー」一実は苦笑する。「まー、私はどっちでもいいけど、企画的にはね、言った方がいいんじゃない?」
「祐希、がんば」七瀬は苦笑して言った。
「んふー」祐希は困って泣きそうである。
「でもイナッチですよ」遥香は祐希を覗き込んで言う。「この中じゃ一番、まともじゃないですか?」