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ポケットに咲く花。

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「それってどういう意味?」夕はテンションを下げて遥香を見つめる。それから、稲見を見る。「こいつがあ? うおっ!」
 稲見瓶は、誰が見ても一目でわかるほどに、無言で赤面していた。
「やる気満々だね」一実はその場を楽しんで微笑む。「イナッチにも感情があるんだねー」
 与田祐希は困り果てている。
「いいじゃん言っちゃいなよ」日奈子は他人事のように言い放った。実際に他人事である。
「ええー? んんー」祐希は、稲見を一瞥した。稲見は眼を反らした。
「イナッチ頼む! 売ってくれ!」磯野は稲見に向かって大騒ぎする。「車買ってやるよ! なあいいだろ? なあおい!」
「小生も一生のお願いを行使するでござる!」あたるは稲見を覗き込んで叫ぶ。「イナッチ殿、ここはどうか、この小生に!」
「あげないよ」稲見は、磯野とあたるを一瞥もせずに言った。「提案があるんだけど」
「なに?」まあやは見つめてきた稲見を見つめ返す。
「俺が愛の告白をしよう……」稲見は眼鏡の位置を直して、まあやにそう言った。「与田ちゃんに、俺が言うよ。困ってるからね、かわいそうだし、この十番というチャンスを捨てる気もないし。だから、俺が言おう」
 与田祐希は泣きそうな顔で、稲見瓶を見つめる。稲見瓶はその視線に気が付いて、にこり、と不器用に微笑んだ。
「男らしいじゃーん」日奈子は笑顔で稲見を茶化した。
「イナッチが告白するの?」蘭世は小さく拍手していた。「え、それ、見たいかも」
 稲見瓶が、与田祐希に、愛の告白、である。
「あ、あ……」稲見はがちがちに緊張して、祐希を見つめる。
 与田祐希も緊張を感じながら、苦笑して、稲見瓶を見つめ返していた。
「愛してる……」稲見はそう言ってから、素早く祐希から視線を外した。「こんなこと、与田ちゃんにはやらせられないよ。かなり、精神的に上がる……」
「上がってんじゃん」夕はけけらと笑った。
「このゲーム、怖い……」
与田祐希は顔をしかめて、誰にでもなく小声で囁いた。

       9

 現在このフロアを彩っている楽曲は、モニカのR&Bサウンド『ビフォー・ユー・ウォーク・アウト・オブ・マイ・ライフ』である。
 王様ゲーム第三回戦。ジャンケンで王様に選出されたのは、北野日奈子であった。
「んー、とね。えー、何だろう何がいいのかなぁ……」日奈子は男子達の方を見る。「普通ってどんな感じなの? 王様の人は、どういう事を命令するの?」
「キスだな」磯野は即答する。
「ややこしいから黙ってろ」夕は気持ちを一新して説明する。「普通は、ポッキーゲーム、ていって、ポッキーの両端を二人でかじって、短くしていって、最後にそのままキスする、みたいな」
「キスじゃねえか!」磯野は興奮する。
「だーから、別にキスまでいく奴らは実際には少ないんだってば」夕は嫌そうに磯野に言って、日奈子を見る。「もう無理、てところで途中で折って大丈夫」
「じゃあ、二番と、五番が、それ。ポッキーゲーム」日奈子は無邪気な笑みを浮かべた。
 皆は各々の番号を確認して、周りの番号も確認していく……。
「二番、だれ?」夕が言った。「お」
「はぁい……」美月が小さく手を上げていた。「二番なんだけど」
「五番……」祐希は苦笑して、小さく手を上げた。「また私ぃ……ふぅーん」
「また?」七瀬は少し喜んで言う。「凄いねぇ」
「与田ちゃんと美月ちゃんのポッキーゲーム?」夕は興奮を抑え込んで眼をむいた。「マジか……。最後まで行くのかな~?」
「いや行かない行かない。行かないでしょ、普通に」美月は頬に笑窪を作って微笑んだ。
「えポッキーを、くわえるの?」祐希は夕に視線を向けて言った。夕は「そう」と頷いている。「えー、……ほんとにぃ?」
「ヤバいよね」美月は落ち着いた様子で苦笑しながら、祐希を見つめた。「え、できる?」
「できる、けど」祐希は日奈子達を一瞥する。「え、拒否権、有りですか?」
「無しー!」日奈子は両腕でばってんを作って笑顔で言った。
「ユリ、でござるな」あたるは呟いた。
「あ?」磯野はあたるを振り返る。「何か言った? お前」
「いや、ユリでござろう、だから」あたるは赤面しながら言い直した。「女の子同士で……、あれでござるよ、つまり、その……」
「説明しなくていいぞ、ダーリン」夕はくすっと笑った。
「BLの逆、みたいな」蘭世は磯野に言った。
「BLって?」磯野は顔をしかめる。「ビーエル?」
「説明しなくていいよ、蘭世ちゃん」夕は蘭世に笑顔で言った。磯野は喚(わめ)いている。「この世間知らずを野放しにしておこうぜ、面白いから」
「はい。じゃあ、やって」日奈子はポッキーの入ったワイン・グラスを二人の前に押し進めた。「いいよ」
「えー本当にやるんですか?」美月は眼を見開いて日奈子を見る。「誰か、得します?」
「得するメンバーはここに四人いるよ」夕は親指で男性陣をさして笑った。
「本当に?」美月は溜息を吐く。「マジか~……」
「途中で折って、いいんですよね?」祐希は日奈子に確認する。
「うん折っていいよ」日奈子は笑顔で言う。「でもなるだけね、長くがんばってね。ほら、王様の命令だから、んふふ」
 山下美月と与田祐希は見つめ合う。お互いが緊張した様子で、苦笑を強(し)いられていた。
 現在このフロアにシリアスであり、親密なムードを醸し出している楽曲は、ウィズ・カリファ・フューチャリング・チャーリー・プースの『シー・ユー・アゲイン』である。
「あははは、これ凄い、見物だなー」一実は楽しそうに笑った。
「与田ちゃんファースト・キスは俺にしとけよ!」磯野は真剣に叫ぶ。
「美月ちゃん、相手を俺にしたってかまわないんだよ?」夕は面白がって叫んだ。
 山下美月は、ぱく、とポッキーの端っこを口に咥えた。
 一方、逆のチョコレートの先っぽの方を、困り笑いを浮かべている与田祐希が、観念して口に咥えた。
「おお~!」
「わあ~」
 歓声が上がる。
「ヤバい絵ずらだなおい!」磯野は興奮を隠せずに、その場を立ち上がっていた。「ちゅうする距離じゃねえかすでにもう!」
「いやあ、ヤバいものを見てる気がしてきた……」夕は眼を反らせずに、二人に視線を張り付ける。「おおお、動いたぞ!」
「こんなのいいでござるか!」あたるは両手で眼を隠しながら、隙間から凝視する。
 山下美月は、少しずつ、ポッキーを食べていく……。その眼は、与田祐希を見つめていた。
 与田祐希は、ゆっくりとポッキーを齧(かじ)りながら、山下美月を見つめられないでいる。
 山下美月は、ポッキーが半分まできたところで、更に微笑んだ。
 与田祐希は耐え切れずに、といったふうに、ポッキーを折って、その場から唇(くちびる)を脱出させた。
「おおおー!」
 また歓声が上がった。
 フロアにジャクソン・ファイブの『アイ・ウォント・ユー・バック』がかかる。
「ふふーん」祐希は苦笑で唸(うな)る。
「っはあ、ヤバっ」美月も眼を大きくして言った。「超緊張する」
 その場に、自然と拍手が巻き起こった。
「やったじゃーん!」日奈子は喜ぶ。
「なんか、見てるこっちが緊張したし」蘭世は微笑んで言った。
「王様ゲーム、ありがとう。きいちゃんありがとう」夕は祈るような仕草で言った。
作品名:ポケットに咲く花。 作家名:タンポポ