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ポケットに咲く花。

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 風秋夕はマイクで叫ぶ。「今日の事も、いつかの思い出にしよう。さあ皆、グラスを持ってえ……。乾杯だ、かんぱーい!」
 今宵の東京は雨であったが、風秋夕の声に応えた皆の歓声は、晴れ渡る星空のように煌(きら)めき、光り輝いていた。風秋夕は心に思う、世界中よ、ハッピー・ハロウィーン。

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 二千二十一年十一月六日。乃木坂46真夏の全国ツアー2021ファイナル!東京ドーム公演配信ライブチケットが、ついに販売になった。
 駅前木葉は抑えられぬ興奮をその脚(あし)に反映させながら、どたばたと〈リリィ・アース〉地下二階のメインフロアを駆け抜ける。
 チケットの抽選にもれ、もう半分は諦めかけていた。今は運営側の寛容な決断に涙さえ浮かべている。ありがとうございます、」ありがとうございます。何度も何度も、想いを込めて胸に内で反芻(はんすう)する。
 地下二階には乃木坂46の新曲『最後のタイト・ハグ』が流れていた。
「名曲ですね!」
 駅前木葉は稀にみる上機嫌で、通称〈いつもの場所〉にいる数名に叫び声を上げた。
 地下二階のエントランス、メイン・フロアの東側のラウンジにあるソファ・スペースに、乃木坂46一期生の高山一実と、同じく一期生の齋藤飛鳥と、二期生の寺田蘭世と、三期生の岩本蓮加と、同じく三期生の山下美月と、同じく三期生の与田祐希と、同じく三期生の梅澤美波と、四期生の賀喜遥香と、同じく四期生の遠藤さくらがいた。
 乃木坂46ファン同盟からの参加者は、風秋夕と、稲見瓶と、磯野波平と、姫野あたるである。駅前木葉を入れると、五人共が揃った事になった。
「おお、駅前さんじゃん。この曲な、新曲いいよな?」夕は駅前に片手を上げて挨拶代わりの会話をした。「最後のタイト・ハグ。今みんなで噛みしめてたとこだよ」
「木葉ちゃ~ん、お疲れさま~」一実は優しく微笑み、駅前に空いているソファを手をかざして指定する。「そこ、座りなよ~」
「かずみんさん、皆さん、こんばんは。では、お邪魔いたしますね」
 〈レストラン・エレベーター〉を背にした東側のソファには、二期生の寺田蘭世と駅前木葉が着席していた。その正面となる西側のソファには、一期生の高山一実、齋藤飛鳥、と着席している。南側のソファには、三期生の岩本蓮加、山下美月、与田祐希、梅澤美波、と四期生の賀喜遥香、遠藤さくら、と着席している。北側のソファには、風秋夕、稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、といったふうに着席したいた。
 現在この地下二階のフロア全域には、乃木坂46最新曲の『最後のタイト・ハグ』がリピート再生で流されていた。
 皆、食事を堪能している者、ドリンクを飲んでいる者、それぞれがばらばらであった。
「東京ドームの配信チケット、ゲットしました!」駅前は嬉しそうに胸に両手を当てて言った。「今回は、もう参戦できないんじゃないかと、本当に、もうあきらめかけていたんです」
「小生も泣けてきたでござる」あたるは眼を瞑って言う。「運営様、様様でござるよ」
「とにかく、これでみんなの努力の結晶と、乃木坂の今を垣間見れるってわけだ」夕は微笑みながら飛鳥を見る。「なんかさ、俺飛鳥ちゃんにプロポーズしちゃう夢見ちゃったんだけど」
「なに? きゅ~に」飛鳥は眼を白黒とさせる。「え、今ライブの話してたんでしょ?」
「いやこの曲聴きすぎたかな」夕はにこにこと苦笑する。「なんかさ、俺と飛鳥ちゃんの二人の間に、もう一人なんか女の人がいるんだよ。でもね、結局、俺が飛鳥ちゃんにプロポーズして、その勢いで眼が覚める、ていうね。おち」
「なんだそれ」
 齋藤飛鳥と磯野波平は、同じフレーズを同じタイミングで同じように発声した。
「おお、気ぃ合うな、飛鳥っちゃん」磯野はにやける。
「なんかね、一緒だったね、今」飛鳥は苦笑する。
 それぞれが幾つかのグループに分かれて、会話はされていた。
「イナッチ、昨日告白されてたろ? 大学で」夕は面白がって稲見を見て言った。
「ん?」稲見には思い当たらない。「告白?」
「されてたろ、声聞こえてたぞ。付き合ってる人っているんですか? とか、きかれてたろ? どんなタイプが好きなんですか、とか」
「ん、ああ。うん、そうだね」稲見は頷いた。
「夕君達の大学ってどこなの?」一実は興味心を表情に出してきいた。
「早稲田(わせだ)だよ」稲見は無表情で答えた。「通える範囲で、早稲田が一番効率が良かったからね」
「夕君も?」一実は驚いたように夕を見つめる。
「慶応(けいおう)ボーイに見えたでしょう?」夕はにこやかに言った。「早稲田だよ。イナッチと一緒に、将来の夢を見た時にさ、二人で決めたんだ。移動とか、時間は少しでも削って、夢に集中しようって」
「へー」一実は感心する。
「それよりさ、イナッチだよ。告白されてる時にさ、好きなタイプきかれて、答えたのが」夕は、一実を片手を鉄砲のような形にして指差した。「高山一実さん、だって! お前じゃ無理だって主張しすぎだろっ、レベチじゃん」
「え」一実は眼を見開いて、稲見を一瞥した。「そうなの、イナッチ」
「……。まあね」稲見は、眼鏡の位置を修正しながら答えた。
「けっこう可愛い子だったから、イナッチ付き合っちゃえばよかったのに」夕は稲見を一瞥して言った。「何がダメだった?」
「別に。ダメなところなんてないよ」稲見は夕を一瞥して答える。「ただ、今はもう恋愛中だからね。乃木坂に」
「誰と!」磯野は興奮して稲見を睨みつける。「誰とだてめえ! こらぁ! マジか、ガチなんか!」
「いやいや、ファンやってます、て意味だろ普通に……」夕は嫌そうに磯野に言う。「ガチなの? ガチで馬鹿なの? 天然なの? お前って……」
「んだよ、驚かしやがって」磯野は溜息を吐いた。
「イナッチの推し、て、かずみんだったの?」飛鳥は稲見の顔を覗き見るようにして言った。
「推し? 推しだけどね、俺は箱推しだよ。誰が、という事はない」稲見は飛鳥に、微笑んで頷いた。「乃木坂が乃木坂じゃあなかったら、という想定で、ふと理想の女性に思ったのが、かずみんだった。ということ」
「あ~あ」飛鳥は大きく納得した様子だった。
「嬉しい、かも」一実は笑顔で言った。
「でもね、恋は乃木坂の全員にしてる」稲見は微笑んだ。「欲張りになる事にしたんだ。乃木坂を箱推しになった、その時にね」
 一方、こちらでは……。
「乃木坂で、可愛いといったら? でござるか?」あたるはそう言ってから、顔をしかめて考え込む。「うーん……、ざっとここに並んでいるメンバーだけでも、充分可愛いのトップでござろう」
「誰?」美波はにこやかにあたるにきく。「与田? さくちゃん? かっきー?」
「いやいや、レースでも始める気でござるか梅ちゃん殿」あたるは驚いた顔をする。「一番はないでござろう。それこそ、久保ちゃん殿が昔言っていたでござる。一番は、決めなくていいんだよと。一番がいっぱいいてもいいのだと。ならばみんなが一番でござる」
「印象のことだよ、そうゆんじゃなくて」美波は面白そうに言った。「私だったら、しっかりしてそうとか、よく言われるんだけど。そういう事。別に一番とかじゃなくて。可愛いって言ったら、誰?て」
作品名:ポケットに咲く花。 作家名:タンポポ