ポケットに咲く花。
二本の鬼滅の刃DX日輪刀は、テーブルの上に置かれた。稲見瓶用のと合わせると、これでテーブルの上にある鬼滅の刃DX日輪刀は、三本になった。
風秋夕は電脳執事のイーサンに、アイス・ミルクティーを注文した。磯野波平はアイス・カフェオレを注文していた。
「飛鳥ちゃんちゅーしちゃうぞ」磯野は飛鳥に微笑んだ。
「何、急に……」飛鳥は可愛らしく顔をしかめる。「何ですか……」
「じゃあさーくちゃん、さくちゃんは俺と後でゲームしようね~」夕はにっこりと微笑んで、さくらに言った。
「かっきー、お、俺と」稲見はたじたじとする。
「だから別に順番じゃないからさ」夕は稲見に苦笑した。遥香を見る。「ダメだよね? かっきーは俺と別の事するんだから。ねー! 何する?」
わちゃわちゃと喚(わめ)く磯野波平が言う。「ふっざけんじゃねーぞ夕! だ~らかっきーは俺ん事が好きなんだよ! いい加減わかれてめえは~」
賀喜遥香は磯野波平にむっとする。
「何だよかっきー……、抱きしめちゃうぞ」磯野はかかっと笑う。
賀喜遥香は磯野波平を睨んで言う。「もうまた意地悪してー、意地悪する人は嫌われんねんで、ん気ぃつけや」
「可愛い!」夕は絶賛する。
「可愛いなー」飛鳥は小さく笑った。
「嫌われては、いねえべ?」磯野は真剣である。「嫌い、じゃあねえだろ?」
「ふんっ」遥香はそっぽを向く。
「あーあ」飛鳥は面白がって言った。
遠藤さくらははにかんで笑っている。稲見瓶はクロスワード・パズルを始めていた。
「だってかっきーが好きなんだよう!」磯野は真剣に怒鳴る。「もっとかまってほしいんだよしょうがねえだろうだってえ!」
「うるっさいから」飛鳥は苦笑する。
「好き好き言うのがやだ」遥香は磯野を睨みながら言う。「俺の事好きだろ、て言ってくるのが本当にやだ」
「ねえキモいよねー」夕は満面の笑みである。
「黙れこのキザ野郎っ!」磯野は夕に憤怒する。夕を指差す。「こいつはどうなんだよじゃあ!」
「飛び火が……」夕は小さく呟いた。
「夕君は、別に強制してこないもん」遥香はむくれたままで言った。
「ちょいちょいチャラい事言ってくるけどね……」飛鳥が言った。
「飛鳥ちゃんが魅力的すぎるからだよ」夕は飛鳥にウィンクする。
齋藤飛鳥は無言、無表情で風秋夕から眼をそむけた。
「さくちゃんはあんまキツイ事言わないよね?」夕はさくらに微笑んだ。
「そうだな、さくちゃん天使説あるなあ」磯野はにこやかに言った。
「私はぁ、あんまり、ターゲットにされないから……」さくらは苦笑しながら言った。
「さくちゃんって鈍感?」夕はさくらに言う。「すっげえ、好きだよ。もうそれはそれはヤバいぐらいに」
遠藤さくらは苦く微笑む。
「さくちゃんは食べちゃいたくなるな」磯野はにやけながら言った。
「やめてあげて!」遥香は磯野を睨んで言った。
「かっきーも食べちゃうぞ」磯野は笑顔で言う。
「やめろ!」夕は大きな声で言った。「お前が言うと、ややこしく聞こえてダメだ」
「何でよ……、ファンは皆言ってんだろう……」磯野は疑問に顔をしかめる。
「おい、お前ら」飛鳥は皆を見て言う。「もうこんな時間だぞ」
「えー?」夕はロレックスのヨットマスターを見る。「あら~……。良い子は寝る時間だね」
「私、もう少し起きてられる」遥香ははにかんで、誰にでもなく言った。「絵描いてる時は、もっと晩い時もあるから」
「かっきー無理してねえか?」磯野は優しく遥香に気遣った。「無理しちゃダメだぜ?」
「ううん、無理してないよ」遥香ははにかんで答えた。
「さくたん、眠いですか?」夕はお姫様にでもいうように、凛々(りり)しく毅然(きぜん)としてさくらに微笑んだ。「無理をしたらいけませんよ、頑張り屋だからって」
「大丈夫」さくらははにかんだ。
「わっちは眠いわ」飛鳥は誰にでもなく言って、伸びをした。「んうう~……行くか」
「え、もう行っちゃうの?」夕は寂しそうに飛鳥を見つめる。
「まだしゃべってようぜ~飛鳥っちゃーん」磯野も飛鳥に悲しそうな顔を見せる。
「何で、何でわしだけ気遣いがないんだよ」飛鳥は笑う。「えんぴーとかっきーには無理しなくていいって言って、何で私にはまだいろって言うんだよ。可笑しいだろ。知らんけど」
「大人じゃん飛鳥ちゃんは~」夕は微笑んだ。
「そうそう、体力的にも先輩だろ?」磯野も飛鳥に微笑んで言った。
賀喜遥香と遠藤さくらは、笑って事の事態を見守っている。
「ま、いいけどさ」飛鳥は二人から視線を反らして、落ち着いたふうに言った。「で、イナッチは何やってんの、さっきっから」
「うん?」稲見はテーブルから飛鳥へと顔を上げて答える。「クロスワード・パズルだね」
「何、面白いの?」飛鳥は不敵に笑って言う。
「ついね。責務感でやっちゃうんだよね」稲見は飛鳥に言った。無表情である。「飛鳥ちゃんもやってみない?」
「私はいいや」
「かっきーはあれ、コスプレとかしないの?」夕は遥香に言った。
「したいんだけど、した事なくて。なんか、タイミングが無くて」遥香は夕を見つめて、一所懸命に答える。その姿を夕は尊く思った。「やってみたいなー、て」
「さくちゃんは寝る時、パジャマの上を、ズボンの中にしまうんだろ?」磯野はかかっと笑ってさくらに言った。「寒みいの?」
「いやぁ、癖、ですかね。うん、癖みたいな感じ」さくらは磯野に、一所懸命に答える。その姿を磯野は愛しいと思った。「あ手も入れます」
「ズボンの中にぃ?」磯野は顔を驚かせる。
「うん」
「んじゃ、今日一緒に寝てる時、確認してみるわぁ」磯野は真顔で言った。
「また、セクハラして」飛鳥は吐いて捨てる。
「お前タチ悪いぞ、純粋無垢な美少女に向かって!」夕は興奮する。
「うるっせえ、てぇめえだっていっつも言ってんだろこんぐらい!」磯野は叫ぶ。
「やーめーなぁーよ」遥香は困った顔で二人をに言う。「ジュースが零れるから!」
「大体なあ、さくちゃんは俺のなんだぞっ」夕は懸命に磯野に個人論を怒鳴った。
「なっ、おーれーのだっばっかやろう!」磯野は真剣に怒鳴り返す。
「言っとくけどな……、飛鳥ちゃん、俺のぎ動画で推しに設定してっからな!」夕は悠然と怒鳴り上げた。
「俺かっきーに設定してっからな!」磯野は慌てて怒鳴る。「じゃあかっきー俺んだからな!」
「そんなわけにいくか馬鹿者ぉ!」
「あーあ、また始まったよ……」飛鳥は溜息を吐く。
「いつも通りだね」稲見は苦笑した。
「やーめーなって! こら!」遥香は大声で二人を制しようと試(こころ)みる。
遠藤さくらはきょとん、とその光景を見つめていた。
3
港区のとある高級住宅街に秘密裏に存在する、巨大地下建造物〈リリィ・アース〉の地下二階、エントランス・メイン・フロアでは、この二千二十一年七月末日、お祭りを開催していた。
広大なフロアのライティングは夕焼け色に染められ、様々な屋台が複雑に地図を創るように道を造って並び、腕を競わんと精を出している。中央の星形に五台並んだエレベーターの前にはやぐらが組まれており、ふんどし鉢巻の男が大太鼓を叩いていた。
現在フロアにかかっている音頭は『東京音頭』である。