ポケットに咲く花。
参加者は無論、基本的に、乃木坂46と元乃木坂46と、乃木坂46ファン同盟の五人である。
一期生の生田絵梨花だけが、自身の務めるイメージモデルのブランドである、西善商事株式会社のカラフルで色鮮やかな振袖を着用している。その他のメンバーは基本的に浴衣姿であった。
尚、乃木坂ファン同盟の五人は、無論、はるやまのスーツ姿である。
「射的だ、射的があるよ」美波は桃子と史緒里に振り返って言う。「やる? やっちゃう?」
「桃子やんない、ふふ。どうせ当たんないもん」桃子ははにかんで言った。
「景品何よ」史緒里は屋台の景品の棚を覗く。「う、わ豪華! やろやろ!」
「これさー、プレステ5とかさー、どうやったら落ちんだろうね」美波は笑った。
「じゃあ桃子もやろう。一応」狙ったのは棚にうまい具合に飾られている洋服だった。「うわあ! 玉…呑み込まれたよ! 服に、え服ってどうやったら落っこちるの?」
「ああぁ!」美波も射的から顔を上げる。玉を弾いたのはゲーム機であった。「あーん、なーんだよー、全っ然弾くじゃん。けっこう弾くよ」
「うわあ……」史緒里も表情を残念そうにして射的から顔を上げた。「これって固定してあるんじゃないのー、だって、めっちゃ弾いたよ、今、あー夕くーん、ねえこれさー」
その場を通りかかった風秋夕は、笑顔で足を止めた。
「ああ、うん。射的ね」夕は悪戯っ子のように笑う。「このジレンマも、射的の有名な楽しさだからさ。それをそのまま再現してもらってます」
「取れないじゃん、じゃあ」美波は苦笑して夕に言った。
「挑戦してると、取れるのもあるんだよ」夕は微笑む。「探してみて」
稲見瓶は乃木坂46の二期生達と行動を共にしていた。
「美央がまだ来てないんだよねー」絢音はそう囁いた。「来てるのかなぁ?」
「来てくれてる可能性もあるね。去年は二期生で来てた、て聞いたし」稲見は絢音に言った。「探してみよう」
「連絡してみたら?」日奈子は絢音に言った。そして笑顔になる。「あじゃあ、連絡してみよ」
「既読つかないの」絢音はしゅん、として言った。
ちょうど「ひと口フランクフルト」の屋台の前で足を止める。
「あー、純奈これ買おう。すいません、一つ下さい」店員に注文した後で、純奈は笑顔でみり愛を振り返る。「食べないの? なに、あんま食べてないじゃん」
「眠い……」みり愛は眼をすぼめて純奈に言った。「てか、イナッチ身長伸びてない? でっか、て思ったんですけど」
「元々でかいよ。だって百八十あるんだから」純奈は屋台に振り返る。「あ、ありがとうございま~す。ほら、美味しそうだよ。……ん! うん、まあ!」
「あ、私も一口フランク一つ下さ~い」蘭世は程よい笑顔で店員に言った。
「私も~」怜奈が続く。「一つ下さーい」
「マスタード、あかけてもらっていいですか」蘭世は一口フランクフルトを受け取って、そのまま口にする。「……ん、……おいひい」
「あーマスタードもお願いしまーす」怜奈も一口フランクフルトを受け取り、そのまま口にする。「あつ……、うんうん、美味し~」
「まいちゅんは、食べないの?」稲見は眞衣に言った。「美味しいらしいよ」
「ベビーカステラが、減らなくて」眞衣は苦笑した。「でもこのベビーカステラ美味しいの! 食べる?」
「いいや、お気持ちだけ、頂きます」稲見は微笑んだ。
乃木坂46の一期生達は、最初は、という事で、今はともに行動していた。
「お好み焼き~」真夏は満面の笑みで、眼先の屋台を物色していく。「芋モチあるよ芋モチ、何あれ…冷やし中華とかあるんですけど。あー一口ステーキだってえ!」
「お好み焼きと、ステーキ行くか」絵梨花は食べる気満々で歩いて行く。「真夏、飲み物の店、探して」
「自分で探せばいいんじゃ……はい。もう~」真夏は絵梨花が首にヘッドロックしてきたので、歩きにくそうについて行く。「これじゃ探しずらいんですけど……」
「あ! かちわり!」絵梨花は叫んだ。
「ねえお寿司のお店があるよ~」みなみはくすっと笑った。「ここの事だから、美味しいんだろうね。食べてみるぅ?」
「食べよう食べよう」絵梨花はどんどんと歩いて行く。
「甘いの食べたい……」まあやは囁いた。「かき氷、まだ無かったよねえ?」
「なぁい」みなみは思い出しながら答えた。「あれ、かちわり、てあれ、かき氷のマークしてない? …かき氷じゃないのかなあ?」
「わかーんない」まあやはとにかく絵梨花の歩くペースについて行く。
「ここは、ダメだなっ」飛鳥は不敵に笑みを浮かべて言った。「飲みもんが全然ねえじゃねえか」
「あー、そういえば、そうだねえ」日奈は納得する。「探そ?」
「カフェオレの店、確か去年あったよね?」飛鳥は日奈にきいた。
「あった、ねー」日奈は思いついたような笑顔で飛鳥を見る。「あるかもよ? また!」
「たぶん、ないな……」飛鳥は苦笑しながらぶらぶらと歩いた。
現在、乃木坂46三期生の岩本蓮加は、下手に身動きが取れない状態であった。その原因は、磯野波平の必要以上に粘着質な熱視線である。
「何よ、何だよう、波平君!」蓮加は笑顔を保ちつつも、びびっている。「何で見てくるの~?」
「乃木坂が眼の前にいんだぜ?」磯野は強気な笑みで言い返す。「そりゃあ、見んだろうに」
「怖いから、波平君」麗乃は半分笑顔で、半分真剣に言った。
「怖い?」磯野は笑う。「何でよー、ただのファンだぜえ?」
「何で蓮加の事ばっかり見てるのう!」蓮加は大きな声で磯野に言った。
「なんとなく今はれんたんだからだ」
磯野波平は動いた。
「れんたん、やっと大人になってくれたな」
岩本蓮加は逃げようとしたが、磯野波平の瞬発力にむなしく捕まった。
「きゃ! やーちょっと!」
磯野波平は岩本蓮加を肩にしょい込んだ。
「体重は赤ちゃんのままだな、があ~はっは!」
岩本蓮加と行動を共にしていた、伊藤理々杏と、阪口珠美と、中村麗乃と、吉田綾乃クリスティーが激しく抵抗を試みている。
「おろせー、波平ー」蓮加は足をばたつかせる。
「れ~んたんはね、ほんとーはー、俺のことーおが、好きなんだ~よ」磯野は余裕の表情で、上機嫌で蓮加を肩にしょったまま歌っている。
「やめて! ね波平君、危ないからね!」綾乃は説得するが、磯野はきかない。
「波平バカー、この野郎やめろー」理々杏も叫び、波平に簡単な攻撃を加えるが、全く効かない。「てめー、この野郎ー」
「とりあえず止まれバカバカー」珠美は磯野の足を蹴っぽるが、全く効き目がない。
「おろしてあげてっ止ーまーれ!」麗乃は全力で磯野を止めるが、止まらない。
その磯野波平の歩みは、急に止まった――。
「何を、しているのですか?」
そう低い声色(こわいろ)を使って言ったのは、無表情の恨(うら)めしい眼つきをした、駅前木葉(えきまえこのは)であった。
磯野波平は、そっと、優しく、岩本蓮加を床に立たせた。
「んもう、バカ!」蓮加は磯野の肩を殴って、その場を離れた。
「お、おう……駅前さん」磯野は片手を小さく上げて、挨拶をした。
「何を、なさっていたんですか?」駅前は冷たく言い放つ。
「ちょ……、スキンシップ」磯野は真顔で言った。