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ポケットに咲く花。

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「オーストラリアの真夏のクリスマス。フレーズだけでも綺麗だね」稲見は呟いた。
「蘭世ちゃん、可愛いぜぇ……」磯野は囁いた。
「ええ。美しいわ」駅前も、磯野に続いて囁いた。

「寺田蘭世、忘れられないチャレンジ~……いぇ~い……ていう事で、次のコーナーはですねえ、寺田蘭世忘れられないチャレンジですう、えーとこちらは、写真集のタイトル。写真集のタイトル……。なぜ忘れられないんだろうにちなんで、私と、ユーザーの皆さんで、記憶力が、試される、問題に挑戦していくコーナーになっています。皆さん一緒に、頑張りましょう」

 寺田蘭世は思いのほか元気よく、テンポよく生配信を楽しめている様子であった。乃木坂46ファン同盟の五人もまた、この生配信を心から楽しんでいる。
 この五人と寺田蘭世の間には、約九年間の歴史があった。それは絆とも言えるのかも知れない。
 かけがえのないもの。無くせない時間。それこそ、この時間に集った者はいずれ思うだろう。なぜ、忘れられないのだろうと――。
 寺田蘭世は微笑みを浮かべて、記憶力クイズを、生配信を見守る全国のユーザー達と楽しんでいる。当たり前の様であったこのような時間が、今は時を刻みつけるかのように刻々(こくこく)と過ぎ去っていく。
 今は笑っていよう。自然とそう思えた。時間は、今しか存在しないという理屈も意識しないまま、ただ楽しんで、彼女と共に笑おうと……。
「全問正解じゃねえか!」磯野は驚いた顔で、稲見を凝視する。
「記憶するだけだからね」稲見は平然と答えた。「計算が無い分、だいぶ単純だ」
「はっはっは! 蘭世ちゃんって意外とおしゃべりだよな?」夕は、可笑しくなって笑った。
「しゃべんなかったら事故だろうが」磯野は夕を一瞥する。
「はっはっは!」
「蘭世さんは、普段からよくしゃべってくれる人ですよ」駅前は誰にでもなく言った。
「ザ・女の子、でござるな」あたるは笑顔で言った。
「女子だなー」夕は微笑む。「女の子の鏡かもな」
「見習えば?」磯野は駅前を一瞥した。
「かっはっは!」あたるは大笑いする。
「私に、言ってますか?」駅前は、驚いた様子で磯野を見つめた。
「駅前さんが蘭世ちゃんみたいに?」夕はまた、楽しそうに笑う。「いやーすげえ嫌っ、それっ」
「そもそも、女性としてのレベルが違いすぎますよ」駅前は苦笑して言う。「私は、可愛いと言われた事さえありませんから。可愛いの結晶である蘭世さんとは、非対称です」
「いや誰も蘭世ちゃんと比べてなんかねえよ。見習え、つってんだよ」磯野は、駅前を横目で見ながら言った。
「はい……」駅前は、くすっと笑った。
「はっはっは!」夕も笑う。

「あと約七分ほど、やらしていただきます、少々お付き合い下さいお願いしまぁす……という事で。しゃべろう! そう、しゃべりましょう? なんか本当に全然、ね、今、こういう機会も、少なぁいので、ぜひぜひ、ツイッターの方も、見させて、いただいておりますので、どっちも、コメントもして下さい。らんぜ祭りって、ツイートしてくれたら、読んでます。お願いしまぁす」

「らんぜ祭り、つうのが気に入ったぜ!」磯野は笑顔だった。
「蘭世ちゃん、本当に、気高いでござるなぁ……」あたるは、その笑みに、涙を浮かべた。
「人生で、やりきった事って俺まだないんだ。そういう意味でも、蘭世ちゃんは人生の先輩だし、ほんとに、お手本だよ」夕は笑顔で囁いた。
「あと七分と言われたこの時間が、約九年間に幕を下ろす瞬間になるかもしれない」稲見は誰にでもなく言う。「インスタとか、モバメとか、本人との繋がりはまだあるけどね」
「大切にしろって、言いいたいんだろ?」夕は稲見を一瞥して、微笑んだ。「わかってる。ちゃんと保管されてるよ、忘れない記憶に」
「蘭世さん、最後の最後まで、笑っている……」駅前の頬に、一粒の涙がこぼれる。
「ありがとう、ありがとうでござるよ」あたるは泣きながら、声を震わせて巨大スクリーンに映る寺田蘭世に言った。「そして、おめでとうでござる。蘭世殿……」

「という事で、そろそろ挨拶ぐらいは、しておいた方がいいかなあと二分! という事で挨拶させて下さい。という事で、エンディングのお時間です。ちょっと遅れてしまったんですけど、本当にありがとうございました。という事でですね、らんぜ祭り、でのツイートも本当にありがとうございました。番組終わってからも、番組の感想とか、今後も写真集の感想は、らんぜ祭り、とかでして下さい。ていう事で、あのぅ、何で忘れられないんだろう、明日からもよろしくお願いしますぅ!」

「完売だもんな」夕は嬉しそうに笑った。
「すげえよ」磯野も誇らしそうに笑った。
「まちゅが降臨(こうりん)したらしい」稲見は微笑む。「今更だけど、まちゅをお松と呼んでるんだね。そして、俺達は蘭世ちゃんの人生初のぶりっ子を、見れるのかな」
「ぶりっ子しなくても、もうすでに可愛すぎるでござる! 蘭世ちゃんもまっちゅん殿も!」あたるは泣きべそを、明るいものにした。「あっぱれ! でござる!」
「ええ、ええ、素敵ですとも」駅前は何度も何度も頷いて、涙を拭(ぬぐ)った。

「あ、お別れの時間が来ましたぁ。ほんとに、すごぉい、一人で心配だったんですけど、凄く楽しく終わる事ができました。本当にありがとうございました。という事で、もしかしたらまたがあるかもしれないので、その際もぜひよろしくお願いします。ほんとに……いや、無事、発売できて良かったです。これからも、本当にこれからもよろしくお願いします。すぅしか言えないぐらい、気持ち、いっぱいいっぱいです。約、三万、三万七千人の皆様、ほんとに、ありがとうございました明日も学校とか、お仕事がんばって下さぁい。では、また。ちゃんとお風呂入ってあたかかく、暖かくして寝てねーバイバーイ。ありがとうございましたぁ……」

 乃木坂46寺田蘭世のファースト写真集『なぜ、忘れられないのだろう?』発売記念ショー・ルーム生配信が、無事終了した。
 風秋夕は、リクライニング・シートから立ち上がり、微笑んだままで四人に言う。
「写真集。見ようぜ、みんな」
 磯野波平は、両手で顔をこすってから、頷いた。
「おおよ……」
「うん。見ようか」
 稲見瓶は、リクライニング・シートから立ち上がる。
「小生。一生の、宝にするでござる……」
 姫野あたるは、腕で顔を拭いて、リクライニング・シートから立ち上がった。
「きっと、それはとても美しいでしょう……。さあ、見ましょう! 誰か、写真集は手元にあるのですか?」
 駅前木葉は、リクライニング・シートから立ち上がって、高鳴る鼓動に任せて、微笑みを浮かべた。
 いつの日からか始まった、そんな素敵な時間の中心にいるかのように、五人共が、実に誠実な笑顔を浮かべていた。

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 東京ドーム乃木坂46真夏の全国ツアー2021ファイナル!二日目となる今日は、乃木坂46高山一実の卒業コンサートである。
 地下六階の〈映写室〉に集まった乃木坂ファン同盟の五人は、すっかりと高山一実グッズに身を包んでいた。握りしめたペンライトは、五人共が水色とピンクであった。
作品名:ポケットに咲く花。 作家名:タンポポ