ポケットに咲く花。
『ファンの皆様、最後にこんな景色を見せて下さって、ありがとうございます。いっぱい夢を叶えてくれて……。こんなに沢山の人に囲まれてる。今も、ずっと幸せです。ここにいる皆さん、そして、今、見て下さっている皆さん、皆さんは、幸せを作る天才です。そして、今までお世話になった乃木x坂46には、ちゃんとありがとうを告げたいと思います。サヨナラの意味』
高山一実は、ステージを歩き、メンバー達の待つステージへと到着する。泣き濡れたメンバー達が歌い、順番に、高山一実の隣に寄りそって行く。
磯野波平は号泣していた。
ふざけんなよ、かずみん。なあ、かずみんよぉ。
どこ行っちまうんだよ。
こんなに好きなんだぜ。俺達を置いていくか、普通。
言っただろ、大好きだって……。
よくわかんねえ愛してる、つう言葉より、俺の使う大好きは
千倍の好きが詰まってんだからな。
持ってけよな。
かずみん……。大好きだぜ。
ついでに、俺もついて行くけどな。
どこまで行けんのかな。行けるとこまで行ってみようぜ。
な。一緒にさあ。
「かずみん!かずみん!かーーずみーーーん!っく」
磯野波平は号泣しながら、また新しく叫び散らす。その感情は、誰が見ても、まぎれもなく、一目瞭然であろう。
スペシャルサンクス・今野義雄氏
『サヨナラの意味』の後には、『偶然を言い訳にして』が歌われる。『行ってきます』とステージからバルーンに乗り込んだ高山一実は、大きく笑って、世界中のオーディエンスに手を振る。
姫野あたるはさよならの意味を考えていた。
別れとは、その道を進むと決めた瞬間から、常に存在する決意の事でござる。
しょうせいは、この道を進むでござるよ。かずみんが卒業するならば
それは棘の道でござろう。けれど
僕は立ち止まらない。誰でもない、かずみんが前にいるからだよ。
誰でもない、かずみんが教えてくれた事だからだよ。
何度も何度も、僕は後ろを振り返るかもしれない。
何度も何度も、泣いてしまうだろう。
そしたら、その後はちゃんと笑うから。安心してね、かずみん。
かけがえのない存在だった。ううん、それは変わらないよ。
かずみんをこれからも応援している。
永遠の、愛を誓って……。
「かずび~ん…かず、かずびーーーーーん!」
姫野あたるは涙をぬぐう事も忘れて、純粋に泣いて、大声でその名前を呼んだ。そうする事で、彼女がまた、笑ってくれると信じていたから。
『君の名は希望』が歌われる。高山一実以外の全てのメンバーは黒いツアーTシャツとスカート姿であった。宙を舞うバルーンに乗った高山一実は実に美しく、綺麗に微笑んでいた。
バルーンからステージへと駆け寄る高山一実はとても綺麗で、儚い面影を残していた。
『さみしーい! でも、寂しいが、いっぱいだけど、これからもこの景色を思い出して頑張っていけそうです。ありがとうございました!』
三期生を代表して、山下美月が、ご卒業おめでとうございます。強く印象に残っているのは、初めて選抜に選ばれた時に、生田さんと高山一実さんと、映画を観に行ったのが印象的ですと語った。なじめない時に、優しい先輩方に助けられたと。本当に、お世話になりました、大好きですと。
一期生を代表して和田まあやが、尽きない涙を流しながら、朝にまず高山一実の鞄を探して、いない時は席を取って……。明日からは、鞄を探せないんだなと、悲し気に語った。さり気ないそんな時間は、かけがえのない時間だったんだなと。今まで本当に、沢山お世話になったし、これからもお世話になると思います。本当に十年間、お疲れさまでした。と語ってくれた。
次が、本当に最後だと語られた。
駅前木葉はしゃがみ込んで、顔を隠して泣き崩れた。
かずみん、あなたはもう行ってしまうのですね。
(行かないでよ、かずみん……。)
計り知れない感謝があるのですが、
(ありがとうだけじゃ、伝わりっこない)
受け取ってもらえるでしょうか。
私の涙が、この十年間、あなたを愛した証拠です。
(おいて行かないで下さい。お願い、行かないって言って)
わがままは言いません。ただ最後に、笑顔を見たいわ
(そう。優しくて可愛い、かずみんの笑顔を見たい)
これからも、私はあなたを愛すでしょう。
これからも、私はポジピースを忘れない。
これからも、私はアメイジングなあなたを慕(した)い続けるでしょう。
あなたに暗闇が訪れたその時は、私が月となり、その闇を照らしてみせます。
まっすぐ進んで下さい。
小説、待っていますね。
「がずびーん、ううぅ、がずび…っ、……がずびーーーん!」
駅前木葉は、子供の様になきじゃくった。何よりも愛してやまない、トラぺジウムを胸に抱えながら……。
スペシャルサンクス・乃木坂ってどこ?
乃木坂工事中
ショールーム
オールナイトニッポン
テレビ東京
TBS
朝日テレビ
フジテレビ
真夏の全国ツアー2021
真夏の全国ツアー2021ファイナル!
高山一実卒業コンサート
『皆さん、今までの人生沢山、助けていただきました。これからも、辛いこと楽しい事、有ると思います。一緒に乗り越えていきましょうね。最後にこの曲、聴いて下さい。泣いたっていいじゃないか…』
高山一実の笑顔をそのままに『泣いたっていいじゃないか…』が流れる。それぞれ、メンバー達が高山一実に寄りそって行く……。泣いているメンバー、微笑みを与えるメンバー、それは様々で、まるで高山一実の楽しかったと語った、これまでの人生の様でもあった。
風秋夕は耐え切れずに、叫び声を上げた。
かずみん、ありがとう――。乃木坂の笑顔そのものだったよ。
悲しくて、震えてるよ。でも、俺も微笑んでいるみたいだ。
寂しくなるな、かずみんがいないと。
大好きだよ。
この十年は本当に、笑顔の十年だったんだね。
色々あったけど、最後にかずみんの笑顔がそう教えてくれた。
これからの十年は、どうなるんだろうね。
小説、出たら一番に買いに行くよ。
形が変わっても、何が変わっても、俺は高山一実の、一番のファンだ。
かずみん、卒業、おめでとう。
「かずみーーーん! かーーずみーーーーーん!」
風秋夕は叫ぶことを続ける。声がかすれて、例え聞こえなくなっても。その気持ちはきっと、彼女の元へと届いてくれるから。
高山一実は、大きな花束を受け取る。
『お花ありがとうございます! 乃木坂色だ!』
『ファンの皆さん、ほんとーに、貴重な時間を、ありがとうございましたー!』
『本当に、感無量です。うん幸せ』
『私達乃木坂も、これからもどんな壁が訪れても、しっかりと乗り越えていきたいと思います』
『本当に、幸せでしたー! 十年間、本当に、ありがとうございましたー!』
会場中のオーディエンスから『卒業、アメイジング』というプラカードが高山一実へと贈られた。
『皆さーん、幸せになってねー! ありぃがとう~!』
高山一実は、最後まで、感謝を語り、満面の笑顔であった。
脚本・執筆・原作・タンポポ