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午後4時のパンオショコラ

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「じゃ、じゃあここに、あそこの鉢植えを移動します。えっと、ずらっと並べて壁みたいにしたら、個室っぽくなりますよね? それならどうですか? 冨岡さんの予約席にして、ほかのお客さんは座れないようにします!」
 なんでそんなにも必死なんだと問い質したくなるほど、炭治郎は義勇をこの店にこさせたいらしい。
 ちらちらと義勇を窺う視線や赤く染まった頬に、もしかしてと思いはするが、炭治郎からは義勇と同じ性的指向は感じられず、義勇はとにかく困惑するしかなかった。

 自分がゲイだと自覚して以来、なんとなく相手がゲイかどうかわかるようになった。説明はしにくいのだが、同じゲイなら、まとう空気がノンケとは違って見える。炭治郎からはそんな空気は微塵も感じられない。なのに、義勇を見つめる瞳には、隠しようのない恋慕の色があるのだ。
 まさかノンケが男相手に一目惚れというわけでもあるまい。もちろん、炭治郎がまだ自分の性的指向に気づいていないだけという可能性はある。けれども、それにしたってなんの困惑も混乱も見せずに、義勇への恋愛感情をすぐさま受け入れるというのは理解しがたかった。ありえないとも思う。
 義勇だって、錆兎への想いを自覚し、自身の性的欲求が同性にしか向かないのだということに気づいたときには、ひどく困惑し、自己嫌悪と戸惑いにしばらく悩みつづけたのだ。一目惚れされることがないとは言わないが、それはゲイの自覚がある男か、女性に限定されるはずだった。
 気になりはするが、探りを入れて藪蛇になっても困る。このまま自分が答えなければ否定の意だと炭治郎も悟るだろう。それでこの話も流れて、二度と炭治郎と逢うこともないはずだ。それがお互いのためだと、義勇は炭治郎の提案に答えることなくカップを手に取った。
 そんなふうに楽観していた義勇に、烏間の言葉など予想できるはずもなく。
「なるほど、いい案かもしれませんね。ちょっとやってみますか? 私も手伝いますから、炭治郎くん、鉢植えを移動してみましょう」
「はい! 冨岡さん、ちょっと待っててくださいね!」

 飲み込み損ねたコーヒーを、噴き出さなかっただけでも褒めてほしい。

 老齢の烏間が、炭治郎に心配されながら重い観葉植物の鉢植えをいくつも移動するのを、義勇は呆然と見ていた。
 いや、止めようとは思ったのだ。しかし、烏間の行動は完全に善意である。しかもここで止めたら、執筆に向かない状況を受け入れることになるか、もしくはこの店には二度と来ないという意思を伝えるかの選択を、余儀なくされる。
 おまけに、店の看板息子であるらしい炭治郎が、常連客らしい老齢の烏間と一緒になって、重い鉢植えを移動し始めたことで、店内にいた客の視線を一身に集めてしまっているのだ。今までの会話だって声を潜めていたわけではない。炭治郎の声はすこぶる大きい。事情は店内の客たちに筒抜けに違いなかった。これで義勇が断れば、義勇が白眼視されるだけでなく、この店でも馴染みらしい烏間の顔は、完全につぶれるだろう。
 いずれにせよ、烏間の善意に溢れた厚意の行動を、当人の目の前で無碍にするようなことを、義勇が出来るわけもない。

 義勇は押しに弱くて流されやすいから……。

 ふたたび脳裏に再現された声に、義勇はもはや反論する言葉を持たなかった。