炎倶楽部 第壱話 炎の剣士たち
そのときだった。
「そこまでだ!!」
100m先でも聞こえそうな青年のはつらつとした声が響き、4人の男女が走ってきた。楽笑殿は、いら立たしげに彼らを見た。
炎を思わせる金と赤の髪の毛の青年、ショッキングピンクの髪色の青年、緩やかなポニーテールの女性、顎にほくろのある短髪の青年が、鬼と向かい合う位置で止まった。彼らはいずれも、炎を模った鍔の付いた日本刀を腰に差している。
「その刀…さてはおまえら、うわさの鬼狩りだな?」
楽笑殿の問いに、金と赤の髪の毛の青年が無駄に大きな声で答えた。
「うむ!いかにも。俺は鬼を滅して人々の心を燃やす、炎柱(えんばしら)!」
「同じく、阿礼楠(あれくす)!」
ショッキングピンクの髪色の青年が名乗った。
「同じく、或仁(あるじん)!」
緩やかなポニーテールの女性が名乗った。
「同じく、蘭須郎(らんすろう)!」
顎にほくろのある短髪の青年が名乗った。
彼らの素性を知ると、楽笑殿は汚い声で笑った。
「ダハハハ、鬼狩りが4人も。こりゃツイてるな」
鬼たちの間では、強い鬼狩りを食すれば戦闘力が大幅に上がるのだ。もちろん、楽笑殿も自身のランクアップを狙っている。
剣士たちは、一斉に抜刀した。血鬼術をかけられそうになった女性は彼らの唐突な登場にうろたえていたが、或仁が彼女に駆け寄り、
「加勢は無用です。すぐに避難してください」
と声をかけた。女性は或仁に言われたとおり避難した。
炎柱が大きく息を吸い、力強く踏み込んだ。
「炎の呼吸・壱ノ型!『不知火』!」
炎を発するような勢いで間合いを詰め、横薙ぎの斬撃をかました。しかし楽笑殿は大きくのけぞって技を回避した。間髪を入れず阿礼楠がフランベルジュ調の赤い刀で楽笑殿の左腕を切り落としたが、鬼の腕はすぐに再生され、ドヤ顔でそれを阿礼楠に見せつけた。
「これだけの斬撃ができるのは、大したもんだ。でも俺の血鬼術には勝てねえよ、おまえら」
楽しみの鬼は、意地悪な笑顔で扇子を突き出し、それを開いた。
「血鬼術・『笑粉』!」
この鬼が扇子を左右に大きくあおぎ、深緑色の粉が剣士たちのほうへ飛んでいった。粉は全員にかかり、阿礼楠、或仁、蘭須郎がその場でゲラゲラと笑いだした。
「あはははは、何だ、笑いが止まらない!あ~っはっはっは」
蘭須郎が笑いながら話した。
「あ、あはは。何だか分からないけど笑っちゃう。あははははは」
「ははは、全くだ。体が勝手に笑っちまう。あっはっは」
阿礼楠と或仁も同様だった。笑い転げる彼らを見て、楽笑殿は満足げな顔をした。
「ダハハ、楽しそうに笑ってるなぁ。よし、鬼狩りどもを喰い尽くしてや…ええっ!?」
作品名:炎倶楽部 第壱話 炎の剣士たち 作家名:藍城 舞美