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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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炎倶楽部 第壱話 炎の剣士たち

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 何と、炎柱は「笑粉」を浴びたにもかかわらず、表情を変えずに大きな赤い瞳で楽笑殿を見つめていたのだ。
「あいつ、笑粉は浴びたはずなのに…何で?何で?」
 鬼は間抜けそうな顔で首を傾げた。炎柱は、はつらつとした声で答えた。
「俺と君とは、笑いのツボが違う!」
 自慢の血鬼術が通じなかったことに大きな衝撃を受けて、楽笑殿はぽかんと口を開けるばかりだった。その隙に、炎柱はまだゲラゲラと笑っている阿礼楠、或仁、蘭須郎の額を人差し指で触り、
「集中!」
 と声をかけた。彼の熱い心と声で、仲間たちは我に返り、意識を集中させて呼吸を整えた。
「うむ、これで皆、正常に戻ったな」
「ありがとう、炎柱」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「礼には及ばん」

 楽笑殿は、剣士たちのやりとりを悔しそうに見つめていたが、再びニヤリと笑ってつぶやいた。
「まだまだ負けはしねえよ」
 そして炎柱を指さした。
「そこの火みたいな髪の毛で眉毛太いやつ!おまえにはこんなのどうかな?」
 指名を受けた炎柱は、黙って剣を構えた。
「血鬼術・『立(たつ)』!」
 楽笑殿は、炎柱をじっと見つめると、人前で立ててはいけない指を立てた。その瞬間、炎柱の体の一部が上を向いた。
「よもや!」
 予想外すぎる事態に、炎柱は大声を上げた。仲間たちはこの様子を見て、非常に困惑した。
「うわぁ…」
「よもやよもやだ…」
 或仁は、見たくもない光景から必死で目をそらしている。一方、楽しみの鬼は、下品な声で笑いながら言った。
「ダハハハハハハ。ぶざまぶざまだ。見ろ。俺の血鬼術でこいつの体の一部がどんどん、どんどん膨らんでいる。最後には…ハハ、ハハハハ…」
 彼女は怒りの炎を激しく燃やし、短刀のような形状の赤い刀を一層強く握った。
「炎柱のイメージが壊れるでしょうが…!」
 そして鬼からある程度距離を取ると、大きく息を吸い、力強く踏み込んだ。
「炎の呼吸・壱ノ型!『不知火』!」
 一瞬で間合いを詰めてからの激しい斬撃が、下品なサインランゲージをしている楽笑殿の手首から上を切り落とした。その瞬間、炎柱の体が元に戻った。或仁は、彼のもとに駆け寄った。
「炎柱…」
「或仁、血鬼術を解いてくれたな。感謝する」
 女性剣士は軽く笑ってうなずいた。

 炎柱は、怒りの炎を燃やして楽笑殿に接近した。鬼は既に再生した手の甲を炎柱に向けた。
「他人の体を用いて笑わせることなど、不愉快千万!何度でも言う。俺と君とは笑いのツボが違う」
 炎柱の代名詞ともいえる俗称「クソデカボイス」を近距離で聞き、楽笑殿はすっかりひるんでしまった。
「炎の呼吸・参ノ型!『気炎万象(きえんばんしょう)』!」
 炎の剣士が刀を上から下に激しく振り抜いた。その刀の動きに合わせて炎が発生し、楽笑殿の首を胴体から見事に切り離した。


 地面に倒れた胴体は足の先から徐々に塵になっていき、頭部も斬られた部分から塵になっていった。そのとき、楽笑殿の脳内に一種のショートフィルムが再生された。
(そうだ…。俺は人間だった頃、人を楽しませることを生業としていた。でもある日、かわいいけど気味の悪い女の子に喰われてしまった。そしてよく分からない力でこの世に戻された。しかし今度は人間を喰らう鬼になっていた…)
 楽笑殿は、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。
「みんなを楽しませるどころか、人間を喰い殺して多くの人を苦しめてしまった…。ううっ…これじゃ俺はコメディアンじゃなくて、『ダメディアン』じゃねえか……」
 楽しみの鬼・楽笑殿は完全に塵になり、風に乗って飛んでいった。