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BUDDY 8

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 アーチャーが現界しているのは、いつまでなのだろうと考えてみても、士郎には答えを出す術がない。魔術協会が聖杯の状態を精査してからの返答らしいので、まだ時間はかかるのかもしれない。
「俺は、アーチャーが居なくなるのを、見送るのか……」
 正直なところ、その状況を目の当たりにして、冷静でいられるかどうか自信がない。
「もう、居候なんて、できないよな……」
 連れて還ってくれとは言えない。そんなことができるかもわからないし、第一、なんのためにお前を連れ還らなければならないのか、と訊かれれば困る。
(理由なんて、絶対に言えないしな……)
 片膝を引き寄せ、顎を乗せた。
(こんな気持ち……、早くなくなればいいのに……)
 何度思ったことだろう。人として生きた十年は、ずっとそんな願いを抱いていた。報われない想いなどさっさと捨てて、こんなくだらないことに縛られずに生きたいと、幾度となく思っていた。
 結果的には死ぬまで、いや、死んでからもその想いは士郎につきまとい、今も士郎の心を苛んでいる。
(早く、消えろよ……)
 しつこい感情だと罵ったところで、どうなるものでもない。
 緩い風が赤銅色の髪を撫でていく。
 なぜだか、誰かに頭を撫でられていたことを思い出した。子供の頃だったろうかと思ったが、子供の時分に頭を撫でてもらったときとは違う感覚だ。
(誰……だっけ…………)
 ウトウトしていることに、士郎は気づいていなかった。
「士郎?」
 したがって、呼ばれた声に反応ができなかった。返事をしたつもりだが、半覚醒の夢うつつでは、ろくに声も出ていない。
「士ろ……」
 アーチャーの声だと気づいたときには、背中に何かがかけられて、静かに抱き上げられている。
(アー……チャー…………?)
 瞼が上がらずもどかしい。起きているから大丈夫だと伝えたくて、手を持ち上げようとするが、身体が眠っているからなのか動かない。
「士郎?」
 どこかに座った様子のアーチャーに横抱きにされたまま、軽く頬を叩かれる。だが、反応できずにいると、アーチャーの指が唇を割って侵入してくる。
(え……? アーチャー、何してるんだ?)
 下側の歯を押さえられ、かぱ、と口を開けさせられた士郎は、ようやく、びくん、と下肢を痙攣させた。
「っ、んん?」
 あまりの驚きの大きさに、カッと目を開く。視界に映るのは、白い髪と褐色の肌だ。近すぎて焦点が合わずにぼやけている。
(なに、これ? アーチャー、何して?)
 混乱しつつ、どうにか動きを取り戻した手でアーチャーを押し返した。
「っ!」
 瞠目したアーチャーの鈍色の瞳は、驚きの色が濃い。
「…………アー……チャー?」
 目の前にいるのがアーチャーなのが信じられない。アーチャーならば、こんなことはしない。他人の寝込みを襲うような、そんな不逞の輩がするようなことは、絶対に。
「な……に、を……」
「ま、魔力が……」
「え?」
「凛から聞いている。魔力が少ないと。凛にはどうすることもできないから、もし万が一があれば、と頼まれている」
「…………そう……、なのか……」
 がっかりしている自分が可笑しくて、哀しかった。
(そうだよな。アーチャーの理由は、いつもそういうことだ……)
 衝動的にとでも言ってほしかったのだろうか、と士郎は自嘲する。もう、何もかもが馬鹿馬鹿しく思えてしまい、自棄《ヤケ》になりそうだ。
 凛に気づかせたくないと思っていた魔力不足のことにしても、アーチャーに知られては、また迷惑をかけると思って隠していたことも、すべてが最初からわかっていたことで、士郎だけが意地になっていたということに気づく。
(はは……、ダッサいなぁ、俺……)
 悔しさよりも情けなさの方が大きい。凛にもアーチャーにも気遣われていたことを知らず、一人で耐え忍んでいる気になっていた自分自身が恥ずかしい。
「もしかして、何度か、こういうこと、した?」
「いや」
 首を振るアーチャーは真偽の読めない無表情だ。
「アンタは、いいのか? 俺にキスしなきゃなんないんだぞ?」
「別段、気にはしない」
「達観してるんだな」
「誰に断ることもないしな」
 それは、想う人も想われる人もいないという意味なのだろう。英霊となった身では、妻や恋人という存在がいるわけもなく、何をしようと誰に咎められることもないのだ。
「くれるのか? 俺に、魔力」
「ああ」
「どうしてだ?」
「凛に頼まれている」
 思った通りの答えに、つきん、と鼻の奥が痛んだ。
「そ、そっか……、じゃ、じゃあ、お願いします」
 了解した、と答えたアーチャーに顎を取られ、僅かにためらう動きをした唇が、士郎のそれに重ねられる。
 初めてではない。風呂場で一度、声を塞ぐためと気を紛らわすために、手の空いていないアーチャーが口づけてきたことがある。
 それと同じだと思ってアーチャーにすべてを任せることにした。どのみち、経験のない士郎にはどうやって魔力を渡すようなキスをするのかなど知る由もない。
 舌先を舐められ、びく、と肩を跳ねさせて、どこを掴んでいいかわからない手を自身の胸に置き、シャツをシワになるくらい握りしめる。横抱きの状態で上背のあるアーチャーが上から覆い被さってくるような体勢のため、首を仰け反らせたままで呼吸が苦しい。
 逃げたいが逃げられず、縋るもののない士郎には身を固くしているより他ない。
 ただ、ひどく胸が痛んだ。
 魔力を与えるためにこんな、濃厚なキスとも言える行為に及ぶアーチャーに、士郎の想いのひとカケラも理解されていないことが苦しい。
(思いもよらないだろうな……)
 じわり、と滲んだ涙が目尻から滑り落ちていく。
(俺がアンタを好きだなんて、絶対にないって、思ってるよな……)
 でなければ、こんな行為ができるはずがない。もし、士郎の気持ちにアーチャーが気づいているならば、こんなことはせず、指を切って魔力を含む血を飲ませるなりするだろう。
 アーチャーの熱い舌が、士郎の舌を絡め取ろうとしている。
(もう、嫌だ……)
 硬直したままだった士郎は、両手でアーチャーを押し除けて逃れた。
「も、もう、いいっ!」
「何を言っている。まだ、」
「こ、こんなやり方、しなくていい!」
 アーチャーに背を向け、ぐい、と口を拭う。アーチャーの言う通り、全然魔力は足りていない。けれども、こんなことをさせてまで、アーチャーから魔力をもらうわけにはいかない。
「平気だ。少し休憩すれば、また動ける」
「しかし、」
「やめてくれよ!」
「士郎?」
「アンタが気にすることじゃない、これは、俺の問題だ。魔力の相談なら、遠坂にするし、遠坂に言われたからって、アンタが気に病むことじゃない」
 振り向いて、そう言い切れば、アーチャーは驚いた顔をしたまま静止している。
「確かにさ、アンタの座に転がり込んだときは、仕方ないって思ってた。だけど、ここではもう、俺たちにはなんの繋がりもないだろ? だから、アーチャーは、俺のことなんて気にしなくていい」
「何を言うか。お前は私が認めた相棒《バディ》だろう? ならば、いくら死んで、幽霊や死霊のようなものになったとしても、我々には——」
作品名:BUDDY 8 作家名:さやけ