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BUDDY 8

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 アーチャーには守護者という務めがあり、それが彼の追い続けた理想の果てだ。したがって、ここで現界を続けるなどという選択をしないとわかっている。
「ここで、お別れかぁ……」
 十年ほどをともに過ごし、座で厄介になり、ともに召喚され、ずいぶんと長い時をアーチャーとともにした。
 苦しい想いをずっと抱えていたけれど、それを不幸だと思ったことは一度もない。こんなに誰かを好きになることができるのだ、と、むしろ胸を張りたくなる。
(未練は……、そりゃあ、あるけどさ……)
 かといって、諦める以外にはなんの手立てもない想いだ。これからも存在し続けるアーチャーに遺恨を残すわけにはいかない。
(やっぱり最後も、相棒《バディ》として、なんだろうな……)
 来《きた》るべきその日のために、士郎は心の準備をしている。まだまだ完璧とは言い難いが、アーチャーを見送る準備は着々と士郎の中では進んでいた。
 そして、アーチャーを見送った後、士郎は凛に契約を解除してもらうつもりでいる。使い魔として役に立つかどうかもわからない自分が、いつまでも凛の手を煩わせるわけにはいかないし、アーチャーが居なくなったら今度は自分に魔力が回ってくる、などという考えもなかった。
「遠坂は、どうして俺を現界させているんだろう……?」
 契約は強引で、こういう理由があるから、という説明はなかった。ただ、凛は、“あんたも私のサーヴァントなのよ!”と、眦を吊り上げて力説していただけだ。
「でも、どうしたって、遠坂には逆らえないしな。俺もアーチャーも……」
 遠坂凛はエミヤシロウに共通する弱点、というか、いい意味で天敵である。士郎はもちろん、アーチャーでさえ逆らえない。
 これも抗えない一つの運命なんだろう、と士郎は小さな笑みを浮かべた。



***

「まったく……。揃いも揃って、よくもまあ……」
 辟易しながら空いた皿を下げ、台所へ運んでシンクに重ねていく。テキパキと働くアーチャーは、さながら執事かウエイターのようだ。ただ、ここは、洋館でも喫茶店でもレストランでもない。
 衛宮士郎が家主の純日本家屋であり、今、アーチャーの目の前に広がる光景は、畳敷きの座卓にずらりと並んだ料理の残骸と、飲み物のボトルや缶が雑然と並んだ、忘年会か新年会かという有り様である。
「はあ……」
 何度目かとも知れないため息をこぼし、軽く額を押さえつつ、空き瓶と空き缶を回収に向かう。
「おい、ランサー、さっさと飲み干せ、片づかん。そこ、未成年は酒に手を出すな! 凛、ノンアルだからといって、ビールばかりを飲むな、オヤジ臭い。先生、一升瓶を抱いて寝るな。セイバー、もうすぐご飯が炊ける、ヨダレを拭け。小僧、虎に毛布をかけてやれ」
 アーチャーが、トリアージのごとく指示を飛ばすが、誰もそれに耳を貸さない。いや、貸せない。大人は人もサーヴァントもただの酔っ払いと化し、未成年は未成年で話に夢中。
 唯一、給仕その二を地でいく衛宮士郎は、アーチャーに対する反発心だか何かで、アーチャーの言うことをハナから聞かない。
「はぁ……。もう、帰っていいだろうか…………」
 どのみちこれでは収拾がつかないだろう。こういう役目は普通、教師である藤村大河がやるのではないのか、とブツブツ文句を垂れるものの、彼女は一升瓶を抱きしめて半分夢の中だ。
 こんなことなら遠坂邸で士郎とともに留守番をしていればよかった。凛にどうするかと訊かれたときに、士郎と二人でいるのは気まずいと思い、給仕が必要だろう、と適当なことを言ってこちらに参加したのだが……。
 炊飯器の電子音が聞こえ、ご飯をよそいに台所に戻る。セイバーの視線が背中に突き刺さるのを感じながら、アーチャーは山盛りにした鶏ごぼうの炊き込みご飯を持って居間に向かう。が、彼女は待ちきれなかった様子で台所の入り口にまで来ていた。
「いただきます!」
 キリッと表情を引き締めたセイバーは、両手で茶碗を受け取り、すぐさま座卓に戻り、姿勢を正して無心に炊き込みご飯を食べはじめた。
 他に食べたい者はいないか? と訊こうとしたが、居間の状況を目にしてやめにする。欲しい者は勝手に取りに来るだろう、と勝手にセルフサービスを推奨して、アーチャーはシンクの前に立った。取り皿や大皿が重なって山になっている。
「小僧の仕事だろうが……」
 居間で凛と桜に懇々と説教をされている様子の衛宮士郎に舌打ちしながら、アーチャーは洗い物に取りかかることにした。
 洗剤で食器を洗い、洗剤を洗い流し、洗いカゴにふせ……。忙しく手を動かしていると、
「————へえ、嬢ちゃんのところにいんのか、坊主の顔した坊主は」
 ふと聞こえてきたランサーの声に、ぴくり、とアーチャーは反応する。耳が勝手に居間での話し声に集中していく。
「ええ。私の使い魔なの」
 いつのまにか、凛はランサーと話し込んでいるようだ。
「なぁんで、連れて来なかったんだ? 可哀想だろう? 一人で留守番なんざ」
「そうもいかないわよ」
「あ、あれか。あいつと一緒で、誰にも見せねえってやつ?」
「なに、それ? アーチャーってば、そんなこと言ったの?」
 何やら指をさされている、と知りつつ気づかないフリで聞き耳を立てる。
「いんや。おれのもの、だそうだぞ」
「あらぁ……、アーチャーも、意外と……」
 コソコソと凛が声を潜めたので、その先の言葉が聞き取れない。どうせロクな話ではない、とアーチャーは洗い物を続けた。
「————でね、魔力の比率が、九対一で……」
(なにっ?)
 耳に届いた凛の声に、思わず手が止まる。
「たったの一割? そりゃあ、ちぃと気の毒だな……」
「契約はできたし、現界は確かなものなのよ。だけど、魔力だけがどうしても士郎に流れて行かないの」
 どうやら凛は、ランサーから魔力の比率を変更するやり方を聞き出そうとしいているらしい。
 そういう話ならば、ランサーではなくキャスターにではないだろうか、と思う。が、キャスターとは、いまだわだかまりが強く、こうしてともに飲み食いするような関係にはなっていない。
 そのわだかまりは主にアーチャーに因るものだが、凛も腹に据えかねているところがあるようなので、戦いはしないが、おそらく、この先もキャスターと何かを相談したりすることにはならないだろう。
「何かいい方法はないかしら?」
 ランサーはしばらく思案し、
「んじゃあ、おれが与えてやろうか?」
「え? どういうこと?」
「だからよ、おれが坊主に、魔力を“注いで”やろうか、って言ってんだ」
「注いで…………? ハッ! ダメ! 絶対ダメよ!」
「なぁんでだよ。いいだろー? 減るもんじゃねえんだ。むしろ減るのはおれの方なんだからよ」
 ランサーが屈託なく、とんでもないことを提案している。
「ダメなものはダメ! あいつに触れたら、タダじゃおかないわよ!」
「んじゃあよ、坊主がいいって言ったら?」
「え?」
「坊主が、おれの魔力が欲しいって言ったら、いいよなぁ?」
「う…………、そ、それは……」
(凛、何を迷っている! そんなもの、却下だ却下!)
 アーチャーが心の中で訴えていても凛には届かず、彼女はうんうん唸って迷いを見せる。
「合意なら、いいよな?」
作品名:BUDDY 8 作家名:さやけ