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BUDDY 9

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 並びや分類までは中を見ていないアーチャーにはできないが、とりあえず床に積むというようなぞんざいな扱いだけは回避している。
 凛を学校の近くまで送り、戻ってきたアーチャーは、スーパーのチラシを見ていたのだが、掃除機をかけはじめた士郎と途中から交代し、二階の掃除を引き受けていた。
 リビングで掃除機をかけ終えた士郎が、少し疲れているとアーチャーには見えた。廊下の掃除を終え、その後は二階に向かうとわかっていたので、魔力を与え、少し休むように言い、掃除機を引き取って二階の掃除をし、凛の部屋に辿り着き、今に至る。
「まったく……」
 唇に触れ、まだ残る感触を噛みしめる。
 少し前、朝に貰ったからいい、と遠慮した士郎に強引に口づけ、魔力を補わせた。
 今朝は自分から、ちょうだい、などとナメた態度でねだってきたというのに、こちらが強く出れば、士郎は戸惑い、ガチガチに強張る。
(なんだというのだ、まったく……)
 赤くなった頬も耳も、まったくの予想外で、仮初の心臓が誤作動を起こしてしまう。さらに今朝の士郎を思い出し、落ち着かなくなってくる。
 何度も繰り返した経口摂取だというのに、士郎から誘われてする行為は、同じ口づけでも全く違う気がした。
 口元を手で覆い、ため息をこぼす。
 やたらと熱く、甘い吐息に、アーチャーは戸惑うばかりだった。
「っ……、さっさと片づけて、スーパーに行かなければ。タイムセールが終わってしまう……」
 やるべきことを口にして、冷静になろうと試みる。だが、なかなか胸の高鳴りはおさまってはくれなかった。



 凛の部屋にあった本をすべて片づけ、地下室から出ようとしたところで、魔力と魔術の気配を感じた。
「誰だ?」
 誰が魔術を使ったのかわからない。
 遠坂邸には招かれざる客は入れない。だとすれば、凛が帰宅したのか、もしくは————、
「士郎?」
 そこに思い至るまで時が必要だった。士郎の魔力は少ない。したがって、魔術を使うことはないとハナから決めてかかっていた。
 だが、士郎は、魔術師である。投影魔術も魔力にそれなりの蓄えがあればできる。
 地下から階段を駆け上がり、まっしぐらに向かった玄関の扉を開けた先に、ぐらり、と傾いていく身体が見えた。
「士郎!」
 あのときと似ている。
 紛争地で士郎が撃たれた、あの瞬間と。
 一足飛びで、地面に倒れきる寸前の士郎を抱き留めた。
 あのときとは違い、士郎の意識はない。
「士郎! おい、目を開けろ!」
 ぴくり、とも動かない士郎に、全身から冷たい汗が噴き出る。動揺をどうにか抑え込み、士郎を抱き上げて、すぐさまアーチャーは屋敷内に戻った。
『凛! 凛!』
 玄関で士郎を抱えたまま念話で凛を呼べば、何度目かの呼びかけに答える。
『なに、アーチャー? もうすぐお昼休み終わっちゃう』
『凛! 士郎が、』
『え? なに? 士郎がどうかした?』
『っ、士郎が……、そ、外に出てしまった!』
『な……、んですってっ!』
『門を出たところで意識を失って、全く反応しない!』
『どうして、外に出るのよ! アーチャー、貴方、家にいるんでしょ?』
『地下室に君が部屋に持ち込んだ本を片づけに行っていた。魔術を使用した気配がしたため、急いで玄関へ向かったが間に合わず、もう士郎が、』
『く、詳しい話は後で聞くから、とにかく今は、地下室よ!』
『地下? なぜだ、地下室など、』
『魔法陣があった方がいいわ。アーチャー、士郎と契約してっ!』
『は?』
『一か八かよ! 私はアーチャーと、アーチャーは士郎と、三段階にして契約するの!』
『そ、それは……、うまくいくのか?』
『わからないわよ! だけど、私が二人と並列的に契約するのじゃなく、直列的に契約すれば、もしかすると士郎にも問題なく魔力が流れていくんじゃないかと思うの!』
『…………わ、わかった、やってみよう』
 凛の言うことは確証があるわけではない。だが、今、差し迫った状況で、できるできないの論議をしている時間はない。とにかく試してみなければわからない。
(私に契約ができるかどうかだが……)
 確かにアーチャーは、いや、エミヤシロウは魔術師だった。養父・切嗣が身の内に埋め込んだセイバーの鞘が媒介となって、セイバーのサーヴァントを召喚できたが、セイバーとの契約は凛に手を貸してもらわなければできなかった。
 生前に経験した聖杯戦争の、記憶とも呼べない微かなビジョンが残るだけのアーチャーに、契約の儀式などできるかどうか甚だ疑問だ。
 生前は魔術を使ってはいたが、それは投影魔術がほとんどで、凛のように多彩な魔術を駆使していたわけではない。もちろん、使い魔との契約など試したこともない。
「迷っている場合ではないな。とにかく、士郎を繋ぎ止めなければ!」
 悩んでいても事態は好転しない。一度で無理なら何度でも試せばいい。
 士郎を抱えて地下室に下り、床に微かに残る魔法陣の真ん中に士郎を横たえた。傍に膝をつき、ナイフを投影し、刃を左手で握って一気に引き抜く。
 血が溢れ出した左手を床に付けたが、魔法陣は全く反応を示さない。
『凛、無理だ』
『なんでよ!』
『魔法陣が反応しない。これは、君の魔力……いや、遠坂の家系の者の魔力にしか反応しないのではないか?』
『あ……』
『やはりか……』
 この緊急事態でうっかりを発動してしまう凛に、ため息しか出ない。
『あ、ど、どうしよう? えっと、えーっと、魔法陣魔法陣魔法陣魔法陣…………』
 まるで呪文のように“魔法陣”と呟く凛に、左手の傷を治しながら、アーチャーは根気強く凛の返答を待つ。
『あ!』
『何か思いついたか?』
『アーチャーが召喚されたのは、どこだったの?』
『何を言う。君がこの地下室で喚び出し、我々は中空から落下してきたのだろう』
『違うわよ! 士郎に召喚されたところよ!』
『士郎に? それは、衛宮邸の土蔵だが?』
『そこよ!』
『は? あそこはセイバーが——』
『一度だけ、あの魔法陣から喚び出されたんでしょ? なら、遠坂の力よりもずっと可能性がある!』
『いや、だが、』
『そこは、アーチャーじゃなく、士郎に縁のある魔法陣なのよ! だから、きっと反応するわ!』
『士郎に……?』
『ああ、もう、なんでもいいから、試してみて! 私もすぐに衛宮くんの家に向かうから!』
『了解した。では衛宮士郎の屋敷で落ち合おう』
 アーチャーは士郎を赤い聖骸布で包み、抱き上げる。ころころと転がり落ちた、士郎が投影したスニーカーにも気づかず、アーチャーは遠坂邸を出た。



 重い扉を開ける。土蔵の中は昼間でも薄暗い。
 蔵の中は雑然としていて工具や角材、裸電球が床に転がっている。日々ここで鍛錬を繰り返している衛宮士郎の使用感が、アーチャーの肌をややヒリつかせた。
 衛宮邸の土蔵は衛宮士郎の工房と呼んでもいい。同じエミヤシロウだからといって、すでに他人と認識している者の工房に無断で踏み入ることは、心地の良いものではなかった。
 出入り口から目測で、この辺りだろうと思われるところまで歩を進める。入ってきた扉を一度振り返り、その光景で、ここだという確証を得た。
作品名:BUDDY 9 作家名:さやけ