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ラヴィアンローズ

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 ビックリしちゃったのは、タンジローが僕よりも年上だってことだ。どう見たって、せいぜいリセの学生。下手したらコレージュ(中学生)に通ってたっておかしくないベイビーフェイスなんだ。なのにタンジローは僕よりひとつ年上の二十四歳だっていうんだから、驚いたのなんのって。
 日本人は若く見えるって本当なんだな。言えばタンジローは、
「俺は日本でも年よりも若く見られてたけどね」
 と、頭をかきながら照れ笑いしてた。
 
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 あれから二年経ったけど、タンジローはすっかりお得意様だ。毎日のように買い物にきてくれる。フランス語もだいぶうまくなった。
 僕だけじゃなく、タンジローがくると店員はみんな、明るく声をかける。タンジローもうれしそうにみんなと献立のことなんかの話をするんだ。
 タンジローは、愛らしいマリーゴールドの花みたいな子……失敬、人なんだよ。見ている人をみんな微笑ませちゃうんだ。
 そりゃもちろん、全員が全員、タンジローに好意的とは言えないよ? 主任みたいなラシストからすれば、アジアンだって小馬鹿にする対象だ。タンジローの姿が目に入ると、主任は「ああいうののせいで店がソース・ドゥ・ソジャ(しょう油)臭くなる」って小馬鹿にしてた。調香師をしているタンジローから、そんな匂いがするわけないってのにさ! それに、ショーユの匂いは別に悪い匂いじゃない。僕は大好き。だっておいしい日本食にはショーユがつきものだもんね。
 主任がタンジローを嫌がるのは、タンジローが日本人だからってばかりじゃなかった。

「やぁ! この前話してた雑誌、弟が送ってくれたから持ってきたよ!」
 聞こえてきた明るい声に、スリミの段ボールを抱えたまま慌てて振り返ったら、タンジローが手を振ってた。
「ワォ! 本当かい!? アリガトゴザイマス!」
 フランスでも大人気なアニメの原作マンガが載ってる雑誌を見てみたいって、僕が口にしたのは二週間ぐらい前だ。ほんのちょっとした会話だったのに、タンジローはちゃんと覚えていてくれたらしい。きっと日本にいる弟くんに頼んでくれたんだろう。こういうところが本当にいい奴なんだよ、タンジローって。
「……幼稚だな」
「コラッ、月彦」
 ぼそりと呟かれた流暢なフランス語に、思わずこめかみが引きつった。タンジローに叱られてもまったくめげた様子なんてなく、フンと鼻を鳴らした男の子は、顔だけ見れば天使だ。
 ゆるくウェーブした艶やかなブルネット。真っ白い肌に深紅の瞳。生きて動くビスクドールみたいなツキヒコという名の男の子が、タンジローと一緒に店にくるようになったのは、一年ぐらい前のこと。
 彼は、タンジローの息子だ。
 年はたしか八歳だって聞いたけど、スキップしてコレージュに通ってる。驚くほど頭のいい子なんだ。すごく体が弱くて学校にはあまり通えないせいか、今年は留年しちゃったみたいだけどね。
「ごめんな、留年が決定してからずっと機嫌悪いんだよ」
「い、いや、気にしてないよ」
「パパ、口が軽い男なんてろくなもんじゃないよ。少しは黙ってるってことを覚えたら? ……だからオトウサンと一緒に家にいるって言ったのに」
 お父さんっ子の月彦くんは、タンジローには手厳しい。

 そう。彼はタンジローとそのパートナーである『お父さん』の息子だ。血の繋がりはない。養子なのだ。
 同性婚もめずらしくなくなったけど、保守的な人や差別的な目で見る人は今もいる。主任がタンジローを毛嫌いする理由は、それで察してくれよ。僕は口にするのも嫌だね。

「今日はギユーは家にいるのかい?」
「うん! ほら、月彦がこの調子だからさ。体調も崩しちゃったから、義勇さんも心配しちゃってね。最近は休日の仕事を減らしてるんだ」
 コソコソと耳打ちしたタンジローの言葉は、しっかりとツキヒコくんの耳にも入っちゃったみたいだ。「余計なことを言うなっ」って、キリキリと眉をつり上げてる。

「えぇー! 家にいるならギユーも一緒にきてくれればよかったのにぃ!」
「ルシィ……仕事しなよ」
「おしゃべりしてる人に言われたくなーい」

 聞き耳立ててたな? 嘆きながら近づいてきた同僚のルシィは、タンジローのパートナーであるギユーの大ファンだ。気持ちはわかる。だってさ、ギユーってすっごく格好いいんだ! 細身だけど、スポーツジムのインストラクターをしてるだけあって、すごく鍛えられてるのがよくわかる体をしててさ。ムッキムキのマッチョマンと違って、まるで日本刀みたいなんだよ! おまけにとんでもなくハンサムだ。そりゃもう、初めて彼を見た日にバックヤードでルシィが、「なにあのアジアンビューティー! 人類の至宝かっ!」って叫んだぐらいにね。
 まぁ、ルシィはもともと僕と同じく日本贔屓で、日本のアイドルに目がないからってのもあるかもしれないけど。
 でも、ギユーが美貌の人であることに間違いはない。
 タンジローが愛らしいマリーゴールドなら、ギユーはフルール・ド・リス(アヤメ)だね。そう、我がフランスのブルボン王朝で紋章にもなっていた美しいあの花さ。
 そんなタンジローとギユーがカップルであることを、ルシィはどう思ってるのか、こっそり聞いたことがある。だってさ、心配だろ? ふたりの仲を裂いて後釜に……なんて。そんなことをたくらむような子じゃないとは思うけど、幸せなふたりに水を差すようなことがあっちゃいけないもの。
 ルシィの答えは。

「アイドルはね、触れずに愛でるものなのよ。わかる? それにギユーの美貌が一番輝くのはタンジローといるときだし、タンジローの愛らしさが花開くのはギユーの微笑みがあればこそよ! ふたりセットで推してるに決まってるでしょ!」

 うん、まぁ、わかってたよね。いいファンだと思うよ、うん。
 美しいもの愛らしいものは、誰だって好きだ。僕は同性愛者じゃないけれど、僕だって彼らを見ているのがとても好きだもの。
 彼らのことを好きなのは、見た目だけじゃないよ? ふたりともとても誠実で、思い遣りにあふれてるんだ。さっきの雑誌の件でもわかるだろう?
 僕の黒い肌のことも、彼らはちっとも気にしない。日本が好きなんだと言ったら、とてもうれしそうに笑ってくれた。日本から届けられたお菓子なんかをおすそ分けしてくれたりもする。残念ながらふたりは、僕の愛するマンガやアニメには興味はないみたいだけどね。でも僕を馬鹿にしたりは絶対にしないんだ。

 さて、そんなふたりのもとに、一年前やってきたツキヒコくんはといえば、見た目は天使、中身は暴君。可憐なのに猛毒な鈴蘭みたいな子さ。最初のうちはおとなしく控えめで、心をえぐる毒舌なんてちっとも口にしてなかったんだけどね……本当に天使のようだったよ。
 初めて彼がタンジローに手を引かれてやってきたときの、ルシィの興奮っぷりったらなかったね。
「なんって美しい家族なの! あんなの国で保護しなきゃ駄目よ! 彼らの身になにかあったら国家の、いいえ、人類にとってとんでもない損失だわ!」
 っていう握りこぶしを振り上げての演説は、ちょっとアレだったけど、まぁ、いいや。気のいい同僚である彼女が楽しそうでなにより。
作品名:ラヴィアンローズ 作家名:オバ/OBA