桜が謳うサンサーラ
ひとりになった禰豆子は、恋をした。いや、それでは少し、正しくない。
恋していたことに、ようやく気がついたのだ。息せき切ってやってきて、おおいに泣いた兄の友人に、優しく強く抱きしめられたときに。
泣いていいんだよ。つらかったね。そばにいられなくてごめんね。
そう言いながら、自分こそ大泣きに泣いたその人に、ずっと逢いたかった。この人とずっと一緒にいたいなぁと思った。泣くのも笑うのも、この人とだったら幸せだろうなぁと願った。
兄と義勇の代わりにだとか、ふたりの分もなどとは、思わない。禰豆子は禰豆子自身のために、そして恋したその人のために生きるのだから。
願いはほどなくかなえられ、禰豆子が嫁いだのは、それから半年も経たぬころ。
山暮らしを了承してくれた夫と、ふたりの思い出を夜更けに語らいあう禰豆子の顔には、いつでも微笑みがある。
盆が来るたび、禰豆子は炭治郎の魂とともに義勇の魂もまた、自分のもとへと帰ってくることを疑わない。それは禰豆子が年をとり、彼岸へと旅立つまで、かけらも変わらなかった。