桜が謳うサンサーラ
子どもだって生まれるぞ。男の子だったらふたりで剣を教えてやろうか。おまえのように強くて健康な子にしてやろう。
女の子なら、イヌタデの赤まんまで、ままごとにつきあってやるんだ。禰豆子のままごとにつきあってやってたって言ってただろう? 俺はままごとなぞしたことがないから、うまくやれないかもしれんが笑ってくれるなよ?
海を見に行こう。まだ見に行ったことがないと、俺と一緒に見られたらいいと、言っていたものな。一緒に行こう。おまえは人混みは人酔いしてつらいと言っていたから、浅草なぞより海のほうが気に入るはずだ。
おまえのよく利く鼻には、潮風の匂いはきついかもしれない。でも絶対におまえは海を好きになると思う。
鳥の名前も教えてくれ。おまえが教えてくれたキビタキしか、俺は知らん。
おまえは俺を博識だと誉めそやしたが、俺からすれば、おまえに教えられたことのほうが多いんだ。知っていたか?
なぁ、炭治郎。もっとずっと一緒にいよう。
春も、秋も、夏も、冬も、ずっと一緒に過ごそう。
なぁ、炭治郎。炭治郎。炭治郎。
義勇はおとずれることのない先の話をしつづけた。
そうして、何度も何度も、炭治郎の名を繰り返し呼んだ。すすり泣く禰豆子の声が小さくひびくなか、何度も。
ひかれてやまない恋しい赫灼から、かすかな光がすべて消え去るまで、何度も。