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再見 五 その三の一

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 長蘇が破いたら、紡衣房の者から、藺晨が小言を言われる。藺晨は小声で黎綱に、手伝うよう促すが、黎綱は何故か余裕がある。
「大丈夫ですよ。お痩せになったんで、以前ほど締め付けなくても、着れるようになったんです。破いたりせずに着替えられます。、、、宗主は怒ってますし、、、近寄り難いです」
「は?、痩せた?、長蘇が??。」
「あ、気が付きませんでしたか?。やはり、食べにくい様で。、、宗主は舌が、、、。食べにくいと食べる気が失せる様で、、。」
「あっ、、。」
《黎綱に言われなければ、気が付かなかった。体に軽さが出て、手合わせの時、以前よりも更に、嫌な場所を狙ってくると思ったが、体力が付いて、体が動くようになったのだと思っていた。、、、痩せたせいだったのだ。
 痩せれば精悍な顔つきになり、気が付くのだろうが、顔の白い毛のせいで、痩せたとは気が付かなかった。》
「、、長蘇が痩せた、、とは、。
 今日は、何か美味くて滋養のある物でも探して来よう。」
「はい。宗主が喜びます。」
 黎綱は、嬉しそうに藺晨に拱手し、頭を下げた。


 賀原という街に着いた。
 つい先月、二度ほど続けて遊びに行った街だった。
 規模は初めに行った陽西と、同じ位の大きさだが、交易の拠点になっていて、見慣れぬ物や異国の人がいて面白い。
 藺晨もよく訪れる様で、この街でも藺晨を知らぬ者ははいない。
「暖かい物でも食べよう。」
 長蘇はこくりと頷いた。

 藺晨の行きつけの料亭に入り、個室では手間暇のかかった肉料理を振舞われた。その他にも、汁物や野菜や、全て柔らかく調理されている物が、卓いっぱいに広げられた。
『???。凄い、こんなに沢山!、どうしたのだ。お前の誕生日か?。、、いやいや、、そんな訳ない。
 何かいい事があったのか?。』
「まぁな。深くは聞くな、探るな。
 たまにはいいだろう?。ここらの名物だ。都の物にも及ばずとも劣らない。美味いぞ。」
 そう言うと、藺晨は長蘇の椀に、大きな肉をのせる。
『あははは、美味そうだ。全部食うぞ。』
 初めて二人で琅琊閣を降りた日には、大食いで底無しだろうと思っていたが。
《琅琊閣では、格別、美味い物が出る訳でも無いしな。柔らかく煮込むなんて事は、あまりしない。
 長蘇には食べ難かったのだな。》
 長蘇に、少し申し訳なく思ったのだ。
「店の者には、部屋に入るなと言ってある。誰もおらぬし、何なら衣服を緩めるか?。」
『はん?、、、何の魂胆だ。随分、私に気を使うじゃないか。』
「ん?、あ、、いや。たまには美味いものを食わせてやろうと思ったのだ、、。私の好意を疑うと?。」
 長蘇は暫く考え、、。
『ま、何か目論んでてもいいさ。ここの料理は美味い。良い味をしている。この店ならば、都でも繁盛するぞ。』
──よくは分からぬが、藺晨に何か良い事があったのだろう。遠慮無くご馳走になろう。──
 人が来ないと聞いて、長蘇は笠の紗を上げて、本気で頬張っていた。
『おお、しまった。肉を独り占めしてしまったぞ。
 、、、ほら、最後の一切れだ。食うか?。』
「お前が食え。」
『ほら、、肉。早く食え。』
《長蘇が、珍しく独り占めしては、私に悪いと思ったか?。》
「ははは、気にせずとも良いのに、、。」
 そう言って、長蘇が箸で差し出した肉を食べようとした。
『な〜んてな〜。やっぱ私が食うわ。ぱく、、、うめぇ、、、。』
 長蘇は最後の肉を、自分の口に入れる。
「お〜〜〜ま〜〜え〜〜は〜〜〜。」
『あははははは、美味いんだから、仕方ないな。』
「子供か!。全く。
 、、、、口の周りこんなに汚して。」
『あ?。』
 口の周りの白い毛に、肉を煮込んだ汁が付いていた。
 長蘇は手巾で、口元を拭き取った。
「??、なんでそんな所に、肉の切れ端が付いてるんだ?、あぁ?。」
『え?、ここか??、こっち??。』
「違う違う、、もっと右、、いや、少し下。
 ああああああw、、、違うっ!!。」
『ん?。』
「ここだ!、、ほら、これ。」
 右の頬の毛に、小指の爪程の薄い肉片が付いていた。
 藺晨は、長蘇の方に椅子を寄せて、指で取ってやった。
「あっ、、、毛に汁の色が、付いてしまった。」
 藺晨が手巾で拭いても、毛に付いた色は、中々取れなかった。
「む─────っ!!、落ちぬ。」
《これ以上擦ったら、痛がってしまうか、、。だが落ちない。》
 頬を舐めとってしまおうかと、上げた紗の笠の中に入り、長蘇の頬に唇を寄せる。
 藺晨の体温をもった呼吸が、耳にもかかる。
──擽(くすぐ)ったい、、、。──
 拒む事もせず、じっと終わるのを待っていた。
「ん、取れたぞ。手の掛かる奴だな。」
『はははは。』
「んんん、、?。口元の毛にも色が付いてる!。」
『あはは、、じゃ舐めとってくれ。』
 長蘇はそう言うと、唇を藺晨に差し出す。
「馬鹿!、さすがにしないぞ。手巾を濡らして自分で落とせ。」
『あはははははは、、。どうせ紗で見えないさ。
 案外几帳面だな、藺晨。
 、、でも落とすけどな。』
《折角の美しい容姿を、、。神は与える者を間違えたな。、、、食事する姿は、他の者には見せられぬ。》
「ほら、早く食え。」
 そう言って、藺晨も食べ始めた。
「この芋料理も美味いのだぞ。何時ぞやの焼いた芋も美味かったがな。手を掛けたこれも美味い。」
 長蘇の椀に二つ三つと、芋を使った餅をのせてやった。
『ん、美味いっ!。』
 長蘇が満足している様子で、藺晨は嬉しかった。






 存分に食べ、あちこち店を回り、そろそろ帰ろうかという頃。

 街の中で騒ぎが起こった。
「どうしたのだ?。なんの騒ぎだ?。」
 表にいる者は、皆、何かから逃げている様子だった。
 藺晨が、通りがかった男をつかまえて尋ねる。
「熊だ!、熊王が来たんだ!、女子が捕まった。皆、逃げねえと。」
 男は、藺晨には構っていられず、それだけ言うと走り去って行った。
「熊王だぁ?。」
『見に行くか。』
「当然!、まずは美女の救出だ!!。」
『ん、だが藺晨、熊と闘(や)り合おうなんて考えは起こすなよ。奴は桁違いだ、こっちが殺られるぞ。女子を救って、後は官兵が来るまでの時間稼ぎに徹しよう。いいか、絶対に剣は抜くな、奴を本気にさせるから。』
 思いの外、慎重な長蘇の態度に、藺晨は拍子抜けした。当然長蘇は、『こてんぱんに叩いてやろう』と、言うと思っていたのだ。
「は?、二人で動けぬ位に叩きのめしたら、一件落着だろう?。」
『、、、、多分、我々二人じゃ、無理だ、力不足だ。
 この頃は、官兵も熊対策をしている。数で応戦して、捕まえられなくても、追い払う位は出来ている。』
 長蘇は配下の江左盟から、逐一、報告を受けていたのだろう。どういった輩か、詳しく知っている様だ。
 藺晨は、長蘇が逃げ腰な理由が、『力不足』というだけでは納得をしていなかった。
《あぁ、、そうか、、、。長蘇は表に出られぬ、正体は明かせぬのだ。だから消極的なのか?。
 、、それならば私が。長蘇は側で見ていれば良い。》
 藺晨は、そういう事ならば、自分が一人で熊王をやっつけてしまえば良いのだ、と思った。
作品名:再見 五 その三の一 作家名:古槍ノ標