二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Hello!My family 第1章

INDEX|12ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 どうしてそんなことを思ったのかはわからない。けれども、炭治郎の笑みに、胸の奥がほわりと温かくなったのは確かだ。それは、禰豆子のあどけない笑みを見つめているときの、胸にあふれる愛おしさに似ていた。



 和やかに進んだ食事を終えて、自分と禰豆子の身支度を済ませても、まだ少しばかり家を出る時間まで間があった。食事を作らずに済んだ分、ゆっくりと過ごせるのはありがたい。
 禰豆子は手を焼かせるようなことは一切しないが、それでも朝はいつだって慌ただしいのが常だったというのに、たった一人同居人が増えただけでこんなにも余裕が生まれるとは。
 おかげで炭治郎と今日の予定を話しあう時間もとれそうだ。

「炭治郎、ちょっといいか」
「はい、なんですか?」

 再び台所に顔を出すと、炭治郎は食器を洗い終えたところのようだった。にこやかに笑いながら近づいてくる炭治郎に、義勇は数枚の札を差しだした。
「とりあえず、食費や雑費としてこれだけ渡しておく。足りなくなったら言ってくれ」
「わかりました! あ……でも、俺が買い物に行っちゃっていいんですか? 保育園の帰りに禰豆子とスーパーに行くのが日課なんでしょう?」
「いや……できれば今日から禰豆子の迎えも頼みたい」
 名を呼ばれ、禰豆子がきょとんとした顔で義勇と炭治郎を見上げてきた。
「お迎えパパじゃないの……? お買い物、お兄ちゃんと三人で行くんじゃないの?」
 少し寂しげな声で言われて、義勇はグッと言葉につまった。繁忙期なこともあり、義勇の迎えはどうしても遅くなる。保育園でひとり寂しく待たせるよりは、炭治郎に迎えを任せるほうが禰豆子も喜ぶと思ったのだが、禰豆子はすっかり二人が迎えにくるものだと信じていたらしい。
 当然のことながら、禰豆子が望むのなら今までどおり義勇が迎えに行くのはかまわない。けれども義勇と禰豆子の帰りを炭治郎に待ってもらい、三人で買い物に行くのなら、遠目の大きなスーパーかコンビニに行くことになるだろう。そうなれば夕飯はかなり遅い時間になってしまう。
 帰宅時間を考えるなら、帰りに待ちあわせて炭治郎の元勤め先に行くのが、一番楽ではある。けれども、さすがに昨日の今日であの店に行くわけにもいくまい。
 どうしたものかと義勇が困っているのが伝わったのだろう。禰豆子の前にしゃがみ込み視線を合わせると、炭治郎がにっこりと笑った。
「禰豆子、俺じゃパパの代わりにはならないだろうけど、我慢してくれないか? 俺が迎えに行くから、一緒に買い物に行って、パパの好きなもの一緒に作ろう?」
「……鮭大根、お兄ちゃんと一緒に作るの?」
 小さな声でたずねる禰豆子に、炭治郎の首がことりとかしげられた。
「鮭大根?」
「パパが好きなの、鮭大根だよ。禰豆子にも作れる?」
 視線でそうなんですか? と問うてくる炭治郎に義勇がうなずき返すと、炭治郎の笑みが深まり、もちろんと明るい声がひびいた。
「禰豆子はなにが好きなんだ?」
「んとね、金平糖」
 それはご飯にはならないなぁと苦笑した炭治郎に、禰豆子も恥ずかしそうに笑う。どうやら話は決まったようだ。ホッとして、義勇の肩からも力が抜ける。
「楽しみにしてる」
「うんっ、頑張って作るね!」
 頭をなでてやれば、禰豆子もようやく義勇に笑顔を向けてくれるから、義勇は、助かったと伝えるために炭治郎にも小さく笑いかけた。パチリとまばたいた炭治郎が、ボッと火のついたように顔を赤くした理由はわからないが、このぶんなら問題なく禰豆子を任せられそうだ。
「あ、あのっ、お弁当も作ってあるんで二人とも持っていってくださいねっ」
 上ずる声で言ってテーブルに置いてあった弁当の包みを差しだしてくる炭治郎に、禰豆子の目が輝いた。
「グラタン?」
「うん、入ってるよ」
 ありがとうと素直に受け取った禰豆子と違い、義勇は、少々困惑気味に炭治郎が手にした包みを見つめていた。弁当など持っていったことがない。妻はそんなものを作ったことがなかったし、義勇も禰豆子の分を作るだけで手一杯で、自分の弁当など考えたこともなかった。そもそも、義勇の弁当箱などあっただろうか。
 義勇が困惑しているのに気づいたか、炭治郎の眉がくもった。
「えっと……義勇さんは、もしかしてお弁当いりませんでしたか?」
「いや……しかし、二人分も作るのは手間だろう? 明日からは禰豆子のだけでかまわない」
 申し訳ない心持ちで言えば、炭治郎はきょとんとしたあとで、こともなげに笑って言った。
「一人分も二人分も手間は変わらないですよ」
「……そういう、ものか?」
 はいっ! と明るく答える炭治郎と、禰豆子のより大きな弁当を見比べ……そして、義勇は差し出された包みを受けとった。
「ありがとう」
 自然と口をついた礼に、炭治郎が浮かべた笑みは幸せそうで。ほんのりと染まった頬に、なぜだか義勇の胸はキュッと痛んだ。
 それは、不思議と甘い痛みだった。

作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA