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Hello!My family 第1章

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 有能な家政夫だと、義勇だって認めているのだ。だが、それでも。

 自分でなくとも、炭治郎には誰だって少しは休めと言いたくなるはずだと、義勇は眩暈すらしそうになった。

 昨日は義勇が休みだったこともあり、掃除や洗濯をしようとするたびにらみを利かせられた。おかげで炭治郎も、食事の支度以外は働くことを諦めたようだったけれど、それでも食事の支度は押し切られて頼む羽目になった。
 禰豆子が炭治郎の料理をすこぶる喜んだこともある。お兄ちゃんと一緒に作ったんだよと、鮭大根を義勇の前に置きうれしげに笑った顔は、憂いなどかけらもなく、いつになく言葉数も多かった。
 禰豆子が大根の皮をむいてくれました、上手にむけてるでしょ? と、炭治郎に褒められて照れくさそうにはにかむ禰豆子は、親の贔屓目抜きに可愛い。義勇にしても、自分のつたない料理よりも、炭治郎が作った美味しい食事のほうが、食が進むのは確かだし、禰豆子も炭治郎の手伝いをするのが楽しくてたまらないようではある。
 義勇が一緒に料理するときは、禰豆子の安全を見守るだけで手一杯になってしまって、ちっとも作業が進まないものだから、手伝いといっても皿を出すとかテーブルを拭くぐらいしかさせてはやれない。けれども、炭治郎は子供用のピーラー――皮むき器のことをそう呼ぶのだということすら、義勇は初めて知った――を買ってきて、禰豆子ができることを任せてやっているようなのだ。禰豆子が興奮しきりに、今日は人参の皮をむいたのだとか、いんげんの筋を取っただとか、誇らしげに義勇に報告するのを聞いていると、炭治郎が料理するのを止めるのはどうにもためらわれた。
 とはいえ、あくまでも炭治郎は『家政夫』として冨岡家の家事をしているのだ。しかも十八にもならぬ年少者である。仕事ばかりさせるのは申し訳ないじゃないか。
 高校生として勉学にも励まなければいけないし、友達とだって遊びたいだろう。だというのに、炭治郎はそんな様子はおくびにも出さず、楽しそうに笑っている。

 たったの三日。されど三日。

 それだけの時間が経ったなかで、義勇が炭治郎と交わした会話はそう多くはない。帰宅が遅くならざるを得ない繁忙期中なのが、どうにも悔やまれる。義勇が帰るまで起きて待っていた禰豆子を風呂に入れたら、慌ただしく食事をとるだけで終わってしまった。会話するどころではない。
 それでも、昨日は休みだ。会話する時間ならあった。
 義勇としては、食事と禰豆子の世話はともかく、ほかのことはしなくていいと念を押すべきところであったが、どう切り出したものか悩むだけで終わってしまった。なんとも不甲斐ないかぎりだ。
 考え込んでいた義勇が不機嫌そうにでも見えたのだろう。炭治郎は勉強してきますと客間にこもってしまって、やはり、ほとんど会話はできていない。正式な契約は日曜に、法務に詳しい同僚の立会いのもとでと伝えてしまっていたから、勉強の手を止めさせてまで勤務について話をするのもためらわれた。
 不機嫌というよりも、炭治郎が働こうとするのをどう止めたらいいのかわからず困っていたというのが義勇の本音だけれど、そんな心情を誤解なく伝える術を義勇は持ち合わせていない。喋るのは苦手だ。
 苦手とはいえ、仕事でならば特に問題があるわけではない。と、義勇は思っている。ところが、普段の会話になるととたんに駄目だ。義勇が話すと、なぜだか相手は苛立ちや困惑の顔を見せる。まだ結論に至らぬうちに、もういいと話を打ち切られたり、結局何が言いたいんだと憮然とされたりするものだから、ますます義勇の苦手意識は高まるばかりだ。
 長話がいけないのだろうかと努めて簡潔に話せば、今度は相手が怒りだす始末である。理由はいつまで経ってもわからぬままで、三十近くになっても改善される見込みはない。

 不死川と伊黒も最初はほかの者たち同様の反応だったけれども――甘露寺は、最初から今とさほど変わらなかったように思うが――いつのまにやら不思議と会話できるようになっていた。改めて思えば、実に稀有な存在だ。三人がいてくれたから、嫌厭されがちな自分でもどうにか社内でも孤立せずにすんでいる。ありがたいことこの上ない。

 だが、炭治郎はそうはいかないだろう。義勇の眉が知らず知らずのうちに寄せられた。
 同居して以来、少しは会話もしているけれども、まだぎこちなさは拭えない。いや、炭治郎は気負った様子などまったく見せず、いかにも人なつこく話しかけてくるのだが、義勇のほうがどう会話をつづければいいのかわからないのだ。頼んだ仕事以外はしなくていいと伝えることすらままならずにいるのに、そんな細かな自身の胸の内など、どう伝えたらいいのか義勇にはさっぱりわからない。

「あの……義勇さん」

 自己嫌悪におちいりかけた義勇は、不意にかけられた声に我に返り、内心少しあわてつつ炭治郎を見やった。炭治郎はなぜだか困ったような顔で義勇を見つめていた。
 炭治郎の視線はいつでもまっすぐだ。じっと目を見て話しかけてくる。赤みがかった瞳には曇りがない。
「ホームの先生に連絡して、転職の報告をしました。驚いてたけど、頑張れって言ってもらえました。それで、後見人の同意書も書いてくれるそうです」
「そうか……」
「あと、言われてた必要書類も用意しましたけど……あの、俺……」
 言いよどみ、炭治郎はもじもじと少しうつむいた。
 炭治郎がこんな風にためらう様子を見せるのは、同居の初日以来だ。不死川が用意してくれた必要書類などの一覧表を渡したときには、少し驚いた表情を見せたものの、準備しておきますと笑顔で言っていたのに。いったいどうしたというのだろう。

 お気遣いありがとうございます、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いしますと、同僚さんにも伝えてくれと言った炭治郎に、自分よりよっぽどしっかりしていると内心思ったことは、炭治郎や禰豆子には内緒だ。

 不死川たちにもそんなことは言ってはいないが、炭治郎の言伝を聞いた三人の感想は、義勇とまったく変わりがなかったようだ。
 高校生よりも世話が焼けると思われているらしいのは、心外なことこの上ないが、反論するだけの根拠もない。木曜にくらべれば、炭治郎のことを聞くときの不死川と伊黒の態度がいくぶん軟化したのだから、それでよしとすべきだろう。
 炭治郎の様子を心配しながらも、金曜の昼食時の同期たちを思い返し、義勇は胸の内で小さく苦笑した。

 木曜の昼食に引き続き、金曜も食事を不死川たちとともにすることになった理由は、義勇にもなんとなく察しがつく。三人とも炭治郎のことが……というよりも、禰豆子を炭治郎に任せることが心配だったのだろう。
 義勇がどれだけ炭治郎なら大丈夫だと言ったところで、三人にしてみれば、はいそうですかというわけにはいかないらしい。
 離婚当時に頼ったことで、三人は自分たちもまた禰豆子の保護者だと思っているようなふしがある。そんな三人にしてみれば、どこの馬の骨とも変わらぬ男に、大事な禰豆子を任せる義勇が信じられんというところであるらしかった。いや、甘露寺だけは、炭治郎の手作り弁当に感心しきっている分、それなりに炭治郎を信用しているようではあるのだが。
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA