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Hello!My family 第1章

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 それでもやっぱり、もろ手をあげて賛成とは、甘露寺でさえも言えそうにないようだ。
 親身になってくれること自体はありがたいが、義勇では頼りないと思ってもいるようなのは、少々憮然としなくもない。実際のところ、当時の義勇はろくに家事もできない有り様だったから、反論はしづらいのだけれども。

 ともあれ、根掘り葉掘り炭治郎について聞いてきた三人に、義勇なりに言をつくして炭治郎がいかにいい子なのか伝えたつもりだ。口下手なうえに食事中はろくにしゃべれない義勇の言葉では、あまり効果はなかったようだが。
 それでも少なくとも、炭治郎の料理の腕前に関しては、嫌味が通常運転な伊黒でさえ認めざるを得ないようではあった。今のところはそれだけだ。二日続けて甘露寺に歓声をあげさせた炭治郎の弁当に、義勇もなんとはなし誇らしくなったりもしたが、炭治郎の良さは料理の腕前だけではないのだとうまく伝えられなかったのは、残念ではある。
 とはいえ、義勇としてはあまり心配はしていなかった。炭治郎の真面目さや思い遣り深さは、会って話しさえすれば三人だってすぐに理解するだろう。炭治郎になら禰豆子を安心して任せられると、三人とも信じてくれるに違いない。それを義勇は疑わなかった。
 禰豆子があれだけ懐いている様を見れば、疑り深い伊黒や怒りっぽい不死川だって、きっと太鼓判を押してくれるはずだ。人のいい甘露寺に至っては言うまでもない。
 そこまで考えて、義勇は、あぁ、そうかと納得した。

 どんなにしっかりしているとはいえ、炭治郎はまだ高校生だ。いきなり法律に詳しい同僚が契約について助言するためにくると言われれば、身構えもするだろう。聞いたときにはピンとこなかったかもしれないが、時間が経つうちに不安になってきたに違いない。

 炭治郎の逡巡を、義勇はそう決定づけた。
 そんな炭治郎の反応は、義勇にしてみれば少し微笑ましくもある。しっかりしていてもやっぱりまだ子供なんだなと、わずかに安心もする。
 みんないい奴だから心配することはないと義勇が口にする前に、「おはよう」とあどけない声が聞え、禰豆子が目をこすりこすりあらわれた。

「おはよう、禰豆子」
「おはよう! よく眠れたか?」

 出鼻をくじかれたようなものだが、しかたがない。炭治郎も禰豆子の姿を見た瞬間に、憂いの晴れた顔で笑ったので、まぁいいかと、義勇はそれ以上炭治郎に話しかけるのをやめた。
 口下手な自分がうまく炭治郎を安心させてやれる確証はないし、どうせ三人がくればいらぬ心配だったことはわかるのだ。論より証拠。無理に言い聞かせるまでもない。

 禰豆子が起きてきたことで、炭治郎もあわただしく朝食の準備を再開した。
 おまえの仕事は休みだと、また義勇は顔をしかめかけたが、今朝はもうしかたがない。禰豆子の前だ。みそ汁をよそいだす炭治郎をとがめるよりは、禰豆子に食事をさせてやるほうが先決だ。
 まずは禰豆子の顔を洗ってくるかと、義勇は禰豆子に近づいた。
 週末は自発的に起きるまで寝かせておいてやるのだが、今日の禰豆子はずいぶんと早起きだ。

「パパ、あのね、みっちゃんもうすぐくる?」

 まだ少し寝ぼけているような声で言いながら、禰豆子は義勇の足にキュッと抱きついた。なるほど、それが楽しみで目が覚めてしまったのか。
 甘えをあらわにする禰豆子に、義勇の頬が知らずゆるむ。はたから見れば相も変らぬ能面のような顔だろうけれども、禰豆子は義勇の表情が和らいだことをちゃんと理解したようだ。安心しきったあどけない笑みを浮かべている。
「まだだ。十時半ごろだって言っただろう?」
「しーちゃんといっちゃんもくるんだよね? 禰豆子とあそんでくれる?」
 小さな体を抱き上げながら言えば、さらに問うてくる。ワクワクとした期待がにじむ声だ。
「不死川は俺と炭治郎の話し合いに同席するから、遊べるとしたらその後だ。その間、禰豆子は甘露寺と伊黒と一緒に遊んでいてくれ」
「いいよ! 公園に行ってもいい?」
「雨が降らなければ」
「お日様出てたらいい?」
「あぁ」
 その前に顔を洗ってご飯にしようと促す義勇に、禰豆子がうれしげにうなずいた。

「同僚さんたちと禰豆子、すごく仲良しなんですね」

 こちらもどこかうれしげな炭治郎の声に、義勇が振り返ると、炭治郎は穏やかな笑みを浮かべていた。不安が晴れたのならなによりだ。
「あのね、みっちゃんたち、とってもやさしいの。禰豆子といっぱい遊んでくれるんだよ」
「そっかぁ。俺とも仲良くしてくれるかなぁ」
「してくれるよ! みっちゃんも、しーちゃんといっちゃんも、とってもやさしいもん!」
 どれだけ甘露寺たちがやさしいかを、炭治郎に語りたいのだろう。おやつにホットケーキを焼いてくれただの、飛行機ブーンしてくれたりご本読んでくれるのだのと、勢い込んで話しだす禰豆子に苦笑して、義勇は、ひょいと禰豆子を抱きあげた。
「禰豆子、先に顔を洗おう。ご飯が冷めるぞ」
 言ってやれば、禰豆子は素直にうなずいた。けれども、ちょっとしょんぼりとしても見える。
 話したいことがいっぱいあるのだろう。かわいそうだが、このまま話し込むのを聞いているわけにもいかない。
 炭治郎の作った食事が冷めるのも申し訳ないが、なにより、今日は不死川の立会いのもと、炭治郎と正式に契約を交わすのだ。かまってやれる時間が少なくなる分も、今日はいつも以上に世話を焼いてやりたかった。
 一緒にいたところで、たぶん問題はない。禰豆子はおとなしくしているだろう。けれども、それでもやっぱり、真面目な話をしている時に相席させるのは躊躇われる。場合によっては少しばかり強い語調になることもあるだろうし、諍いに似た場面を禰豆子に見られるのは是が非でも避けたい。甘露寺と伊黒が遊んでやってくれれば、退屈させることもないだろう。

「ご飯を食べたら、話の続きを聞かせてくれよな」
「うん! いっぱい教えてあげるねっ」

 炭治郎にも笑いながら言われ、禰豆子も再び笑みを浮かべた。
 こんなふうにずっと笑っていてほしい。そのためにも、炭治郎には相応な待遇をしなくては。
 思いながら義勇は、ご機嫌に甘露寺たちと遊ぶ予定について話しつづける禰豆子にあいづちを打ちつつ、洗面所に向かった。

 昨夜の天気予報では、午前中は梅雨の晴れ間となるらしい。午後から崩れる可能性はあるようだが、この時間なら乗りたいと言っているブランコにもきっと乗れるだろう。
 話し合いが終われば、今日は甘露寺たちにつきあってもらって買い物に行く予定である。昼は外食するから、炭治郎を休ませてやることもできる。夕飯のおかずになりそうなものも買ってくれば、炭治郎だって仕事をせずに済んで喜ぶのではないだろうか。

 そんなことを考えて、義勇も小さく微笑んだ。
 契約を終えた後の予定までは、まだ炭治郎には伝えていなかったことなど、そのときの義勇の脳裏にはちっとも浮かび上がってはこなかった。義勇にしてみれば考える必要もないほどに、些細なことであったので。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA