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Hello!My family 第1章

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 思っていれば、傍らの不死川も同じようなことを考えたのだろう。いつもは不機嫌そうにすら見える顔に、やわらかな笑みが浮かんでいた。
「さて、禰豆子がご機嫌なうちに済ませるかァ」
 言いながら上り框をあがる不死川につづいて、義勇が靴を脱いでいると、ひょこりと炭治郎が顔を出した。
「あ、いらっしゃいませ。今日はよろしくお願いします!」
 不死川にむかい、ぺこりと頭をさげる。炭治郎の快活な声と笑顔に、不死川がわずかに眉をそびやかしたのをうかがい見て、義勇は知らずムフフと笑った。

 炭治郎は本当によい子だ。不死川や伊黒だって、実際に会ってみればちゃんと炭治郎のよさがわかると思っていたが、やっぱりだ。

「なぁに笑ってやがんだ、テメェ」
 こつんと頭をこづかれて、少し不満げに見やれば、不死川はフンッと鼻を鳴らした。
「どうせ、俺の見る目は正しかっただろうとか、くそ生意気なこと思ってやがんだろうがァ」
「……すごいな、エスパーか」
「わからいでかっ」
 言葉は荒いが、不死川との会話は苦ではない。義勇にしてみれば、馴染んだやり取りだ。
 だが、炭治郎にとっては充分面食らうものであったらしい。ぽかんと口を開けて見つめられているのに気づき、義勇はバツの悪さをごまかすように空咳すると、不死川をうながした。
 炭治郎にはもう、家事の下手なバツイチ男の顔を見せてしまっているのだから、今さら雇用主としての威厳もなにもないものだとは思う。とはいえ、あまりみっともないところを見せたくはないのも事実だ。
「法務部の不死川だ。契約のアドバイスをしてくれる」
 あるかなきかの威厳を取り戻すべく努めて冷静に言えば、炭治郎はぱちりとまばたきしたあと、神妙にうなずいた。対する不死川はといえば、いかにもあきれ顔だ。少々居心地の悪い思いをしつつ、義勇は先に立って廊下を歩きだした。
 炭治郎が信用に足る子だと不死川が理解してくれれば、話し合いはすぐ終わるだろう。恥をさらさぬうちにさっさと終わらせようと、炭治郎に向かい手がすいたら座敷へと言い置き、義勇は足を速めた。
 廊下を行くさなかで、不死川がさしたる感慨もなさげに呟いた。

「……ま、すれた感じはしねぇなァ。見た目では合格ってとこか」
「性格だっていい」

 食い気味に言った義勇に、不死川のあきれはいよいよ深まったようだ。口には出さないが、表情が如実に物語っている。
 多少なりとはいえ、感情の機微を言葉にせずとも察することができるぐらいには、不死川との付き合いは深い。大学時代までの自分からは考えられないなと、ふと思い、義勇はわれ知らずまつ毛を伏せた。
 過去の自分を想い返すと、叫びだしたいような怒りとも悲しみともつかぬ感情が胸のなかに渦巻いて、どこか遠くへと逃げてしまいたくなる。
 そんな場所はありはしないし、ひとり逃げることなど許されるわけもないのに、無様だなと内心で義勇は自分を嘲笑った。
 暗く沈みかけた義勇に気づいたのだろう。不死川はことさら大きく伸びをすると、
「さっさと済ませて禰豆子の買い物行くかぁ。おい、今日の飯はテメェのおごりだからなァ」
 と、軽い調子で言った。
 意をくみ取れるようになったのは、自分ばかりじゃなかったなと、義勇は小さな感謝とともに苦笑しうなずいた。
 他人とかかわりを持たぬように過ごしてきた義勇だが、不死川や伊黒たちのことならば、少しはわかる。逆もまた真なり。わかりにくい義勇の感情を推し量れるだけの時間を、不死川たちも義勇とともに過ごしたということだ。思えばそれは、なんとも面映ゆい。
 だが、感謝をうまく伝えられるような器用さは義勇にはなく、不死川もとくに望んではいないだろう。
 
 応接間として使用している座敷に入ると、義勇は炭治郎が準備していてくれた座布団を不死川に勧め、自身はそのまま部屋を出た。雇用契約書などのひな型は、書斎兼用の自室に置いてある。アレがなくては話にならない。
 手際が悪いと言わんばかりの、不死川の視線が背中に痛い。けれども、文句を言う気はなさそうだ。急がなければと自然に歩みは速まった。

 机に置いたままだった書類を手にした義勇は、さて戻るかと踵を返しかけた瞬間、目に入ったノートパソコンに、これも持っていくかと独り言ちた。
 義勇が作った書類は、現状あくまでもひな型だ。炭治郎の要望なども取り入れてから、諸々の条件を決定する予定でいる。変更が必要ならば、その場で修正し印刷したほうがよかろう。

 パソコンとプリンターも持っていくか。そのほうがきっと効率的だ。

 ひとり頷いて、義勇はプリンターの上に必要なものをまとめて乗せた。思ったよりも荷物になったが、さほど重いものでもない。
 急いでセッティングしなければ、短気な不死川をまた怒らせてしまう。少しばかり焦りつつプリンターなどを両手に抱え義勇が書斎を出ると、背後からうれしげな声がかけられた。
「パパ! あのね、みっちゃんたちが公園行ってもいいよって!」
 振り返ると、禰豆子が甘露寺の手を引きながら寄ってきた。後ろに伊黒がつづいている。
「そうか。甘露寺と伊黒の言うことを、ちゃんと聞くんだぞ」
「うん!」
 笑ってうなずく禰豆子の頭をなでてやりたいと思うが、あいにくと両手はふさがっている。わずかに眉を寄せた義勇に、甘露寺が笑った。
「禰豆子ちゃんはいい子だもの、大丈夫ですよ~。それより冨岡さん、大荷物ね。持ちましょうか?」
「甘露寺は禰豆子と手を繋いでいるだろう? チッ、しかたがないから手伝ってやる。さっさと渡せ」
 義勇が答えるより早く言い、奪い取るようにプリンターなどを手にした伊黒が眉を寄せたのは、義勇の反応の遅さへの苛立ちばかりではないだろう。

 予想より重かったんだな。

 思いながら、義勇は、ともかく禰豆子の前にしゃがみ込んだ。重いだろうなどと言えば、きっと伊黒はへそを曲げる。ネチネチとそんなわけがあるかとの長口上を聞かされるのは、避けたいところだ。
「急いで転ばないよう気をつけろ。車にも注意するんだぞ」
「はーい!」
 元気に手をあげて、よい子のお返事をしてみせる禰豆子に、こくりとうなずく。さて、伊黒の腕が悲鳴をあげる前にプリンターを受けとらねば。
 しかし義勇の意に反し、ありがとうと手を出す前に、伊黒は先に立って座敷に向かって歩き出していた。
「座敷に持っていけばいいんだな?」
「あぁ。だが、俺が……」
「禰豆子も行っていい? お兄ちゃんとしーちゃんにもいってきます言うの」
「そうだな、それじゃ三人で行くか」
 小刻みに腕を震わせながらも言う伊黒に、禰豆子と甘露寺がうれしげにうなずいてしまえば、義勇に口をはさむ余地などない。上げた手はそのままに、オロオロとしてしまうだけだ。
「おいっ、紙が落ちる。これぐらいは持て」
 イライラとした声が飛んできて、あわてて書類を取り上げたが、最初から俺に荷物を渡せばいいのでは? と、思わなくもない。言わないけれども。

 多分、甘露寺の前だからいいところを見せたいのだろう。たかがプリンターとノートパソコンで感心されるかどうか、よくわからないが。
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA