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Hello!My family 第1章

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 いずれにせよ、三人とも楽しそうなのだから、それでいい。思いながら眺めるほんの少し前を歩く三人は、仲睦まじい家族のようだ。
 俺よりもよっぽど家族らしい。ふと浮かんだ言葉を、義勇はわずかに視線をそらせることで振り払った。
 俺でなければ、もっと。俺なんかより、きっと。そんな言葉は何度だって浮かんでくる。消えたことなんて一度もない。
 けれど、もしそれが最善なのだとしても、禰豆子の父でいたいのだ。禰豆子がいてくれるから、どうにか『普通』の顔をして、『普通』の人のように暮らしていける。なによりも愛おしいこの子がいるから、義勇は、自分自身に生きていくことを許せるのだ。
 自分が不甲斐ないばかりに、つらい目に遭わせた愛し子。泣くことにすら怯えていた我が子。そんな禰豆子が、楽しそうに笑っている。

 守らなければ。けっして悲しい顔をさせないように。

 炭治郎が来てくれて、禰豆子はますます明るくなった。あの笑顔を曇らせないよう、炭治郎にはこのまま一緒に暮らしてもらいたい。
 それにはなんとしても炭治郎に、この家で働き続けてもらわなくてはならないのだ。もちろん義勇とて、炭治郎には、いずれこの家を出てきちんとした会社に就職することを勧めるつもりではいる。炭治郎の将来を考えれば、そのほうが炭治郎のためになるのは間違いない。
 だが、それも先の話だ。少なくとも、炭治郎が高校の卒業資格を得るまでは、禰豆子のそばにいてもらいたい。
 義勇は手にした書類に視線を落とした。あのスーパーとは比べものにならない好待遇だとは思うが、さて、炭治郎はこれで了承してくれるだろうか。
 寮のある就職先だって、探せばいくらでもあるはずだ。福利厚生などの面からすれば、自分が個人的に雇うよりも、よっぽど炭治郎の利になる会社は多かろう。
 なんだか不安が増してきて、もっとしっかりと不死川に相談してからのほうがよかっただろうかと、わずかに後悔がよぎった。
 だが、そんな後悔は手遅れだ。先を行く三人が座敷の襖を開けるのを見て、義勇はため息を飲みこんだ。

 ともかく、これはまだひな型なのだ。炭治郎の要望をできるかぎり盛り込んで、なんとか納得してもらうよりほかにない。

 よし、と姿勢を正し、三人から少し遅れて義勇が座敷に顔を出すと、すでに禰豆子たちは炭治郎にいってきますの挨拶を済ませたようだった。不死川が勝手知ったる他人の家とばかりに、プリンターのコンセントを繋いでいる。
 義勇と入れ替わりに、パパいってきますと明るく笑った禰豆子の手を引き甘露寺と伊黒が出て行けば、座敷にはそこはかとなく緊張感が漂った。
 いや、そんな気がするのは、義勇だけだったかもしれない。なにも気負うことはないと思ってみても、義勇にしてもこんな場は初めてのことだ。どうにも緊張してしまう。あまり物事に動じない質だと自分では思っていた義勇だが、炭治郎と出逢ってから、なんだか勝手が違うことが多すぎる。
 わずかに及び腰になっていると、卓を挟んで向かい合って座る不死川と炭治郎が、そろって義勇を見上げた。不死川の顔は、言葉にせずともさっさと座れと言わんばかりにしかめられている。
 少しあわてて炭治郎の隣に腰をおろそうとした義勇に、その顔はますますしかめられた。

「おい、コラ。なんでテメェがそっちに座んだよ。テメェは面接する側だろうがァ」

 それもそうか。パソコンだって不死川の側に置かれている。パチリとまばたいた義勇は、少々バツ悪く不死川の隣に座り直した。
 どうも不死川たちといると、炭治郎に恥ずかしいところばかり見せてしまっている気がする。
 ろくに家事もできないことについては今さらだが、会社でもこんなふうにまるで幼児扱いで世話を焼かれているのではと、あきれられるのは遠慮したい。見栄を張りたいわけではないが、失望されるのはなんだか妙に胸が痛んだ。
「さて、さっさとやるかァ」
 書類を奪われてしまえば、いよいよ手持ち無沙汰だ。もたもたしているあいだに炭治郎がいれてくれたらしい茶は卓に置かれているが、客人である不死川が口をつけていないものを、先に手にするのもためらわれる。
 仕事ならば、これほど不甲斐ないところなど見せることはないと思うが、どうにも勝手がつかめない。
 炭治郎は、こんな自分をどう思っているのだろう。そればかりが気になって、けれども炭治郎の顔を見るのもなんとなく気まずい。あきれや軽蔑が炭治郎の瞳に浮かぶのを見てしまったらと思うと、視線を合わせることすら躊躇してしまう。
「ふーん、まぁまぁ考えられてんじゃねぇか」
 そう言った不死川の声は素っ気ない。だが、少しばかり弾んでいるように聞こえるのは、気のせいだろうか。
 空気を読めないと言われがちな義勇だが、不死川たち同期のことは、他人に対するのとは段違いに理解できていると思ってはいる。しかし、なぜ不死川の機嫌が上向きになるのかは、さっぱりわからない。
 困惑しつつも、表情を変えることなく義勇はかすかに首をかしげて不死川を見た。合格かと問う意思表示は、あやまたず不死川に伝わったようだ。二ッと笑う不敵な顔に、心中で胸をなでおろす。
「が、まずは確認だなァ。おい、前の職場での未払い金は、どういう形で支払われるんだ? ちゃんと決めてあんだろうなァ」
 言われ、パチリと義勇はまばたいた。視線を向ければ、炭治郎も同様に、キョトンとしている。
「……おい、まさかなんにも取り決めてねぇんじゃないだろうなァ」
「……次の給与と一緒に支払われると思うが」
 とくに確認はしなかったが、当然そうなるものだと思っていた義勇は、内心の戸惑いを隠して呟いた。一気に険しくなった不死川の目つきに、ヒヤリとした汗が背中を流れる。まさか、そんなところからダメ出しを食らうとは思いもしなかった。だが、これほど殺気立った様子を見せるからには、それでは問題があるのだろう。
「未払い金を一気に払やぁ、違反してたことがバレるかもしれねぇって、不安になってもしかたねぇ。退職金ってわけにゃいかねぇんだからな。一気に支払うのは渋るに決まってんじゃねぇかァ。とりあえずまだ働いてることにして、給与として毎月支払うって言いだすかもしれねぇだろ」
 そうなれば、実情はともあれ、炭治郎は仕事の掛け持ちをしていることになる。労働時間が基準値を超えれば、厄介なことになりかねない。
 そう宣う不死川に、思わず義勇は炭治郎と目を見あわせた。
 なるほど、たしかにそのとおりだ。そこまで考えが及ばなかった自分が情けない。
 忸怩たるものを抱えつつ、義勇は不死川に向き直り、口を開いた。
「うちでの勤務時間を減らして、あちらはパート扱いに変更させればどうだ? 合わせて八時間以内に調整すれば、なんとかなるか?」
「えっ!? それじゃ、ここでの仕事が、二、三時間になっちゃいますよ!」
 不死川が答えるより早く、泡を食って身を乗り出してきた炭治郎に、義勇は、わずかに眉を寄せた。
「しかし、法を破るわけにはいかないだろう。うちでの勤務は朝食と禰豆子の弁当作り、俺が帰るまでの子守りだけにして、保育園の送り迎えもしなくていい」
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA