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Hello!My family 第1章

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「そんなっ!! 大丈夫です! お給料をもらわなかったらいいんですよね? 俺、店長さんにお金はいりませんって言ってきます! じゃなきゃ、未払いのお金をもらい終えるまで、ここでの給料はいりません。それなら大丈夫ですよね!?」
 そんなわけにいくか。思わず気色ばんだ義勇に、炭治郎の肩がビクリとすくめられた。それでも、撤回する気はないらしい。キリッと眉をつり上げ、口をへの字に義勇を見つめてくる。
 頑固者めと思わず舌打ちしそうになったとき。

「……とりあえず、向こうは週五日、一日二時間のアルバイト扱い。冨岡んとこで、六時間。勤務は朝飯や禰豆子の支度やらで二時間、禰豆子を迎えに行ってから子守りと晩飯で四時間。んなもんかァ」

 声を荒げかけた義勇に、水を差したのは不死川の少し間延びして聞える声だ。われ知らず肩の力が抜けて、まじまじと不死川を見やれば、ニヤリと笑みが返ってくる。
 このまま言いあうよりも建設的だと、義勇はうなずきかけたが、炭治郎はますます不満げな顔をした。
「それじゃ昼間なにしてたらいいんですかっ。家のことをするのが家政夫さんですよね? 掃除や洗濯もしないで、料理と禰豆子の世話だけでお給料もらうなんてありえません! あんなちゃんとした部屋に住まわしてもらったうえ、ご飯まで食べさせてもらうのにっ!」
 わめく炭治郎に、高校生なんだから勉強すればいいだろうと義勇が言うより早く、口を開いたのは不死川だった。
「さもなきゃ、テメェがひとまず未払い分をこいつに払って、その分を店長に貸し付けたことにすりゃあいいんじゃねぇの? 店長からテメェに借金返済の形で月々払わせりゃ、帳尻はあうだろ」
 こともなげに言う不死川に、炭治郎の目がパチパチとせわしなくしばたいた。義勇も思わず目を見開き、わずかに放心する。
 言われてみれば、簡単なことではないか。なにも店長から直接支払われることに固執する必要はない。
「で、でもそれじゃ義勇さんが困りませんか? 月々お給料をもらうだけでも、かなり家計にひびくと思うんですけど。未払いがいくらかわかんないけど、いっぺんに出すなら結構な金額になりますよね?」
「不要な心配をするな」
 名案だと安堵した義勇と違い、炭治郎はまだ納得しかねているようだ。安心させたくて言ったのだが、不安が晴れるどころか、どこか傷ついたような目をする。
 なにか失敗しただろうかと、かすかに義勇はうろたえた。炭治郎の切なげに憂いているような瞳に、胸がツキリと痛む。
 いつもこうだ。自嘲に義勇の胸の痛みが増した。
 自分が口を開くと、みんな眉をひそめたり、イライラした顔をする。炭治郎は不快な様子を見せないが、怒るよりも悲しげな顔をされるほうが、なぜだかつらい。
 けれども、どうしてそんな顔を炭治郎がするのか、義勇には理由がわからない。
 心のなかでは動揺しても、表情は常と変わらないだろう。けれども炭治郎には、義勇の困惑や愁然とした気配は伝わってしまったらしい。先までの切なさとはまた異なる、もの言いたげな目をして義勇を見つめ、言葉を探しているように感じられた。
「……んじゃまぁ、そっちは店長に連絡とって、計算させとくってことでいいな。契約する前に、もういっちょ確認だ。おい、おまえ。施設育ちってこたぁ、ちっせぇガキの扱いには慣れてんだよなァ?」
「あ、はい。六歳になった辺りから上の子たちが施設を出るのがつづいて、年上の子が入ってくることもなかったんで、小さい子の面倒は見慣れてますけど」
 不甲斐ないことだが、不死川が話を進めてくれるのに、正直ホッとする。
 これ以上炭治郎にみっともないところを見せたくないだとか、嫌われたくないだとか。心のどこかでそんなことを願っている自分がいた。そんな自分にとまどいつつも、義勇は、不死川の確認になにを今さらと思わなくもない。
 禰豆子があれだけ懐いているのだ。その一事だけでも、炭治郎が幼児の扱いに慣れていることぐらい、もう不死川だって認めているだろうに。

「それじゃあ、ガキのわかりにくい話も、馬鹿にしたり怒りだしたりしねぇで聞けるか? ついさっきのことを聞いてんのに、関係なさげな一週間も二週間も前のことから話しだしたりすんだろ、ガキってのは。もっとわかりやすく言えっつぅと、今度はいきなり結論だけ言ってみたりよォ」
「あぁ、小さい子にはよくありますよね、そういうの。話し慣れてないっていうか、一所懸命全部話そうとしちゃうんですよねぇ。そうかと思えば、すぐに言わなくちゃって焦って話を思い切り端折るから、こっちはわけわかんなかったりして。大丈夫です! 慣れてますし、ちっちゃい子のおしゃべり、かわいいですから!」

 よく本を読み聞かせてやっているからか、禰豆子はあの年頃にしては語彙は豊富だと思う。話し方も達者なほうだ。理由を考えるとやりきれない気持ちになるが、ほかの子のように回りくどい喋り方など、めったにしない。
 不死川だって知っているはずなのに、なぜそんな確認を? と、首をかしげたくなった義勇だったが、炭治郎がやっと見せてくれた笑顔には思わず安堵した。
 炭治郎が笑っていると、なんだか安心する。まるで自分が、温かな陽だまりでまどろんでいる猫にでもなったような心地になるのだ。

「ならまぁ、合格だァ。よかったじゃねぇか、ガキの扱いに慣れてる家政夫で。ちゃんと面倒見てもらえや」

 澄ました声で言って、すぐにクツクツと忍び笑いだした不死川に、炭治郎が小首をかしげた。義勇もわけがわからない。
「オラッ、ちゃんとさっきの言葉の説明してやれや。心配されなくても大丈夫なんだろうがァ。こいつに月々支払う給料以上に、こいつを雇うメリットもあんだろ」
 言って、結論だけで済ませんじゃねぇぞと念を押すようにつづける不死川に、炭治郎はパチッと目を見開くと、まじまじと義勇を凝視してきた。その視線に少したじろぎつつ、義勇は深く息を吸い、改めてうなずいた。
「……禰豆子には、ずいぶんつらい目にあわせてきた。理由は、その……いずれ話そうとは思っているが、禰豆子が安心して笑ってすごすにはおまえが必要で、それは金には代えられないものだ。俺はそれなりに給料も貰っているし、貯蓄もしているほうだと思う。中学のころに、親が家賃収入を見込んで建てたアパートがあって……あぁ、駐車場もか。駅前の一等地だ。その収入が」
「その情報、今はいらねぇだろうがァ! てめぇの給与分の収入源は確保してある、金ならあるから心配すんなで済む話じゃねぇかっ」
「……そういうことだ」
 いつものごとくギンッと睨みつけてくる不死川に内心あわてつつ、きっばりと言いきれば、炭治郎はポカンとした顔で義勇と不死川を見比べてくる。呆気にとられたような様子に、またぞろ不安が頭をもたげだしたころ、くすっと炭治郎は笑った。
「はいっ、わかりました! それならいいんです。でも、ちゃんとお給料分の仕事はさせてください。光熱費や食費だって、俺のぶんが増えるでしょう? 休日の食事の支度や禰豆子の子守りなんかは、その分をお手伝いで返すって形にしちゃ駄目ですか? 仕事じゃなくて、お世話になってる人に恩返しするためのお手伝いなら、かまわないですよねっ」
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA