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Hello!My family 第1章

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 これ以上は折れないと、聞き分けのない炭治郎を睨みつけても、炭治郎は、でもやっぱり多すぎと、上目遣いに拗ねたような視線を向けてくる。

「……あいかわらず『仕事』だとまともに口が回んのな。普段もそれぐらいわかりやすく話せってんだよ。おい、テメェも多くて困るこたぁねぇだろうがァ。素直に受け取っとけや」

 これ以上もめんな、めんどくせぇ。そう言う不死川の声は、もはや投げやりにも聞こえる。
「禰豆子が戻ったら、買い物も行くんだろうがァ。さっさと済ませろや。禰豆子を腹ペコで待たせる気かァ?」
 禰豆子を持ち出されてしまえば、頑固な炭治郎もこれ以上ごねるわけにはいかないのだろう。グッと唇をへの字にはしたものの、ようやく黙り込んだ。
 義勇だって禰豆子を待たせるのは避けたい。文句もわがままも言わない子だからこそ、なおさらに。

 あぁ、そうか。こんなところも炭治郎と禰豆子は似ているのだ。

 ふと思い、義勇は胸が切なくうずくのを感じた。
 どんなにつらい境遇にあっても、禰豆子はけっして義勇に悟らせようとはしなかった。いや、させてやれなかったのは自分だ。義勇は知らず奥歯を噛みしめた。
 仕事を理由に家庭を顧みることがなかった義勇を、禰豆子はそれでも慕ってくれていた。まだ物心ついたばかりの幼子が、忙しい父を煩わせてはいけないと、必死に耐えてきたのだ。
 炭治郎も、ずっとそんなふうに生きてきたのだろうか。わがままを言い、文句をつけてはふてくされる。そんな子供らしい反抗期すら、炭治郎は過ごしたことがないように見えた。
 思えばそれは切なく、義勇の胸を締めつける。

 せめてこの家で暮らす間だけでもいい、あどけない顔で笑っていてほしい。

 ビジネスだと示すための契約だというのに、そんなことを思う。仕事だから、禰豆子のためだからというだけでなく、炭治郎自身が幸せだと感じられる家にしなければ。そんな決意が胸にわく。
 なぜそこまで炭治郎に笑ってほしいと願うのか。義勇にはよくわからない。
 炭治郎はいい子だ。禰豆子にとって必要な人物であるのに間違いはない。それでも、もしも禰豆子のことがなくとも、炭治郎には幸せであってほしいと思う。幸せであるべき子だと、心底信じている。
 そして、今では義勇自身が、それを望んでいた。
 人と関わることを忌避しつづけていたというのに、自らかかわり、この縁を手放したくないとさえ感じている。炭治郎と出逢う前の義勇なら、こんな変化が自分の身におとずれるとは、思いもしなかっただろう。
 理由はまだわからない。それでも、この変化は義勇にとって悪い気分ではなかった。

「わかりました……それでいいです。あの、いただく給料分、しっかり働きます! よろしくお願いします!」
 義勇が思考を巡らせているあいだに、ためらいは吹っ切れたのだろう。炭治郎はようやくいつもの明るい笑みを見せた。
「……勉強もしろ。あと……ちゃんと、高校生らしく遊ぶ時間も作れ」
 炭治郎の大切な時間をすべて奪う気は、義勇にはない。自分と同じように家に閉じこもる高校生活など、炭治郎に送らせたくはなかった。
「えっと、ちゃんと遊んでますけど……。さっきも禰豆子とお絵かきして遊んでましたよ?」
 キョトンと首をかしげた炭治郎に、ブハッと不死川が吹きだした。義勇も思わず目を丸くしてしまう。

 高校一年だというのに、遊べと言われてまず思い浮かべるのが、幼児とのお絵かきとは。なんともはや、予想外も甚だしい。

 この子はずいぶんと初心なのだなと、心のどこかで愉快な気持ちになっているのが、義勇には不思議でならなかった。
 炭治郎にはすれたところがちっともない。生真面目で頑固者、思い遣り深い正直者。そんな炭治郎だから、この初心さもすぐに納得してしまう。なぜだかうれしくもなる。
 期待や勝手な印象を押しつけてはいけないと、思ってはいる。けれど、炭治郎の些細な一言に浮かび上がる為人は、義勇がイメージする炭治郎そのままで、陶酔に似た喜びが胸にわくのを止められなかった。
「そりゃ子守りだろうがァ。友達と遊んだりしねぇのかよ。夜遊びは褒められねぇが、勤務時間外まで家政夫でいるこたぁねぇぞ。問題さえ起こさねぇならそれでいいんだからよ、好きに遊びに行けやァ」
 そうだろ? と視線を向けてくる不死川に気づき、義勇はあわててうなずいた。
 自分が抱く印象そのままだからといって、それを押しつけ炭治郎を束縛するようなことがあってはならない。炭治郎は自分とは違うのだ。人と関わるのが怖かった自分とは違い、人懐っこく朗らかな炭治郎には、きっと友達も多いだろう。友人たちとの交流を制限させては申しわけがない。
 義勇は、よし、と自分に喝を入れるように、もう一度小さくうなずいた。しっかりと炭治郎の目を見つめ、わずかながら声を張って言った。
「休みの日は俺が家にいる。おまえはいなくていい」
 安心していいと義勇は告げたつもりだったが、炭治郎の瞳は、義勇の言葉を聞いたとたんに劇的に曇った。
 少しぎこちなく口角があがる。わずかに細まった目。炭治郎は薄く笑ってはいる。けれどもどう見たって作り笑いなのが丸わかりだ。
「……そうですよね! えっと、じゃあ、お言葉に甘えて、休みの日は出かけるようにします」 
 笑って言うが、声もなんとはなし寂しげに聞こえた。
 どうしてだろう。そんなにも自分は頼りなく思われているのだろうか。不安と焦りに、義勇は言葉を失い思わず目を伏せた。なぜ炭治郎がこんな反応をするのかはわからないが、自分の言葉が炭治郎を悲しませたことに間違いはない。

 悲しい? 今、俺は炭治郎が悲しんでいると思ったのか。

 何気なく心に浮かんだその言葉に、少し愕然とする。
 炭治郎が自分の言葉ひとつごときで悲しむ理由などあるわけないのに、なぜそんなことを思ったのだろう。わからず、けれども炭治郎の様子は、怒ったり不安がったりしているようには見えない。義勇の目には懸命に悲しみをこらえているように映る。
「テメェはよぉ……もうちっと言葉をえらべや。ガキを落ち込ませてんじゃねぇよ」
 不死川に肘で小突かれて、義勇は焦りを隠しきれずに不死川の袖を掴んだ。炭治郎が落ち込み悲しがっているのは、どうやら自分の思い違いではないらしい。不死川にもそう見えるのなら確実だろう。だからといって、どうすればいいのか、義勇にはわからない。
 助けを求める視線を投げても、不死川は目をすがめ無言で義勇をねめつけるだけだった。
 自分でなんとかしろ。きっと不死川はそう言いたいのだろう。三十路も近いいい大人だ。これぐらいのことは自分でどうにかするべきだと、義勇も思いはする。
 会社でならば、意思疎通の行き違いを不死川たちがフォローしてくれることは、たびたびある。けれども今この場においては、助け船を出してくれる気は不死川にはないらしい。そもそも、そんなものを同僚に求める自分が間違っているのだ。義勇はわずかに唇を噛んだ。
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA