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Hello!My family 第1章

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 いつのまにやら鍋に湯がわかされ、レンジに入れられた冷凍食品のミニハンバーグやブロッコリーは取り出されて、まな板の上でテキパキと切り刻まれていた。
「調理器具や食器も高そうなのばかりですね……割ったり壊したりしないようにしなきゃ」
「……値段は知らん。とくにこだわりも思い出もないから、割ろうが壊そうが気にしなくていい」
「そういうわけにはいきませんよっ。台所だってすごくお金かかってそうだし、食器も揃いのが多いから、こだわって集めたんじゃないかなぁ」
 古臭くて使いづらいと妻があんまり文句を言うから、台所や浴室などの水回りはリフォームしたが、いくらかかったのかなんて義勇は知らない。家電やらなんやらも、アレは嫌だコレは駄目だと勝手に買い替えていたのは知っているが、義勇は一切興味がなかった。
 だから、炭治郎にそんなことを言われても、答える言葉は浮かばなかった。ブランド品など義勇はまったくわからないし、興味もない。妻の提案に義勇がかたくなに拒んだのは、この家を売りマンションに引っ越すことだけだ。
 そんな話をしているうちに、キッチンタイマーのピピピという軽い電子音が聞えた。
 作り出してからものの二十分もかかっていないというのに、そろそろ料理はできあがるようだ。手際の良さをみるに、料理が得意だという炭治郎の言はたしからしい。
「よし、できあがり! お口に合うといいんですけど」
 テーブルに置かれたスパゲッティはチーズの香りがする。おまけに副菜の小鉢までコトリと置かれ、思わず義勇はまじまじと炭治郎の顔を見た。
「こんなに材料があったか?」
「スパゲッティは弁当用の冷凍ミニハンバーグとブロッコリーを具にして、イタリアンドレッシングと粉チーズで味付けしてみたんです。小鉢はジャガイモとツナ缶。禰豆子の分は黒コショウ少な目にしておきました」
「おいしそう! ねっ、パパ、お兄ちゃんすごいね!」
「あぁ……うまそうだ」
 たったそれだけの食材で、こんな短時間で二品も作れるというのは、義勇からすれば魔法じみている。
「ドレッシングやマヨネーズで味付けただけですから、あんまり褒められたもんじゃないですけど」
 感心する義勇や禰豆子とは裏腹に、自分も席に着いた炭治郎はどこか申し訳なさげだ。その様子に義勇は小さく眉を寄せた。
「限られた材料でちゃんとした食事が作れるんだ。褒められて当然だろう。もっと胸を張っていい」
「……ありがとうございます」
 面映ゆそうに言って少しうつむいた炭治郎の頬が、淡く染まっている。なぜだかもじもじと照れているようで、ずいぶんとつつましやかなんだなと義勇はぼんやりと思った。
「パパ、もう食べていい?」
「あぁ、いただきますしなさい」
 うれしげに手をあわせ、いただきますと元気に言った禰豆子につづき、義勇が小さくいただきますと言うと、炭治郎の顔が上がった。
 義勇と禰豆子の口に合うか心配なのだろう。先程までの照れくささげな笑みが消え、なんとも真剣な表情だ。
 あまり凝視されると食べにくいなとちょっぴり思いつつ、スパゲッティを口に入れた義勇は、思わずパチリとまばたきした。
 イタリアンドレッシングと粉チーズが混ざりあったソースは、適度に酸味が飛んで、チーズとハーブの風味が絶妙だ。禰豆子にも食べやすいようにだろう、細かく刻まれたハンバーグとブロッコリーのおかげで食べ応えもある。
 ついで手を伸ばしたジャガイモとツナのサラダも、粗く潰されたジャガイモとツナにマヨネーズがよく絡んでいて、黒コショウがアクセントになりいくらでも食べられそうだった。
「お兄ちゃん、すっごくおいしい!」
「そうか!? よかったぁ」
 禰豆子の歓声にホッとした声で答えた炭治郎は、それでもまだフォークを手にしない。どうやら義勇からの感想を聞きたいようだ。
「……うまい」
「っ、ありがとうございます!」
「冷める前におまえも食え」
「はい、いただきます!」
 ニコニコと笑って大きく口を開け、スパゲッティを頬張る炭治郎に、禰豆子も笑いながらサラダを口いっぱいに頬張っている。

 こんな明るく楽しい食事風景は、何年ぶりだろう。

 幼いころのおぼろげな思い出が、義勇の脳裏をかすめたが、いつものような息苦しさは感じなかった。思い返せば苦しく、絶望的な後悔や自責の念ばかりに支配されるのが常だというのに、なぜだろう。
 思った瞬間に、向かいに座る炭治郎のうれしそうな顔が目に入り、あぁそうか、炭治郎がいるからかと、義勇はわずかに苦笑した。

 いつまで炭治郎がこの家にいてくれるのかはわからない。高校を卒業するまでは衣食住の面倒を見るつもりでいるが、その先はこのままというわけにもいくまい。家政夫としてずっと働き続けてくれなど、炭治郎の将来のことを考えれば言えるわけがなかった。
 
 それでも。

 三人での生活は始まったばかりだ。今はまだ、別れを憂うよりも、禰豆子と炭治郎の幸せそうな笑顔だけを見ていたい。
 温かな食卓を囲む笑い声は、遠い昔の思い出をにじませて、義勇の耳に優しく響いた。

作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA