二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。

INDEX|2ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

「小生、どう接したらよいのか」あたるは、弱気な表情で皆の顔を見る。
「普通にしてろ」磯野は言った。「いくちゃんだって普通にしてんだろ? 誰一人として気づかなかったじゃねえか、いくちゃんの卒業なんて。そりゃあ、いくちゃんが普通にしてる、つうこった」
「俺達も自然体でいよう」夕はあたるに頷いた。「顔見て泣いたら、泣いてでいい。自然でいればいいよ。だって俺達、いくちゃん大好きなんだから、いくちゃんの笑顔見たら笑顔になるぜ、絶対」
「抱きしめちゃおうかな」磯野は真顔で言った。
「お前は駅前さんでも抱きしめさせてもらってろ」夕は素っ気なく磯野に言い放った。
「お断りします」駅前は弱々しく答えた。
「断んのかい!」磯野は手をつけて突っ込んだ。
「いや断るよ……。お前の野獣みたいな素性を知ってる人間達は」夕は鼻を鳴らして、磯野を座視(ざし)する。「お前さ、乃木坂肩にしょい込むのやめろよな。あれ本当に怖がってるからみんな」
「愛情だろ、そうゆーんはよ」磯野は黄昏(たそがれ)て言う。「いくちゃんはまだかついだ事ねえ……」
「いくちゃんみたいな人に嫌われたら、それこそ最後だぞ」夕は磯野を座視しながら、呆(あき)れ口調で言った。「女神みたいな人だからな。ほんとにやめろよ?」
「お前はいつか後悔すんじゃねえのか、あの時、抱きしめてりゃ良かったってよ」磯野は真剣に言った。
「だから……、犯罪なんだよ! 病気かてめえは!」夕は驚きながらも怒り口調で磯野に怒鳴った。「お前一人のもんじゃねえんだよ! 世界の乃木坂なんだよタコ!」
「こんばんは~」
 微かに聞こえた声に振り返ると、五台並んだエレベーターの前に、生田絵梨花の姿があった。
「いくちゃん!」
 その場にいる誰もがそう名前を叫んだ。
 磯野波平はソファを立ち上がって、生田絵梨花のもとへと走った。
「あ、こら波平!」
 少し遅れて、風秋夕は磯野波平の後を追う。
「おう、波平君」絵梨花は驚いた顔をする。
「いくちゃん!」
「わあわっ!」
 磯野波平は、生田絵梨花を抱き上げ、高くかざすと、くるくるとその場を回った。
「やめんか貴様ぁ!」夕は叫ぶ。
「ほい、っと」磯野は笑顔で、絵梨花を床に降ろした。「大好きだぜ、いくちゃん!」
「び~っくりした~っ」絵梨花はちぢこまって驚愕(きょうがく)している。
「ミュージカルみたいだったね」稲見は無表情でそう言って、拍手(はくしゅ)した。「何かのワンシーンみたいだった」
「美女と野獣だろ、だったら」夕は座視で磯野を睨んだ。「ほんとお前、反則だからな? そういうの」
「何のために鍛えてあっか、知ってんだろ?」磯野は夕に笑顔で言う。「乃木坂を抱きしめて、くるくる回りてえから、普段何百キロも持ち上げてんだぜ?」
「そうなの?」絵梨花は苦笑する。「でも、ほんと、ミュージカルの稽古みたいだった、感覚が」
「いくちゃん達なら四人ぐれえいっぺんに持ち上げちまうぞ」磯野は絵梨花に微笑んだ。「さ、座ろうぜ、いくちゃん」
「あの、夕君さ」絵梨花は夕を見る。
「あれシカト?」磯野は困った顔をする。
「どした?」夕は疑問に眉を上げて絵梨花を見つめた。
「今日さ、泊まっていってもいい? 大丈夫?」絵梨花はそう言って、壁面の巨大な壁掛け時計を見上げた。「もう晩くて……、タクシーで帰ってもいいんだけど」
「いやいや、泊まって下さい。お姫様」夕は上品に、絵梨花に微笑んだ。「なんなら、暮らして下さい。遠慮なんて、必要ありませんよ、そんなもの似合いません、お姫様に」
「ああ、ありがと」絵梨花は苦笑して、歩き出す。
「いくちゃんさん、こんばんは……」駅前は、弱々しい笑顔で言った。「ブログ、読ませていただきました」
「……そっか」絵梨花は、微笑んだ。
「いくちゃん殿(どの)~、旅は道連れでござるよ~」あたるは泣き出しそうな顔で絵梨花に言った。「小生もその旅立ちに、連れて行ってほしいでござる~!」
「あはは、いいよう」絵梨花は、小さく無邪気に笑った。「もう泣いてるダーリン。早くない?」
「駅前さんの隣に座るといいよ」稲見はソファを立ち上がって、そちらに手をかざした。「今日も美しいね。いつも通りのいくちゃんだ」
「あら~、嬉しい」絵梨花は微笑んだ。
生田絵梨花は、駅前木葉の座るソファまで歩き、駅前木葉の隣に、腰を下ろした。
 風秋夕も、磯野波平も、元のソファへと着席する。
「突然だね」稲見は唐突に、絵梨花に言った。
「あー、うん。そう、だね」絵梨花は言葉を選ぶ。「そっちにしてみれば、そうかもね」
「卒業なんて、いつも突然じゃねえか」磯野は言った。「夕、ラム・コーク」
「じぃぶんで頼め!」夕は一瞬でその表情を変える。「いくちゃん、何飲む?」
「あー……、じゃあ、エリカ、ある?」絵梨花は己の名の付いたカクテルを指名した。「まだ吞んだ事ないんだよね。噂には聞いてるけど」
「了解です、お姫様」夕はにこやかにそう頷き、空中を見上げる。「イーサン、カクテルのエリカを一杯と、ラム・コークを四杯。アサヒ・ビールを一杯だ」
 畏(かしこ)まりました――と、しゃがれた老人の声で、〈リリィ・アース〉を統括しているスーパーコンピューターのイーサンが応答した。人工知能により人格をも持つ彼は、電脳執事のイーサンとして、ここで仕(つか)えている。
「駅前さん、ビールでよかった?」夕は駅前を見る。
「はい、ありがとう夕君」駅前は微笑んだ。
「明日もあるし、長くは引き止められないけど」稲見は絵梨花に微笑んだ。「少し、話そうか」
「さあ、いくちゃん。話したい事が山程あるんだが……」夕は改めて、絵梨花に上品に微笑んだ。「何から話そうか?」

       2

 二千二十一年十一月十一日。ベストヒット歌謡祭2021【今年を彩った名曲を東京五輪の感動とともに!】にて先程まで、乃木坂46は歌を二曲披露していた。大阪からの放送であった。
 一方、〈リリィ・アース〉地下二階に集まったのは、風秋夕、稲見瓶、磯野波平、姫野あたるの四人である。
 彼らは地下八階の南側の壁面奥に存在する〈ブリーフィング・ルーム〉にて、今夜は一興(いっきょう)な事をしていた。
 風秋夕は言う。「つまりな、普段もらってる側の俺らが、乃木坂に、プレゼントするわけだ」
「歌の歌詞をか?」磯野は難しそうな顔で言った。
風秋夕は、大きく頷く。「そうだ」
「歌詞をつくる、という事?」稲見は淡々とした口調で言った。「俺達四人で? 駅前さんは?」
「今いないから、仕方ない」夕は頷く。
「歌詞…歌詞かあ……。書いた事ねえけどな」磯野はにやり、と笑った。「想いがこもってるやつがいいよな?」
「小生も書いた事ないでござる」あたるは赤面する。「何だか、ラブレターのようで、ちと、恥ずかしいでござるな……」
「いいけど。どうやって書く?」稲見は夕にきいた。「書き方は?」
「書き方はだな、俺達の四人専用ラインを作り、そこで一行ずつ、そっきょうで、お題に合った内容の歌詞を、順番に書いていくんだ」夕はにこりと微笑んだ。「サビに当たった奴は、大当たりだな」
「へー……。何で急に?」稲見は夕に言う。「別にいいけどね。なぜ急に歌詞を書こうと思ったの?」