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例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。

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「書くんじゃねえ!」磯野は大声で言う。「捧(ささ)げるんだろうが!」
「そう。いいぞ波平」夕は口元を引き上げて言う。「これは贈り物だ。いくちゃんの卒業も決まり、俺達は…まあまあボロボロだ、そんな中、乃木坂への愛情を、再確認する作業を行う!」
「そうだろうが!」磯野は叫んだ。
「なるほどね」稲見は納得した様子であった。「じゃあ、専用ラインは作ったから、タイトルと、歌詞を書いていく順番を決めよう」
「タイトルか……」磯野は考える。「あのな、『酒』って、カッコイイけどな、十代もいるからやめとこうな?」
「どこがカッコイイんだよ……」夕は嫌そうに磯野を一瞥した。「乃木坂が歌ってもいい感じになるような、フレッシュな感じの歌詞にしよう」
「名曲ふうもいいでござるな!」あたるはうきうきする。
「タイトルはぁ……、何だろ?」夕は考える。「じゃあ、一人ずつタイトル出して、多数決で決めよう」
 お題、乃木坂46に捧げる歌の歌詞のタイトル。である。
「俺から、言うぞ」夕は強気の笑みで言う。「タイトルは『例えばこんなメロディを』だ。どう? いい感じじゃない?」
「ふむ、なんかタイトルっぽいでござるな……」あたるは考える。
「どんなメロディだっつうの」磯野は笑う。「俺はなあ、『ラブ・モリモリ』だ!」
「だせ!」夕は嫌そうに驚く。「だっせえなてめえ……、同じ時代を生きてると思いたくねえタイトル出しやがって……」
「どこがだせえ?」磯野は稲見を一瞥する。「だせえ?」
「いや、よくわからない」稲見は答える。「何がモリモリなのかが明確じゃない。まあいい、俺はね『ファースト・ラブ』だよ」
「パクってんじゃねえか!」磯野は稲見に驚いて怒鳴った。「宇多田ヒカルじゃねえか!」
「イナッチ、それもうあるよ」夕は苦笑する。「それもスペシャル有名な一曲が」
「あるの?」稲見は、眼鏡の位置を片手で直して、溜息をついた。「それは、驚いたな……。じゃあ、俺は棄権で」
「小生のは、『君の歌を響かせて』でござる」あたるは三人を見回しながら言った。「どうでござろう?」
「んー、いまいちピンとこねえなー」磯野は顔をしかめる。
「筋肉モリモリとか言った奴がよく言うよ……」夕は溜息を吐く。
「『ラブ・モリモリ』だろうが!」磯野は夕に憤怒した。
「多数決取るぞー」夕は改めて、三人を見る。「『例えばこんなメロディを』がいい人」
 稲見瓶が手を上げた。風秋夕も手を上げている。
「『筋肉モリモリ』がいい人ー」夕は適当に言った。
「だ『ラブ・モリモリ』だっつうの!」磯野は怒る。
 磯野波平が手を上げている。
「『君の歌を響かせて』がいい人」夕は言った。
 姫野あたるが手を上げた。
「じゃあ、ダーリンのと俺の、混ぜちゃおう」夕は考える。「だからぁ……タイトルはぁ、……『例えばこんなメロディを響かせて』だな!」
「じゃそれでいいよ、ち」磯野は鼻を鳴らした。「ぜってえ『ラブ・モリモリ』の方がカッコイイだろ」
「決まりだね」稲見は三人を見ながら言う。「じゃあ、ジャンケンで順番を決めようか」
 ジャンケンの結果、一小節と二小節を風秋夕。三小節と四小節を稲見瓶。五小節と六小節を姫野あたる。七小節と八小節を磯野波平が担当する事となった。その順番に、二小節ずつ書いていく方式である。
「じゃあ、そっきょうな?」夕は三人の顔を確かめるように見て、携帯電話を弄る。「最初は、お、れ、か、ら……」

ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握っていた

      イナッチ。
      思い返せば もう十年の
      月日と笑顔を見つめてた

ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた

      ナミヘー。
      おいどんが おまんをぺろんと呑み込みやす

「待て待て!」夕は驚いた顔で携帯画面を覗き込む。「おいどんって誰よ!」
「おまん、て……」稲見は磯野を一瞥して言った。「お前、という方言だよね。お前呼ばわりは、どうだろう……」
「いやそういうレベルじゃねえ!」夕は騒ぎちらす。「何だこりゃ! 最初いい感じだったのに、悪夢かっ!」
「いやわかってねえなー」磯野は顔をしかめて三人に言う。「こういうのはよ、ホウベンとかの方が、なんか愛情が出んだよ」
「そんなレベルじゃねえだろうよ!」夕はひどく驚いた様子で磯野に言う。「お前っ、センスとか無い奴だったの? ここまでとは知らなかったぞ!」
「いやいや、俺がな? 相手の心の傷とか、そういうのもペロっと呑み込んでやるいからな、安心しろよ、ていう歌詞じゃねえかー」磯野はぶつくさと言う。「安心しろよまで言わせてくれりゃあ、伝わったんだよ……」
「でも、波平殿、ここは標準語の方が、続いてる感があるでござるよ」あたるは何度も読み直してから、磯野にそう言った。「ちいとばかし、替えるだけで、良い感じになるでござるよ。ファイティン、でござる!」
「まあー、じゃちと、替えるわ」磯野は携帯画面に文字を書き込んでいく……。

ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握ってた

      イナッチ。
      思い返せば もう十年の
      月日と笑顔を見つめてた

ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた

      ナミヘー。
      げんこつだぜ 君にあげる だパンチだな つまり

「いやいやいや!」夕は大騒ぎする。「だパンチだな、って! だ、て何? だ、って!」
「パンチするの?」稲見は磯野を一瞥する。「乃木坂に?」
「だ、げんこつだぜ?」磯野は困ったような顔で言う。「だから、あれよ、デコピン思い出してな? デコピンみてえな感覚で入れたんだけどよ……変か?」
「いやいやいや!」夕は驚愕(きょうがく)している。「変だよお前! どうかしてるって! だパンチだな、つまり。て! いやいやいや!」
「ラブソングっぽいノリでござるよ?」あたるは磯野を見つめる。
「だーから、デコピンだってラブソングっぽいだろ! げんこつもおんなじじゃねえか!」磯野はついに怒った。
「夕、騒ぐな……。じゃあ、いいよ。書いてみよう」稲見は提案した。
 四人は、とりあえず納得し、書いてみる事にした。

ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握ってた

      イナッチ。
      思い返せば もう十年の
      月日と笑顔を見つめてた

ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた

      ナミヘー。
      げんこつだぜ 君にあげる だパンチだな つまり
      こぶしだよ おいどんの

ユウ。
待て待て、誰か救急車を呼んで来い……。

「夕、続きは?」稲見は携帯画面から顔を上げて夕を見る。「とりあえず、書かないの?」
「いやいや、だっておいどん出てきちゃったんだよさっきの」夕は困惑した表情で言った。「げんこつだぜ、だパンチだな、つまり、こぶしだよ、おいどんの、て……。君にあげる、以外全部シャドウボクシングしてんじゃねえか!」