例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。
「あねえねえ、三期は六階の無人レストランだって」向井葉月は祐希と美月に近寄って言った。「一号店の方だと思う」
「なに固まってんの、ほら挨拶行くよ」久保史緒里は周囲にいる三期生メンバー達に言った。「ご挨拶しないと。こんなチャンスも滅多にないから」
「緊張する~」阪口珠美は緊張に笑みを浮かべる。「え、あ、桃ちゃんだ~。桃んご、久しぶり~」
「もう、たまたんやめて」大園桃子は苦笑して、改めて周囲の三期生メンバー達に微笑んだ。「卒業してから、初めて来た。お久しぶりです」
「お久しぶりです。与田とインスタ載ってたね」美月は桃子に微笑んだ。
「元気してた?」祐希は桃子に微笑む。「この前会ったばっかりだけど」
「会ったばっかりじゃん」桃子は微笑んだ。
乃木坂46一期生と二期生、そして卒業生の深川麻衣と白石麻衣と松村沙友理と能條愛未と高山一実と西野七瀬と中田花奈と若月佑美と桜井玲香と井上小百合と斉藤優里と川村真洋と伊藤万理華と生駒里奈と川後陽菜、堀未央奈と伊藤かりんと伊藤純奈と渡辺みり愛と寺田蘭世は、地下八階の〈BARノギー〉でクリスマス会を催す事となった。
地下八階の北側の壁面に左右二つ在る巨大扉の左の扉の奥に在る〈BARノギー〉。〈BARザカー〉。〈BAR46〉。なる三つの施設。今宵は、舞台『すべての犬は天国へ行く』に出演したメンバーで結成された『犬メン』。が〈BARザカー〉でクリスマス会を催すようであった。
メンバーは、桜井玲香、井上小百合、松村沙友理、新内眞衣、伊藤万理華、生駒里奈、若月佑美、斉藤優里。のオリジナルメンバーに加えた、『プリン会』のオリジナルメンバー堀未央奈、渡辺みり愛、鈴木絢音、と、更に加える事、深川麻衣、白石麻衣、寺田蘭世、山崎怜奈の総勢十四名である。
〈BARノギー〉でクリスマス会を催す事になったのは、メンバー内でダイエットをしようと話題にあがり、そのダイエットで一番体重を落とした人に『スイカ』をプレゼントする事になったのが軍団結成、そして軍団名のきっかけである『スイカ』である。
『スイカ』のメンバーは、伊藤純奈、伊藤かりん、川後陽菜、西野七瀬である。オリジナルメンバーである斉藤優里は現在『犬メン』に参加中であり、行ったり来たりする様子である。
それと、〈BARノギー〉を共にする軍団は、ディズニーが好きなメンバーで結成された『チューリップ』である。名前はメンバーの和田まあやがチューリップを好きだから命名されたらしい。
メンバーは、高山一実、和田まあや、能條愛未、川村真洋、生田絵梨花、斎藤ちはるは仕事の為欠席である。これがオリジナルメンバーである。
これに、秋元真夏、齋藤飛鳥、樋口日奈、星野みなみを加えたメンツが、今宵〈BARノギー〉を使用する十三名であった。
薄暗い柿色に満ちた、所々でブラックライトが点灯している九十年代風の洋風居酒屋で、ただいま乃木坂46の『狼に口笛を』が流れているのは、〈BARノギー〉であった。
皆は軍団も早々に関係なく、適当に着席した。早速談笑が飛び交うなか、多少の料理と各々のドリンクがそれぞれに行き届くと、「真夏~!」という声が飛んだ。
秋元真夏はにっこりと微笑み、カウンター席を立ち上がって、後ろの席の皆に振り返って、グラスを持った。
「えー、今日はみんな久しぶり~!」
「ひさしぶり~!」
「じゃあお腹もすいてるんで、とりあえず乾杯」
「かーんぱーい!」
「メリークリスマ―ス!」
「メリークリスマ~ス!」
「あ~すか~」絵梨花は笑顔で己のシャンパングラスを飛鳥のシャンパングラスに当てた。「となりー、ゲットー」
「懐かしいのが集まったなあ」飛鳥はカウンター席から後ろ側の光景を見る。「皆さん元気そうで……」
「はい飛鳥、何頼む?」真夏は飛鳥の顔を覗き込んだ。「こっちはこっちでどんどん頼んじゃわないと」
「あー、うん、いいよ任せる」
「えー私ねえー」絵梨花はメニュー表を開いた。「とりあえず、クリスマスって言ったらチキンじゃない?」
「まあ、まあ」飛鳥は頷く。
「辛いの? バッファローチキンとか、ローストチキンとか、色々あるんだけど」真夏はメニュー表を見つめながら言った。「インディアン・ワイルド・ライスって、キャンペーン中のところに出てるの美味しそう。バターたっぷりのチャパティだってえ!」
「あほんとだ」絵梨花は顔を喜ばせる。「大海老のアペタイザー……。この、ビーフ・カレーとチキン・カレー、美味しそう。イーサン聞いてる?」
「これ、ミャンマー料理だな」飛鳥はぽつり、と言った。
「今言ったの、全部持ってきて」絵梨花は眼を凝らしてメニューを見ていく。
電脳執事のイーサンの、畏まりました――というしゃがれた老人の声が応答した。
「あモヒンガーだって。美味しそう、これも頼んじゃおうっか」真夏は宙を見上げる。「イーサン、モヒンガーもお願いしまーす」
「チェッターアールヒン!とぉ、タミンジョー、とぉ、モン・リンマヤー」絵梨花は宙を見上げる度に注文していく。「イーサン、わかってんの?」
了解しております――というイーサンの声が対応した。
「クリスマスの頼めよ」飛鳥は笑う。
「だあってえ、キャンペーン中のメニューの方が今夜はだんぜん本格的で美味しい、て書いてるんだもん」真夏は甘い声で言った。
「あ、おススメの本日のステーキね! イーサン」絵梨花は宙を見上げる。「みなみは? 頼みなよ」
「んー、みなみどうしよう、かなぁ」星野みなみは絵梨花の広げているメニュー表を見つめる。「すき焼き、たまご無しで頼もうかな」
「あ、よし。それいこう」飛鳥はみなみを一瞥して言った。「五人前六人前? 何人前?」
「十人前頼んで、おすそ分けすればよくない?」真夏は微笑んだ。
「イーサン、すき焼きの、お肉、おいしいやつ、十人前ね」飛鳥はメニュー表を見つめたままで呟いた。
電脳執事が応答する。
その時、〈BARノギー〉内に十三台設置してある大型テレビの音声無しの乃木坂46の映像が途切れ、店内の音楽が弱められ、各大型テレビの音声が大きめに、映像も放送された。
それはCMふうの映像であった。内容は、いつもクールで格好つけている王子様(演者、風秋夕)が、贅沢三昧の毎晩の食事に飽き飽きしているところ、魔法のランプから現れたハンサムな魔法使い(演者、磯野波平)の出した『チーズ・トマト・スパゲッティ』という料理に、大絶賛で舌を巻く、という内容の映像であった。
また、何事もなかったかのように、大型テレビには音声無しの乃木坂46の映像が流され、店内の音楽もボリュームが元に戻された。
「なんなの」飛鳥はテレビを見つめたままで苦笑した。
「食べろって事じゃない?あ」真夏は飛鳥を見る。「そだ、私食べた事あるんだった! 美味しいの! あれ」
「へー」飛鳥は呟く。
「なになに、食べようよ、じゃあ」絵梨花は柔らかな笑みを浮かべて言った。「今日はさ、美味しいの食べよ」
「ユッケジャンと、シチュー、あ、あえと、イーサン?」みなみは宙を見上げる。「ユッケジャンと、シチューと、あとそれこそ、さっき言ってたチキン、辛そうなやつ……」
「バッファローチキン?」真夏はみなみを見て言った。
作品名:例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。 作家名:タンポポ