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「あそう！ それも一つ、お願いします」
「バッファロー・ウィングってやつもあるの」真夏はみなみに言う。
「あーどっちでもいー」みなみは微笑んだ。
　畏まりました――と、電脳執事のイーサンが対応した。
「いくちゃん」能條愛未はカウンター席に顔を出して言った。「卒業、おっめでとう！」
「あーありがとー」絵梨花は微笑む。
「飛鳥、久しぶりやなあ？」川村真洋は飛鳥とみなみの間に顔を突き出して言った。「ろってぃだ」飛鳥はくすくすと笑う。「久しぶり。あれでしょ、TIKTOKやってるでしょう」
「え、見てくれてんの？」真洋は嬉しそうに言った。
「見てない見てない、見ませんよ」飛鳥は何とも言えぬ表情でそう言って、吹き出した。「うそぉ。ちょっと、知ってる」
「ありがと」真洋は満面の笑みで可愛らしく発音した。「みなみちゃんも、久しぶりやなあ？」
「ねえ！ ろってぃー、がえ、こんな、大人っぽくなっちゃって……」みなみは驚く。
「ねえみなみちゃん、私はぁ？」絵梨花は駄々っ子のようにみなみを見る。「大人っぽくなったでしょ」
「うーん。なった」みなみは笑って誤魔化した。
「いくちゃんあれじゃん、ついこないだ記念フォトブック出したじゃん」愛未は絵梨花に言う。「あれ、イケてたよ」
「ほんと？」絵梨花は決め顔で親指を立てる。「てか見てくれたんだー、ありがと～」
「そりゃ見るよ～」愛未は微笑んだ。
「ほな、挨拶行ってくるわ」真洋は片手を上げて、顔を引っ込めた。
「あー行ってらっしゃーい」飛鳥は一瞥で見送った。
「うちらも、行った方がいいのかな」みなみは飛鳥に言う。
「ん？」飛鳥はききかえす。
「挨拶」みなみは言った。
「ああー、いーんじゃない？」飛鳥は微笑んだ。「私はいいや」
「ちょっと、シャンパンもう開いちゃった」絵梨花は呟いた。
「え！」真夏は驚いた顔で絵梨花を見る。「あ、グラスね？」
「あそう、グラス」絵梨花は微笑んだ。
「いくちゃん、卒業、おめでと～」川後陽菜は真夏の右隣りから顔を突き出して、絵梨花に言った。「飛鳥もみなみも久しぶり～！」
「ありがと～う」
「ども」
「久しぶり～」
「陽菜も一筆書きたかったな、いくちゃんへのメッセージ。フォトブックに」陽菜は笑顔でそう言った。片手にはビールのグラスが握られている。
「えー、書いてほしかったあ」絵梨花は顔を歪ませた。
「ろくなこと書かないから、この人は」飛鳥は絵梨花に言った。
「あー、言うようになったねー、飛鳥ぁ」陽菜は笑った。
　齋藤飛鳥も笑う。
「おっす、みなみ。飛鳥」伊藤純奈は星野みなみの左隣から顔を見せた。「呑んでんの？」
「あー純奈～、呑んでるよ～」とみなみ。
「呑んでますよ」と飛鳥。
「いくちゃん、卒業だね～、ついにだね」純奈は絵梨花ににやけた。「生田絵梨花も、乃木坂卒業か～」
「そうだよ～」絵梨花は微笑んだ。「もうライブも終わったしね。こう、ライブに向かって走ってたから、もう後は、あれですよ、ゆっくりと」
「ゆっくりと咲く花？」純奈は笑った。
「ゆっくりと咲く花ですよ、はは」絵梨花も笑った。
「ただーいま」真夏の右隣りから、先程まで川後陽菜と会話していた樋口日奈が顔を出した。そのまま着席する。「もうさあ、卒業生の方が多いのね？」
「だね」飛鳥は頷いた。
「ほんとそうだね！」絵梨花は眼を見開いて言った。「こわ。時が経つのは早いわ」
「もう十年だよ」飛鳥は笑みを浮かべる。
「年少組も、大人になったもんねぇ」日奈は皆に顔を向けて言った。
「やだ～ん、ひなちまはまだ卒業しないでよ？」真夏は悲しそうな笑みで日奈を見つめた。何やらやっていた作業をやめて、着席する。「やめてよ、いきなり卒業発表とか」
「うふしな～い」日奈は微笑んだ。「みなみだからぁ、それは」
「ちまはまだしないのう？」みなみは微笑んで日奈にきいた。
「まだしなぁい」
「とか言ってて、みんなするからなあ」飛鳥は、グラスを傾けながら呟いた。
「何、卒業の話？」
星野みなみの右隣りから、今度は伊藤かりんが顔を出した。その左隣りには、和田まあやがいる。
　電脳執事の声が、料理の到着を知らせる。
「真夏」絵梨花は言った。
「はいはい」
　秋元真夏は、届いた料理をカウンターに綺麗に丁寧に並べていく。取り皿や箸やスプーン、フォークなども、彼女がせっせと皆に配っていた。
「飛鳥、また顔小さくなってない？」かりんは驚いた眼で飛鳥を凝視する。
「うるせえ」飛鳥は苦笑する。「なってませんよ」
「かりんちゃん、私はどう？」絵梨花は髪を後ろ側に払って、顔を美しく決める。
「いくちゃんは、もう、綺麗だし、美しさがもう、大人だよね」かりんは無邪気に微笑んだ。「ミュージカルとかやってると、なんかそういう役っていうか、美しさとかが残るんじゃない？」
「まあ、色んな役があったけど」絵梨花はまんざらでもないような顔をする。
「誰が最後まで残るかなあ？」まあやは皆の方に顔を向けて言った。
「なーんでそんな事言うの～、やめてよ～まあや～」真夏は泣きそうになる。
「飛鳥じゃない？」絵梨花は隣の飛鳥の顔を見つめる。「なんかあ、意外と飛鳥な気がする～。後十年はいそう」
「あと十年か～」飛鳥は苦笑する。「十年はきついな～」
「真夏なんて、四十六歳まで乃木坂にいるんでしょう？」みなみは真夏を見て言った。
「いっないよ～」真夏は笑う。
「いなよー」絵梨花は言う。
「いなよー、て。あんた適当に言ってるでしょ」真夏は絵梨花を見る。
「いなよー」絵梨花は不思議な踊りを踊った。
　和田まあやと伊藤かりんを呼ぶ声があった為、二人は奥のテーブルへと移動した。
　そのタイミングで、西野七瀬と高山一実が、樋口日奈の右隣りから顔を見せた。
「メリークリスマース」一実はグラスを上げて言った。
「メリークリスマ～ス！」
「いくちゃん、グラスからじゃん」一実は絵梨花に言った。「なんかないの？ あるじゃーん、呑みなよ～。クリスマスだよう？」
「なぁちゃん、ドラマ、怖すぎるんですけど」絵梨花は七瀬に顔をしかめた。
「あー、アハ、言霊荘ね」七瀬ははにかむ。「撮影中には、変な事起こんなかった。怖くもなかったし」
「あれなんだよね、ドラマ観ちゃった方が、仕上がりが怖くなってんだよね」一実はにこやかに七瀬に言った。
「そう。ドラマの方が、怖くて」七瀬は眼元を微笑ませた。
「面白いけどね」絵梨花は言った。
「最後がね」日奈は苦笑した。
「あー、最後がね」七瀬は苦笑した。
「あん？」飛鳥は宙を見上げる。
　皆も違和感に気付き、黙って宙を見上げた。店内に流れている音楽に注目する。
　それは乃木坂46ファン同盟の歌う、『サンタ―クロース・イズ・カミング・トゥ・タウン』であった。
「なんなの、あの人達は……」飛鳥はにがわらいする。
「あっはっは、下手くそだ」一実は笑った。
「へー、初めて聴いた。あの五人の歌」絵梨花は僅かに笑みを浮かべながら、耳を澄ます。

　サンタ―クロース・イズ・カーミング・トゥー・ターウン。

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