例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。
「とりあえず書いてみるでござるよ、夕殿」あたるは苦笑して言った。「まだまだ未開の地、小生達もいい勉強になるいでござる」
「そうだ、まだこっからだろうが……」磯野は夕を睨みつける。「俺の才能、見くびんなよ……」
「つうか、びっくりだよ……」夕は携帯画面にて、作業を続ける。
ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握ってた
イナッチ。
思い返せば もう十年の
月日と笑顔を見つめてた
ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた
ナミヘー。
げんこつだぜ 君にあげる だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
ユウ。
飾らない顔して 似合わないシャツ
くれたね 擦り切れるまで着てみた
イナッチ。
何度かの別れもあった でも
その度に二人は 強く引きあって
ダーリン。
幸せになろうねって
何度も何度も うなずいたね
ナミヘー。
げんこつだぜ だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
おまんの悩みをペロってな 呑んじまいてえな
俺には酸っぱいぐらいだぜ
「まずさ、サビだったんだ、波平が!」夕は困った顔で言った。「サビじゃん波平、良いポジションぶんどったなあ、ああ?」
「なに怒ってんのお前」磯野はよそよそしく夕を一瞥した。「サビ必要だろ? だって。サビ無くしたら、それお前、もうポエムだよ?」
「例えばこんなメロディを響かせてないんだよな、今んところ」夕は強く眼を瞑って腕を組む。「どうすっかなー……。誰か、切り込んでくれるとありがたいんだが」
「俺か、ダーリンが行こうか。一番流れをうまく利用してるのは、俺とダーリンの歌詞だ」稲見は煙草を咥えて言った。「この際、波平にはサビに集中してもらって。物語の語り口を、夕。その続きを俺が、その流れで、俺かダーリンがメロディ関係の歌詞を書こう」
「いや~、小生には難しい、でござるな~」あたるは何度も歌詞を繰り返し読み込む。「それと、波平殿でござるけど。何となく、言いたい事がわかったでござるよ、最後の部分だけ、でござるが」
「わかったか!」磯野は大興奮する。「わかっちまったか!」
「突っ込みどころしかねえが、とりあえず書いてみるか……」夕は携帯画面を見つめる。「何で、君って一回言ってるのに、おまんに戻っちゃうわけ……」
「気分で、気持ち入れた時にはスイッチ入るだろ?」磯野は、なんとか消されないように優しく説得した。「よくあるじゃんか、なあ?」
ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握ってた
イナッチ。
思い返せば もう十年の
月日と笑顔を見つめてた
ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた
ナミヘー。
げんこつだぜ 君にあげる だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
ユウ。
飾らない顔して 似合わないシャツ
くれたね 擦り切れるまで着てみた
イナッチ。
何度かの別れもあった でも
その度に二人は 強く引きあって
ダーリン。
幸せになろうねって
何度も何度も うなずいたね
ナミヘー。
げんこつだぜ だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
おまんの悩みをペロってな 呑んじまいてえな
俺には酸っぱいぐらいだぜ
ユウ。
相対性理論(そうたいせいりろん)よりも 完結で 単純な恋をした
イナッチ。
白い雪景色に落とした携帯電話
ダーリン。
そこから響く例えばこんなメロディが 君をまた笑わせる
ナミヘー。
黙って耐えてたら またげんこつな
全部言ってくれたんなら 抱きしめっから
おまんの悩みをペロってな 呑み込んじまいてえ
俺には酸っぱいぐらいだぜ
「できたな……」夕は携帯画面のライン歌詞を読んでいく。「……おお、いいじゃねえか。いい感じだよ」
「だてに秋元先生の歌詞を聴いてないよ」稲見は旨(うま)そうに煙草の煙を吐いた。「俺はよせたつもりだけどね」
「というか、お手本が、秋元先生というところが、逆に無理ゲーでござった。草!」あたるは笑いながら、ポケットから煙草を取り出した。「こんなに難解な仕事を、どれだけ創り続けているのでござろうか……。天才、でござる……人ではござらん」
「俺のサビよくねえ? なあこの良さわかっか? なあ!」磯野は大興奮で三人に言った。「お前の悩みなんていっくら背負ったって、負担になんかなんねえよ、て言ってんのよ。俺としちゃ好きだぜ、て言ってるのより気持ちしゃべってるつもりだけどな!」
「まあ、これはこれで完成だな」夕は煙草を取り出して、口に咥えて、ライターで火をつけた。「フウ~~……。いいじゃんか。『例えばこんなメロディを響かせて』完成だな!」
「これを乃木坂に贈る、でござるよ」あたるは、にこにことして言った。「気持ちを込めたでござる。歌詞制作、いいでござるな?」
「三人でやるか、今度」夕は意地悪(いじわる)を言った。
「誰か抜けたぞ! 誰抜かしたんだお前!」磯野は興奮する。
「あ、四人か」夕はにっこりと言う。
「だろうが~」磯野はほっとする。
「駅前さん忘れてた」夕は煙草をくゆらせた。
『例えばこんなメロディを響かせて』
作詞・ユウ。イナッチ。ダーリン。ナミヘー。
ユウ。
凍り付くような その小さな手
気が付けば いつから握ってた
イナッチ。
思い返せば もう十年の
月日と笑顔を見つめてた
ダーリン。
粉雪が舞う 最初の土曜日に
君に強く強く 誓うように抱きしめた
ナミヘー。
げんこつだぜ 君にあげる だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
ユウ。
飾らない顔して 似合わないシャツ
くれたね 擦り切れるまで着てみた
イナッチ。
何度かの別れもあった でも
その度に二人は 強く引きあって
ダーリン。
幸せになろうねって
何度も何度も うなずいたね
ナミヘー。
げんこつだぜ だパンチだな つまり
こぶしだよ おいどんの
おまんの悩みをペロってな 呑んじまいてえな
俺には酸っぱいぐらいだぜ
ユウ。
相対性理論(そうたいせいりろん)よりも 完結で 単純な恋をした
イナッチ。
白い雪景色に落とした携帯電話
ダーリン。
そこから響く例えばこんなメロディが 君をまた笑わせる
ナミヘー。
黙って耐えてたら またげんこつな
全部言ってくれたんなら 抱きしめっから
おまんの悩みをペロってな 呑み込んじまいてえ
作品名:例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。 作家名:タンポポ