例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。
その内容は、とある国の贅沢三昧な生活を送っている王子様(演者・風秋夕)が、日々のお酒に飽き飽きしている中、ランプから出現したハンサムな魔人(演者・磯野波平)によって魔法で出された乃木坂(元乃木坂)メンバーの名前が付いた魔法のカクテルが美味しくて舌を巻く、というCMであった。
また、何事もなかったかのように、店内の灯りと音楽のボリューム、テレビ画面の映像が元通りになった。
「呑んでみるか、ミオナ」未央奈は宙を見上げる。「ねえイーサン、いるう?」
はい――というしゃがれた老人の声がカンター席にだけ響いた。
「ミオナ、一杯くれる?」
畏まりました――と、電脳執事のイーサンが対応した。
「よし、じゃあ、行くわ」絵梨花はカラになったグラスを置いて、席を立ち上がった。
「え、もう行っちゃうの~?」未央奈は寂しそうな顔をする。
「ちょっと、挨拶に行ってくるね」絵梨花は微笑んだ。
生田絵梨花は、出入り口の一番近くにあるテーブル席により、齋藤飛鳥に「飛鳥、ちょっとついてきて」と齋藤飛鳥を誘うと、そのまま〈BARザカー〉を出て、地下六階までエレベーターで移動し、齋藤飛鳥と談笑しながら、地下六階の北側の壁面に二つ在る扉の、左側の方へと進み、奥の通路に存在する飲食を目的とした施設〈無人・レストラン〉一号店へと入った。
扉を開くと、店内に流れる可愛らしいクリスマス・ソングと、クリスマス一色の装飾で飾られた広い空間が二人を出迎えた。
一番手前にある大きなテーブル席にて、乃木坂三期生のメンバー達が、クリスマス会を楽しんでいる様子であった。
「あ、いたいた」
生田絵梨花は嫌がる齋藤飛鳥の手を引っ張って、発見したちょうど立ち上がっている梅澤美波へと話しかけた。
「あ、生田さん、飛鳥さん、メリークリスマス」美波は驚いた様子であった。「どうしたんですか、来てくださったんですか!」
「来ちゃった~」絵梨花は不気味に、しかし可愛らしく微笑んだ。
「お酒は、吞んでないんだ?」飛鳥は店内を見渡して短く笑う。「酔っぱらいがいないな」
「呑んでる子は吞んでますよ」美波は言う。「あ、座りましょう?」
「あ」飛鳥は遠目に見つけた人物に呟く。「いた……」
生田絵梨花と齋藤飛鳥と梅澤美波は、近くにあったテーブル席に顔を出した。
「メリークリスマース」絵梨花は笑顔で言う。
元気よく、「メリークリスマス」と向井葉月と、山下美月と、与田祐希と、佐藤楓と、吉田綾乃クリスティーと、阪口珠美と、中村麗乃と、伊藤理々杏と、岩本蓮加と、久保史緒里と大園桃子が答えた。
「はい、餃子来たよ~」
風秋夕はにこやかに、大型の移動式キャビネットに載せた料理を運んできた。
風秋夕は、生田絵梨花と齋藤飛鳥の登場に気が付く……。
「あーいた!」夕は思わず声を上げた。「どっこにいたの?」
「八階のBAR」絵梨花はにこやかに答える。「そっか、ここにいたんだ?」
「さっきっからおかしなCM見せやがって……」飛鳥はぼそっと言った。
「見てくれたの?」夕はにっこりと微笑んだ。
「夕君、早く餃子、ちょうだい」与田祐希は後ろに立つ夕を見上げて言った。
「ああ、OK」夕は料理のトレーをテーブルに載せる。「みんな、お皿だけ受け取って。飛鳥ちゃんいくちゃん、座ろうよ」
「はーい、鍋が届いたでござるよー」
移動式のキャビネットで大きな鍋料理を運んできた姫野あたるは、生田絵梨花と齋藤飛鳥の姿を発見し、驚愕する。
「く、く、クリスマスに会えたでござる~!」あたるは大慌てで言う。「どこにいたんでござるかあ?」
「地下八階のBAR。ふ、夕君とおんなじ事言ってる」絵梨花は笑う。「どこにいるかイーサンにきけば良かったじゃーん」
「ノーコメントと言われたでござる!」あたるは顔を歪めて言った。
「誰かがイーサンに乃木坂の居場所を今日だけシークレット設定にしたんだ」夕も顔をしかめて言った。「だから、みんなどこにいるのかわからなくて……」
「へー、そうなんだ」絵梨花は着席する。「誰だろう」
「わしじゃ」飛鳥は着席しながら言った。
「なんで!」動揺して夕は言った。
「なんてことを!」興奮してあたるは言った。
「今日っていうか、あの乃木坂が来たら自動的に知らせるセンサーを取り払っただけですよ。うざったいから」飛鳥は笑いながら言った。
「そうか、イーサンの命令優先度が、乃木坂が一番に設定してあるから……」夕は唇を噛む。「なんて頭脳派なんだ、惚れ直す」
「み、見事でござる!」あたるは驚愕する。
「まんまだろ」飛鳥は苦笑した。
「飛鳥さん、このアスカ、美味しいですね」山下美月は微笑んで飛鳥にコリンズ・グラスを見せながら言った。
「あー、アスカね。呑んでるんだ」飛鳥は不思議そうに言う。「何で私の? 自分の名前のやつ呑めばいいじゃん」
「もう呑みました」美月は微笑む。「ミズキも美味しかった~」
「この前、エリカ呑んだよ」絵梨花は美月と飛鳥を交互に見て言った。「なんかね、カクテルの優等生、て感じだった」
「それどんな感じですか?」美月は笑う。
「さっぱりと甘く、カラフルで、呑みやす~い」絵梨花は説明する。
「私なんて、私のだけ、ウメザワミナミですよ、カクテルの名前」美波は苦笑しながら飛鳥と絵梨花に言った。
「あ、そだ。いくちゃんが梅のこと、綺麗だって、言ってたよ、この前。言っといて、て言われたから」飛鳥は美波に言った。
「え、今言う?」絵梨花は眼を見開いて驚く。
「あはは、ありがとうございます」美波は笑った。
「吉田、れんたん、梅、でん、桃子、与田、やま」久保史緒里はテーブルを見回しながら言う。「ドリンク、おかわりするでしょ? 頼んじゃうから。何がいい?」
「史緒里は何、呑むの?」岩本蓮加は史緒里を見つめる。「お酒?」
「ううん、私お茶」史緒里は微笑んで答えた。「れんたんは?」
「うー……ん、私もお茶!」蓮加は笑顔で言った。
「史緒里、ゆうき、コーヒーブラックで」祐希は史緒里に言う。「ガムシロとミルク無しで」
「与田コーヒー? れんかお茶?」佐藤楓は考える。「クリスティーは?」
「吉田は、ビールおかわり」吉田綾乃クリスティーは楓にそう言ってから、史緒里にも言う。「久保、ビールおかわりで」
「私どうしよっかなー」美波は考える。「生田さんと飛鳥さんは、何吞まれますか?」
「あー、私ビールでいいや」飛鳥は答えた。
「私もビールぅ」絵梨花は可愛らしく答えた。
「やまは?」史緒里は美月にきく。
「わたし、は~……、ユウ」美月は夕を微笑んで一瞥して、史緒里に言った。
「好きになったって、知らないよ」夕は美月にウィンクした。
「私、一目惚れしたことないから」美月はえくぼを作って小悪魔のように可愛らしく微笑む。「大丈夫な自信あるな~」
「じゃあ、私もアタルで」美波はあたるを一瞥して笑みを浮かべた。「それとも、ダーリン?」
「ズッキュウウウン!」あたるは恋の矢に射抜かれる。「アタルは、ユウと度数だけが違う、同じカクテルがくるでござる。ダーリンは、カルアミルクの強いのが届くでござる」
「じゃあ、アタル、呑んでみよっかなー」美波は言った。
「桃子は、マイがいい。白石さんの」桃子は夕を一瞥して言った。
作品名:例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。 作家名:タンポポ