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例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。

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      俺には酸っぱいぐらいだぜ

       3

 磯野波平は顔をしかめて言う。「俺には酸っぱいぐらいずら……、ずらの方がいいか」
「止まれ止まれ。はい一時停止」夕は嫌そうに、磯野に言った。「とりあえず、もういいじゃねえか。これはこのままで。これ以上いたぶってなんになる」
「いたぶる?」磯野は顔をしかめる。「イタブルって、フランス語か?」
「まあまあ、どう?」稲見は珍しく自然な笑みを浮かべて三人に提案する。「このまま、もう一曲。勢いで書いてみるっていうのは、どうかな」
「小生は一向にかまわないでござるよ」あたるは携帯画面を何度も読み返しながら答えた。「はは、波平殿は……言葉たらずでござるが、愛情があるでござるな」
「あったりめえだろ!」磯野は上機嫌で言う。「じゃあまず、タイトルな? タイトル決めっから! おら弟子ども、タイトル考えろよ」
「お前の弟子ではないわ」夕はそれから、溜息をついて、気分を一新させて思考する。「タイトルな……。書いてりゃ、出てくるんじゃないか?」
「ああ、そうだね。そういう手もある」稲見は納得した。「じゃあ、ジャンケンで順番を決めよう。あとはさっき通り、その順番に書いていけばいい」
「サビ! サビ頼む!」夕は念を入れて構える。
「サビ来いよ~」磯野も念を入れて構えた。
 ジャンケンの結果、一小節目と二小節目を姫野あたる。三小節目と四小節目を風秋夕。五小節目と六小節目を稲見瓶。七小節目と八小節目を磯野波平が担当する事となった。その順番に従って、一人二小節ずつ書いていく事になる。
「サビか俺が!」磯野はガッツポーズで喜びを表す。「ガチかよ!」
「いやまだわからんぞ」夕は冷静に言う。「ダーリンがサビから始まるっていう確率もあるし、イナッチがサビになる確率もある」
「一周回って、ダーリンがサビになるという可能性もあるよね」稲見は淡々とした表情と口調で言った。
「そか……。じゃあまあ、設定、決めとくか?」磯野は三人に言う。「冬とか、夏とかよ。恋とか、愛とか」
「決めちゃう?」夕は少しだけ、楽しくなってきた。「あー設定ね? あーでも、設定に忠実って、逆に難しくね? かなり制限されるし」
「んー、どうでござろう」あたるは考える。
「じゃあ、まずは書いていこう。そっきょう、というのが味だったわけだし」
「んむ~、何も、ないでござるが……、書いてみるでござるか」あたるは携帯画面に文字を打ち込んでいく……。

ダーリン。
僕はあの日 恋をしました
大きな太陽の 熱い夏の日

      ユウ。
      フェンス越しに見てた
笑い顔 遠くにいつも見つけて

イナッチ。
話しかけるタイミングを
逃しては またきっかけ探してた

      ナミヘー。
      たまたま飲んだ下剤が悪かった
      ちとやべえかな いけるかな

「いやいけねえよ!」夕は興奮する。「てめえの日記かよ! 何だたまたま飲んだ下剤が悪かった、って! 正気かお前!」
「いけるかな、ディズニーランド、て続くんだぞ?」磯野は不服そうに言った。「お前、お前全然わかってねえな。たまたま飲んだ下剤でな、腹壊してんだよ、でも無理してでも約束守ってディズニーランドに行くんじゃねえか! それが愛情だろうが!」
「なるほどね。それにしても、飛んだね」稲見は歌詞を確認しながら言う。「まだかチャンスすら掴んでないのに、急にディズニーランドか……」
「だからっ、掴んだチャンスが、ディズニーなんだろうが!」磯野はどすんと構えて言った。
「わかったでござる、波平殿、わかったでござるよ」あたるは猛獣をなだめるようにして磯野に言う。「もっとこう、わかりやすく書くといいかもでござる。波平殿は、いささか、深い」
「あ……、深かった?」磯野は苦笑する。「そっか。浅いてめえらの歌詞には深すぎたか、があ~っはっは!」
「夕。書かせてみよう」稲見は、夕に頷いた。
 風秋夕も頷く。「わかったよ。書いてみろ、波平……」
「おう。じゃサビの続きな」磯野は作業を再開させる。
「サビだったの!」夕は耐え切れずに驚いた。「サビで下剤飲んじゃったのお前!」
「ううるっせえな……、おら、書くぞ」
「書くぞってお前……えー」夕は携帯画面を見下ろす。

ダーリン。
僕はあの日 恋をしました
大きな太陽の 熱い夏の日

      ユウ。
      フェンス越しに見てた
笑い顔 遠くにいつも見つけて

イナッチ。
話しかけるタイミングを
逃しては またきっかけ探してた

      ナミヘー。
      たまたま飲んだ下剤が悪かった
      ちとやべえかな いけるかな
      ディズニーランド 約束だしな
      もれたらそこまでの男よ 行くよ

「いやー……。引くわー……」夕は驚きを隠せない。「もれたら、て……。何があ? てなると、答えがまた困った事になるでしょうよ!」
「いや、そこ?」磯野は不思議がる。「そこじゃねえでしょ。普通。行くよ、の男らしいとこっしょう!」
「いやあ、凄いね、しかし」稲見は感服する。「個性的だよ。なぁちゃんと飛鳥ちゃんからもらった個性的という言葉を、波平に授与しよう」
「わかりやすく書けって言ったよなあ? ダーリン」磯野はあたるを一瞥する。「わかりやすかったよなあ?」
「はは、まあ。うむ」あたるは、苦笑して頷いた。「でも決して、クソの事は歌詞に書かない方がいいでござるよ」
「クソとは書いてねえだろうが!」磯野は立ち上がる。「お前ら、ちょと、下品じゃねえか?」
「お前だよ」夕は呆(あき)れて言った。「今んところ、タイトルは『クソを我慢した男』だな」
「いや、『下剤』じゃない?」稲見は冷静に言った。
「お前ら、気は確かか?」磯野は困った顔をする。
「お前なんだよだから!」夕は驚く。「自覚ゼロキログラムかよ! お前なんだよ全てが!」
「誉めてんだろ、それって」磯野は真剣に夕を見る。「ちげえの?」
「……ダメだ、こいつアホだ」夕はあきらめた。
「何なんだよいじめっ子野郎!」磯野は憤怒する。「じゃあてめえが書きゃいいだろ、サビぃ!」
「とりあえず、続きを書こう」稲見は三人に言う。「ああ、乃木坂への気持ちを入れる事を、忘れないように」

ダーリン。
僕はあの日 恋をしました
大きな太陽の 熱い夏の日

      ユウ。
      フェンス越しに見てた
笑い顔 遠くにいつも見つけて

イナッチ。
話しかけるタイミングを
逃しては またきっかけ探してた

      ナミヘー。
      たまたま飲んだ下剤が悪かった
      ちとやべえかな いけるかな
      ディズニーランド 約束だしな
      もれたらそこまでの男よ 行くよ

ダーリン。
日焼けした その横顔に
僕はさよならの キスをして

      ユウ。
      何千回も抱きしめた日々
      失う事で 君は前を向ける

イナッチ。
走る列車を確認してから
僕はうつむいたまま 泣いた

      ナミヘー。
      のんで ゲロして寝てまたゲロ
      ちとやべえかな いけるよな
      ぽっくんのフラれ話なんか