例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。
酒のつまみにもならねえよな な
「ねえ、ぽっくん! ぽっくんて誰なのう?」夕は大声で嫌そうに磯野にきく。「ぽっくんをのべよ!」
「ああ、僕、じゃねえかよ」磯野は顔をしかめて言った。「僕を可愛らしく言ったんじゃねえか。その方がなんか、カッコイイだろ? 俺のフラれ話なんか、て言うよりよぉ、ぽっくんのフラれ話なんか、の方が、なんかいさぎいいじゃねえか、な?」
「じゃあ、のんでゲロしてまた寝てゲロ、は?」夕は心底嫌そうに言った。「なんの報告ですか?」
「報告って……、だ、そんだけ卒業生が出て、ダメージ食らってる、て事だろうが……」
「酒のつまみにもならねえよな、の後の、な、は?」夕は嫌そうに言う。「酒のつまみって……歌わせるつもりかよ、乃木坂に……」
「確認のなじゃねえか。な? て言うだろ」磯野は不満そうに言う。「何お前、アンチ俺? 俺のアンチテーゼ? 何さっきっから否定ばっかしてんの」
「まあ、波平も真剣なわけだし、俺達はファン同盟の仲間だ」稲見は二人を交互に見て言う。「一緒に創り、分かち合う事が大切だよ」
「ささ、続きを書くでござるよ」あたるは携帯画面に、新しい文字を打ち込んでいく……。
ダーリン。
僕はあの日 恋をしました
大きな太陽の 熱い夏の日
ユウ。
フェンス越しに見てた
笑い顔 遠くにいつも見つけて
イナッチ。
話しかけるタイミングを
逃しては またきっかけ探してた
ナミヘー。
たまたま飲んだ下剤が悪かった
ちとやべえかな いけるかな
ディズニーランド 約束だしな
もれたらそこまでの男よ 行くよ
ダーリン。
日焼けした その横顔に
僕はさよならの キスをして
ユウ。
何千回も抱きしめた日々
失う事で 君は前を向ける
イナッチ。
走る列車を確認してから
僕はうつむいたまま 泣いた
ナミヘー。
のんで ゲロして寝てまたゲロ
ちとやべえかな いけるよな
ぽっくんのフラれ話なんか
酒のつまみにもならねえよな な
ダーリン。
想い描かない日はない
ユウ。
夢を叶えた君のこと
イナッチ。
それをまた強さに変えて 僕も笑う
ナミヘー。
たまたま飲んだ下剤が悪かった
ちとやべえかな いけるかな
ディズニーランド 思い出した
これからもそうだろうが 好きよ
「なんて言えばいいの?」夕は困った顔で磯野を指差して、稲見に言った。「こいつよりポケモンの方がたぶんよっぽど知能高いぞ?」
「失礼だなてめえは!」磯野は叫んだ。
「あのね、忘れてるところ、悪いんだけど」稲見は言う。「タイトルをね、この歌詞の感覚からひねり出さないといけない」
「おお、そうでござったな……」あたるは考え始める。「むう……」
「この歌詞からって……」夕は改めて歌詞を見る。その顔が徐々に嫌そうに変化していった。「こん中からぁ? サビすんごい主張してくるぜだって!」
「じゃあサビから決めちまうか?」磯野は夕を見る。「あ?」
「お前、何でそんな前向きなの……」夕はもう、少し怯(おび)えた。
「何でって、乃木坂に捧げてんだから、ガチのマジのガッチガチだろうが……」磯野は顔をしかめて夕に言った。
「タイトルは~、何でござろうかな、ふむ」あたるは歌詞を見つめながら言う。「これは~、卒業していくメンバーを想って書いてあるでござるな? そこまではいいでござるか?」
「おう。まあな、一般人の彼女、的な設定には落としてあっけどな」磯野は笑顔で答えた。
「まあ、そうじゃない?」夕も頷いた。
「じゃあ、そういう事だね」稲見は三人を順番に見つめていく。「卒業とか、就職とか、夢とか、そういう事がモニュメントになってる」
「別れも強いけど、その先の未来に笑ってるもんな」夕は歌詞を見ながら言った。
「難しいな、こりゃ……」磯野は煙草を取り出して、口に咥えた。
「小生は、逆に『出会い』がいいでござるよ」あたるは言った。
「じゃあ俺は、『別れ』だね」稲見もあたるに続いて言った。
「それだったら、俺は『希望』かな……」夕も少し考えながら言った。
「その全部使おうぜ」磯野は満面の笑みで言う。「その中によ、辛い時期もあったぜ、て意味で『ゲロ』を入れてよ」
「はい……もう何も言いません」夕はそこから視線を外した。
「じゃあ……」稲見は携帯画面のラインに、新たに書き込んでいく……。
『出会い、別れ、ゲロ、希望』
作詞・ダーリン。ユウ。イナッチ。ナミヘー。
ダーリン。
僕はあの日 恋をしました
大きな太陽の 熱い夏の日
ユウ。
フェンス越しに見てた
笑い顔 遠くにいつも見つけて
イナッチ。
話しかけるタイミングを
逃しては またきっかけ探してた
ナミヘー。
たまたま飲んだ下剤が悪かった
ちとやべえかな いけるかな
ディズニーランド 約束だしな
もれたらそこまでの男よ 行くよ
ダーリン。
日焼けした その横顔に
僕はさよならの キスをして
ユウ。
何千回も抱きしめた日々
失う事で 君は前を向ける
イナッチ。
走る列車を確認してから
僕はうつむいたまま 泣いた
ナミヘー。
のんで ゲロして寝てまたゲロ
ちとやべえかな いけるよな
ぽっくんのフラれ話なんか
酒のつまみにもならねえよな な
ダーリン。
想い描かない日はない
ユウ。
夢を叶えた君のこと
イナッチ。
それをまた強さに変えて 僕も笑う
ナミヘー。
たまたま飲んだ下剤が悪かった
ちとやべえかな いけるかな
ディズニーランド 思い出した
これからもそうだろうが 好きよ
「乃木坂に捧げる曲が、これで二曲もできたじゃないでござるか。なあ、夕殿」あたるは夕に苦笑して言った。「未熟ではござるが、それゆえに、初々しいではござらんか」
「まあね、秋元先生のまねごとすらもできない事が証明させたね」稲見は旨そうに煙草の煙を吐いた。
「俺ってきには、満足だけどなあ?」磯野は上機嫌で、煙草を吸う。
「俺しばらく、〈ブリーフィング・ルーム〉来ないわ……」夕は深く、溜息を吐いてから、煙草に火をつけた。
4
二千二十一年十一月十五日、乃木坂46はCDTVライブ!ライブ!に出演しており、上野・東京国立博物館からの生中継であった。放送では明るいうちに撮影していた春夏秋冬SPメドレーを最初に披露した。
東京国立博物館をステージとした素晴らしい演出のメドレー曲、春『ハルジオンが咲く頃』夏『ジコチューで行こう!』秋『今、話したい誰かがいる』冬『帰り道は遠回りしたくなる』といったメドレーであった。
作品名:例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。 作家名:タンポポ