例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。
『ただいま』と、『初めまして』が交錯(こうさく)する場所、と銘打たれたそのライブは、東京ドーム。オーバーチャーが流れる。スティック・バルーンの大きな木霊する音が響き渡った。
一つの煌めく光が乃木坂46に降臨した瞬間、『ごめんねフィンガーズ・クロスト』が爆発的な勢いと演出で開始される。センターは四期生の遠藤さくらであった。白を基調とした衣装で、スカートの紫が印象的だった。
続いて『ジコチューで行こう!』が軽快に始まる。センターは一期生の齋藤飛鳥である。『東京ドームやっほー! ツアーファイナル―、そして久々の東京ドーム! みんな舞い上がってますよ~! もっともっと楽しんじゃいますよ~!』という齋藤飛鳥の煽(あお)りが会場全体に勢いをつけた。
爽快感に包まれて始まったのは『太陽ノック』であった。トロッコが会場を巡る。生田絵梨花と秋元真夏が、トロッコから『ポジピースな一日にしましょう!』『アメイジ~ング!』と会場中を煽った。
『おいでシャンプー』が始まる。生田絵梨花と秋元真夏は引き続きトロッコの上でこれを歌唱した。高山一実と遠藤さくらも引き続き、トロッコにて歌う。『東京ドームへ? ようこそ~!』という山下美月の煽りがなんとも熱い。
『シンクロニシティ』が三期生の梅澤美波のセンターで歌われる。大迫力の名曲は、もはや無敵の貫禄があった。
『皆さんこんばんは、せーの。乃木坂46でーす!』
秋元真夏がキャプテンとして、MCマイクを持つ。四年ぶりの東京ドームを楽しむ乃木坂46のメンバー達。気合が入っていることを告げた。
齋藤飛鳥は、『やっぱすごいかも、東京ドーム』と語った。一二曲目は記憶が無いと笑って語ってくれた。四年前の東京ドームの時、秋元真夏が機嫌の悪い子猫ちゃんみたいな顔をしてて、私は東京ドームの大ステージで、機嫌の悪い子猫ちゃんにはなりたくないなと笑って語った。
この夏、八月で、結成十周年を迎えた乃木坂46。メンバーがそれぞれトークで人気曲から曲名を挙げ、思い入れを語り、過去を振り返った。
掛橋沙耶香の誕生日という事もあり、ハッピーバースデイを乃木坂46が歌った。大きな誕生ケーキが登場し、蝋燭(ろうそく)を掛橋沙耶香が吹き消した。彼女は、歌もダンスも頑張ると、短く抱負を語った。
VTRが流れる。表題曲、アンダー曲、カップリング曲、ユニット曲/ソロ曲、その中から、人気曲を届けると、ナレーションは語る。
『ざざんざざぶん』が始まる。巨大スクリーンに顔だけ映し出された与田祐希と筒井あやめ。下半身は本物のサイズで踊っている。やがて、ステージ中心に出てきた二人は、セーラー服姿であった。言うまでもないが、このライブで披露される全ての曲が百戦錬磨の人気曲である事を頷かせる。
そして『ファンタスティック・3色パン』が一期生の齋藤飛鳥、三期生の山下美月、同じく三期生の梅澤美波の三人にて披露される。それぞれの制服にパンが身につけられていた。
『自惚れビーチ』が合唱からの演出で始まった。センターは鈴木絢音である。水色のロングドレスが楽曲とシンクロするような爽やかさがあった。
『ひと夏の長さより…』が始まる。センターは一期生の秋元真夏と四期生の賀喜遥香であった。白を基調としたゴールドの装飾が印象的なチェック柄のロングドレスを揺らしながら歌い踊る天使たち。風秋夕は耐え切れずに、涙を浮かべる。曲中に、歌唱中のメンバーがフリップに書き込んだ手製のメッセージをファンに贈った。
「夏の忘れ物、て感じだな。最高の夏だったんだなー」夕は、頬の涙を指先ではらいながら呟いた。
「俺は夏が一っ番好きだ! なんか知んねえけどな、ずっと夏が好きだ!」磯野は巨大なスクリーンを見つめながら叫んだ。
「せつない、せつないでござるぅ、この曲ぅ……」あたるは感涙する。
「名曲過ぎて、鳥肌が止まりませんっ」駅前は息する事を忘れそうになって叫んだ。
「十周年か。泣けるもんだね、やっぱり」稲見は眼の下の涙を指先でぬぐった。
『何度目の青空か』が始まる。センターは一期生の生田絵梨花である。衣装ドレスの襟もとには花柄の美しい装飾が咲いていた。ブルー一色のサイリュウムであった。
次なる曲は華麗なるダンスパフォーマンスから開始された。『日常』である。センターは二期生の北野日奈子。情熱的な真っ赤のライティングの中で歌い踊る。会場は赤と青のサイリュウムが比例するように光を放っていた。実に迫真の一曲である。
『裸足でサマー』が一期生の齋藤飛鳥のセンターで始まる。齋藤飛鳥はバルーンのゴンドラに乗り込み『みーんなーここだよ~、皆の顔見に行きますよ~、タオルいっぱい見せて~!』と浮かんでいた。磯野波平は立てた鳥肌に、言葉を無くして大興奮する。
『空扉』が始まる。センターはバルーンのゴンドラに乗った梅澤美波である。会場全体に広がる乃木坂46。会場を見下ろしながら、笑顔で手を振る梅澤美波。バルーンのゴンドラを降り、フォーメーションのセンターへと戻った梅澤美波は、笑顔でこれを歌い、踊り切った。
姫野あたるは、この曲が鳴りやむまで、感動の渦の中をただただ激しく浸っていた。
梅澤美波のMCでトークが開始される。ファンからのリクエストで構成されたプログラムでライブが進行していると語られた。表題曲一位が『裸足でサマー』。カップリング曲一位が『ひと夏の長さより…』。アンダー曲一位が『日常』。ユニット曲/ソロ曲一位が『ファンタスティック・3色パン』であると告げられた。
田村真佑は制作側のスタッフ陣への感謝を語った。これからも感謝を忘れずに頑張ると。
久保史緒里は変わっていくものと、変わらないものを語った。ファンの熱気と愛は変わらないと。
VTRが始まる。ナレーションは期生別にその功績を語った。そして期別の楽曲を語った。
エモーショナルな演出で、スローテンポで歌われるのは、『ぐるぐるカーテン』であった。一期生達はこれを座りながら、絶えぬ笑顔で歌った。楽曲が普通に戻ると、立ち上がり、元気よくこれを歌い上げる一期生達。稲見瓶は、知らぬうちに、絶えぬ笑みを浮かべていた。
二期生達は、『ゆっくりと咲く花』を歌った。感動的なメロディに合わせて、綺麗な合唱が重なり合う。一体となった会場にも愛が溢れる。二期生は、泣いていた。最後、四人は抱き合ってこれを終えた。
三期生はセンターを久保史緒里に置き『毎日がブランニュー・デイ』をにこにこと仲睦(なかむつ)まじく歌った。
四期生は賀喜遥香がセンターの、最強のこの一曲を歌う。『アイシー』である。ピンク色と朱色の衣装で、可愛らしく歌う彼女達。賀喜遥香の盛大な会場の煽りで、四期生達はこのステージを完成させた。駅前木葉は想像を絶する大感動に、涙を悲しむのではなく、涙を楽しんでいた。
『選抜』という言葉は、乃木坂46にとっては特別な意味を持つ。ふとそうナレーションによって語られた。コロナ渦を乗り越えて頑張ってきた乃木坂46。選抜、という一言に、あらゆる感情が含まれていると。
乃木坂46の選抜メンバーの登場である。
作品名:例えば、こんなメロディをポケットに響かせて。 作家名:タンポポ