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あなたを好きで良かった

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 自分でも気付かなかったけど泣いていたのだろうか、鏡を見ると目が赤く充血していた。顔を洗って心を落ち着かせる。
 トイレから出ようとするとそこにりっちゃんが立っていた。
「……ムギ、お前今日はもう帰れ」
 そう言って私の鞄を投げてよこす。
「え、どうして……? あ、大丈夫よ。別に体調が悪いとかそういう――」
「いいから帰れっていってんの!!」
 急に肩を掴まれ壁に押しつけられた。その衝撃で持っていた鞄を落とす。なんでこんな事されないといけないのか訳が分からなかった。
「ちょっとりっちゃん!? なにす――」
 何するの、と言いかけたところで私は止まる。その表情から今までにない怒りを感じたからだ。
「どうしたの……何怒ってるの?」
 いつも明るくて皆のリーダだけどどこか抜けてる、私の知ってるりっちゃんはこんな顔したことない。
「それはこっちの台詞だよ。今日ムギ様子がおかしいよ。……ううん、今日だけじゃない。ここ最近ずっと。」
 話し方は優しいけれど、言葉の一つ一つに何処か棘を感じる言い方だった。肩を掴む力がぎりぎりと強くなる。痛い、けどそれを声には出せなかった。目の前にいる人の言葉が私の胸をモヤモヤごと締め付ける。
「このバンドは元々私の思い付きだし、ただ皆で集まって馬鹿騒ぎできればそれで良いと思ってる。毎日練習して、お茶して、お喋りして。時々買い物に行ったり、休みの日には皆で遊びに行ったり。ただ楽しければいい、そんなもんなの」
 その言葉に今までバンドを立ち上げてたり、楽器を見に行ったり、文化祭でライヴをやった時の思い出が浮かんできた。楽しい楽しい、大切な思い出。
「なのに最近ムギは楽しそうじゃない。表情こそいつもと変わらない笑顔だけど、その奥にある心が全然違う。ずっと何かを隠してる」
「……そんなこと、ないよ」
「嘘つくなよ! ずっとムギ悩んでんじゃないか!」
 りっちゃんが感情剥き出しで声を荒げた。そんな様子に、つい私も感情的になってしまう。
「そんなことない、悩みなんて無い!!」
「隠してるのバレバレなんだよ! 何だよ、そんなに私たちには相談したくないのかよ! そんなにメンバーの事が信じられないのかよ!!」
 信じてるよ、信じてるからこそ言えないんだよ。言ったら皆の関係が崩れちゃうから、放課後ティータイムが無くなっちゃうから。だからずっと隠していこうとしてたのに。
「…………」
「言えない、か。そんなに私が信用ならないか。確かにいつも馬鹿やって情けないように見えるもんな、私は」
 違うよ、りっちゃん。りっちゃんはいつもふざけたりしてるけど、やっぱりどこかリーダーだもん。今だって私の様子に気付いてここまで来てるし。悪いのは全部私なの。私がおかしいの。
「ムギが自分から話してくれる事を望んでたんだけど。ごめんな、本来私から聞くことじゃないが――」
 りっちゃんが私の瞳を真っ直ぐに覗き込んでいる。それから目が逸らせない。
「――何で梓を憎んでる?」
「――ッ」
 なんで、しってるの……。
 私はズルズルとその場にへたり込んだ。身体から力が抜け、涙が堰を切ったように溢れ出る。そんな私の様子にりっちゃんは少し驚いたようだったが、またすぐに私の瞳を見つめ直した。
「……全部、知ってたの?」
「いや、分かってるのはムギが何か悩んでるって事と、何でか梓を憎んでるって事。ムギ、ここ最近ずっと梓の名前呼んで無かったの気付いてたか? それに梓が何か喋る度に一瞬けわしい顔になってたのも」
 迂闊だった。一生懸命隠そうとしてたつもりでもバレバレだったなんて間抜けだ。
「ひょっとして、皆気付いてたのかな。自分でも気をつけてたつもりなんだけど」
「多分私以外は気付いてないよ。ずっと注意していないと見逃すくらいの違和感だったし」
 りっちゃんがハンカチを渡してくれた。
 私はそのハンカチで視界を塞ぐ。これから私の言葉聞いたりっちゃんの反応を見ることが出来なかったからだ。もう我慢が出来ない、溢れる涙と感情を止めることは無理だった。もう言ってしまおう、言って……終わりにしちゃおう。
「……りっちゃん、聞いてくれる?」
「……うん」
 姿は見えないけど頷いてくれた。
「……私ね、唯ちゃんが好きなの。友達としてじゃなくてね。どうしてとかいつからとかは覚えてないんだけど、気付いたら好きだった。愛しくて愛しくて堪らなかった」
 りっちゃんは何も言わない。どんな表情をしてるんだろう、驚きかな。それとも軽蔑かな。だけどそれももうどうでも良かった。
「女の子が好きなんて変態さんだよね。でもそんなの関係なかった。だって幸せだったんだもん」
「好きな人の隣にいれるんだもん、変態だろうが何だろうが幸せだよ。それだけ、他はどうでもよかったの。唯ちゃんの一番になりたかった。なのに――!」
 私は自分の肩を強く抱いた。黒いモヤモヤが言葉となって私から放たれる。
「後から来た梓ちゃんが私の居場所を奪った! 唯ちゃんも梓ちゃんがお気に入りで! もう唯ちゃんの隣には私じゃなくて梓ちゃんがいるの!! ずっと好きだったんだよ、唯ちゃんが。唯ちゃんが……」
「でもムギ、それは……」
「わかってる、梓ちゃんは悪くないって! 勿論唯ちゃんも悪くない! 私も悪くない! 誰かが悪いとかそういう問題じゃないってわかってる!」
 これじゃ我が儘を言ってる子どもだ。りっちゃんに八つ当たりしても仕方ない。でも叫ばずにはいられなかった。
「唯ちゃんは大切なお友達、梓ちゃんも可愛い後輩。どっちが大切、じゃなくて二人とも大切なの」
 それはわかってる。私にだってそれぐらいの事は理解できる。わかってるからこそ、こんなに苦しいんだ。
「じゃあどうすればいいの!? わかってる、私が間違ってるんだよね! 女の子を好きになったりした変態なのがいけないんだよね!?」
 無茶苦茶だ。変態でいいって言ったり間違ってるって言ったり。
「……ムギ」
「唯ちゃんが好きなの! 好きで好きで堪らないの! 唯ちゃんが私の全てなの! だからどうして良いのかわからないの!」
 嘘だ。どうしたらいいかなんてわかってる。でもその選択肢は選びたくない、だからわかっていない振りをして駄々をこねているんだ。
 ――この気持ちを綺麗さっぱり忘れる。そうすれば何もかも解決する。
「……忘れられるか?」
「忘れるしか……ないんだよ」
 それしかない。でもそれは同時に今までの私を全て否定することになる。多分、もう皆の前で心から笑ったりなんかできない。
 りっちゃんが私を抱えるように抱きしめてくれる。まるでお母さんがしてくれるみたいに優しく、そして強く。
 ここが学校だということも忘れて大声で泣いた。りっちゃんの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。その間ずっと優しい掌が私の頭を撫でていてくれた。