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BUDDY 12

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「…………バカバカしいと思うだろうけど、俺に、そのやり方は、できそうにない」
 セックスはそういう目的でやりたくない、と士郎は頑なに思うのだ。
 アーチャーの言う通り、魔術師であれば、当然思いつくはずの方法が士郎にはできない。そう多くはない期間だったとはいえ魔術師として生きた時もあったというのに、だ。
「お前が意識を失っている間はうまくいったが?」
 この男は、どこまで自身を度外視するのか。自身だけではなく、同じ派生のエミヤシロウである士郎をも一括りにして、合理性を求めようとする。
(俺を一緒にするな……!)
 一発ぶん殴ってやりたいと思うが、そもそもアーチャーに悪気があるわけではないので、そうもいかない。
(アーチャーに、感情的なものを期待したって、無意味だ)
 わかっているのに傷ついている自分の弱さに情けなくなる。
「……………………と、とにかく、無理なんだ」
 理由など説明したってアーチャーには理解してもらえない。ならば、頑なに拒否し続けるしかない。
「緊張でもするのか? 今のように?」
「へ?」
 いきなり胸に手を当ててきたアーチャーは、士郎の仮初の心臓が激しく駆動している胸を軽く押さえてきた。
「っ!」
「ずっと、速いな?」
 硬直した士郎は何も言えず、わななく唇を噛みしめる。
 どうしてそんなことに気づくのか。
 どうして、これほど無遠慮に己を暴いていくのか。
 だというのに、アーチャーは、こういう情動をなかったことにしたい士郎の気持ちには気づかない。
(俺はずっと、心臓が口から出てしまいそうだってのに……!)
 心音がおかしいくらいに速いことを指摘され、何をどう言って逃げ口上にするかを考えてもいい案は浮かばない。
 ならば、と、かたく目を瞑り、眠ってしまおうとした。アーチャーのことなど無視して、さっさと眠ればいい。だが、人であればそのうちに眠ってしまえたとしても、すでに人外である士郎には全く眠気などささない。
「なあ、士郎? ずいぶんと速いが?」
 耳の後ろで低い声が訊く。
 放っておけ、とアーチャーを跳ね除けたいが、ぎっちりと戒めるように抱き込まれていて、いつのまにか身動きすらできなくなっている。
「士郎……」
 熱い吐息が首筋の生え際を湿らせる。さらに鼓動が加速した。
 アーチャーの熱を覚えている。
 貫かれる痛みを、その先にある快感を、そうして一つになった、あの一体感を。
「…………し、仕方ないだろっ!」
 限界だ、とばかりに声を荒げる。
 好きな人とこんなに密着している、と考えただけでも士郎は気が遠くなりそうだ。心臓が壊れそうなくらい鼓動が速くなり、熱でも出ているように全身が熱くなる。
「なぜ、仕方がないんだ?」
 それを訊くのか、と悔しくて唇を噛んだ。
「身体が熱いな……」
 衣服越しに、アーチャーの手が士郎の身体を這う。
「な、なに、してっ?」
「何も」
「すっとぼけんなよ! なに、勝手に触って——」
「問題ないだろう? 私は契約主。ということは、お前は私のもの。違うか?」
「っ……、そ、そう、かも、しれない、けどっ」
 こんな理不尽があってたまるか、と逃れたいのだが、すでにアーチャーの手管が士郎の身体に逃げる気力を失わせていた。
「っ…………、ぅ……」
 アーチャーの熱い手は、イヤらしい触り方ではなく、マッサージに近い。最初は触れられて驚き、逃れようとしていたが、アーチャーの手が他意のない触れ方をしてくるので、士郎の身体は強張りを解き、リラックスしはじめている。
 鼓動の速さも少し落ち着き、身体と顔の熱さを除けば、問題ないくらいになった。
 髪に顎を埋めてきたアーチャーを見上げるように振り向けば、こめかみに唇が触れ、驚く間に額にも唇が触れた。
「ぁ、の……」
 何をどう問えばいいか、と思案しながらアーチャーを見つめていれば、ころりと向きを変えられ、正面から向き合って抱き込まれてしまう。
(なん……で?)
 わけもわからず硬直していれば、背中を熱い手が上下する。
(あ……、すごく、気持ち好い……)
 とろり、と意識がぼやけてくる。
 アーチャーにされるがままで士郎は瞼を下ろした。
 とても安心する温もりだと感じている。
 千切れてしまった感覚が元に戻るわけではないが、物理的に身体を繋げるよりも深いところで繋がっているような気がした。
(アーチャー……)
 無意識に逞しい胸元にすり寄る。
(こんなふうに、ずっと……)
 叶わない願いが、少しだけ脳裡をよぎった。



◆◆◆

(眠ったか……)
 士郎が、ようやく警戒を解いた。
 いまだ熱さを残す身体を抱きしめれば、吐息が首筋に感じられる。
(ああ、至福……)
 座で気づいた、この感覚。
 鼓動の速さと身体の熱さを指摘すれば動揺して、ずいぶんと可愛い反応をするのだと気づいた。
 純粋な身体の反応を士郎は恥じているようだが、士郎の感情を如実に露わにしてくれるものなので私は重宝している。
(私を好きだと言いながら、なぜ直接供給ができないと言うのだろうか……)
 私としては、なんら問題はないというのに、士郎はどうして拒むのだろうか。
(何か、私はミスをしたか?)
 いまだ士郎を測りかねている。
 好きだと言われ、セックスは嫌だと言われ、どっちなのだ、と詰め寄りたいが、そうもいかない。
 もう少し、はっきりと話してくれればいいのだが……。
 士郎はすべてを言わない。
 それは、以前からだった。
 思い詰めるタイプだったとは、衛宮士郎にあるまじき……、いや、そうさせたのは、私なのかもしれない。
 師弟という関係を皮切りに、私はいろいろと士郎に押し付けてきたのではないだろうか。
 身体の鍛錬、魔術の鍛錬、相棒《バディ》という関係の強要と、今の契約。
 すべて士郎が望んだことではない。
 すべて私が仕向けたことだ。
 ならば、今、この現界では、士郎の好きなようにさせてやった方がいい。
 私の傍で、それができるのであれば、だが……。



***

 アーチャーの調子は、すっかり元通りという状態には戻らない。いまだ睡眠を必要とし、士郎への魔力も僅かずつしか流せないでいる。
 情けない、サーヴァントにあるまじき、と自己嫌悪に陥るかと思えば、存外アーチャーは、この状況を楽しんでいた。
 人のように過ごすことに抵抗のあったアーチャーに睡眠というものが必要になり、さらには食事も積極的にとる、という状態だ。
 アーチャー自身に魔力不足の傾向は見受けられないのだが、士郎へと流すべき魔力が今までの五分の一以下となってしまっており、このままでは士郎の現界を維持できなくなる。
 したがって、アーチャーは積極的に士郎に魔力を供給しようとしている。常に士郎の傍に在り、触れていられる場合は触れ、経口摂取ができる場合はして、夜も抱き枕の如く士郎を抱き込んで眠る。
 アーチャーとしては、なんら問題がないのだが、士郎からはその都度、近い、暑苦しい、離れろ、などの苦言を吐かれている。
 なぜだ? と首を捻るのが、このところの日課のようになっていた。
(士郎は、私を好きだと言う。ならば、傍にいて、触れ合って、口づけて、という行為はうれしいものではないのか?)
作品名:BUDDY 12 作家名:さやけ