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再見 五 おまけの詰め合わせ〜

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 だが、長蘇はどうだ?。
 ここに居る時ですら、人目を忍び、この琅琊閣から、思うままに出る事は出来ぬ。
 長蘇の鬱憤は溜まる一方だ。
 街へ出て、長蘇の気が晴れば良いと、そう思ったのだ。
 知る者は少ない方が良い。そうだろう?。」
「私は、、、私は宗主に何と酷い事を、言ってしまったのでしょう、、。」
 ぱしりと、甄平は自分で自分の頬を打った。
「宗主の心の中など何も知らずに、、、。私は何と自分勝手な、、。
 宗主にお詫びせねば、、、。」
 甄平は項垂(うなだ)れていた。
「甄平、やっと、冷静さを取り戻した様だな。
 長蘇も分かっているさ、お前が主思いの配下だと言う事を。長蘇は、何も咎めはしないだろう。
 熊王の被害者救援の件は、良く考えられて上手くやったと、長蘇が感心していたぞ。」
「はい、、。」
「自分を責めるな。お前の気持ちは、私が長蘇に伝えておく。長蘇はあの性格だ、別段、何とも思ってはいないだろう。努めを果たせば、それで帳消しだろ?。」
「は、、若閣主に、そう言っていただけると、、。」
「あとは忘れて、いつも通りにしている事だ。長蘇や黎綱と、ぎくしゃくしたくは無かろう?。
 、、、さて、描き終わったぞ。」
「おお〜〜〜、、、ぉ?。」
 藺晨の描いた絵に、甄平は不満気だ。
 それもそうだろう、白い毛をした物が、柄物の女子の衣を着ているだけの、落書きの様にしか見えなかった。
「、、、、、ぇ、、これが宗主ですか?。
 若閣主って、、、、、アンガイヘタクソ、、。」
「何だとぉ!?、さすがに紗を付けていて、顔は見えぬのだ、化粧する訳で無し、こんなもんだ。
 ほら、、これに、、こう、、、笠を、、。」
 藺晨は描いた長蘇の上に、そのまま笠を描き足した。
「あっ、、、何となく女子です。」
「な?、外見には、こんなもんなのだ。後は女子らしい動きを幾らか出来れば、形(なり)は大きいが、女子に見えなくも無い。そこら辺は長蘇の努力だ。
 長蘇を疑う者は、居なかったから、そこは立派に出来たのだろう。まぁ、例え疑わしくても『男だろ?』と聞くのもどうかと思うが。
 女子の衣は締め付けが有るし、街へ行く為とはいえ、長蘇自身は、お前が考えるよりも、大変だったと思うぞ。」
「分かりました。私が愚かだったのです。若閣をにも、お手間を取らせて、、申し訳ありません。
 あの、、折角の宗主の姿絵、私が頂いても宜しいでしょうか。」
「あぁ、、これか?、、。」
 藺晨は絵を持ち、少し考え。
「これは残さずにおこう。長蘇とて、不本意だろう。」
 そう言うと、手に持った絵をぐしゃりと丸め、灯りに近付け、絵を燃し、側にある空の皿に置いた。
「ぁっ、、ぁぁ、、、。」
 甄平は惜しそうな顔をしたが、紙が黒い炭に変わると、踏ん切りも付いた様だった。
 甄平は元通りの、敏腕ぶりが滲み分かる顔に戻った。
「若閣主、ありがとうございました。目が覚めました。」
「ん。」
 藺晨もまた、甄平の様子に、満足気な顔になる。
「賢い奴は、理解が早い。言った甲斐がある。」
 甄平はその言葉に、機嫌を良くし、藺晨に拱手をすると、下がり、部屋から去って行った。

「ふふふふ、、長蘇の借りは、これで幾らか返せたかな。」
 そう言うと立ち上がり、部屋の窓辺に立った。
 外を眺め、気分は爽快だった。
 素晴らしく気分が良い。甄平を諭し、大きな漢になった気分だった。

 藺晨は左の手を上げ、陽に翳(かざ)す。
 そのまま、じっと自分の指を見ていた。
「ふふふ、、、指輪、、、か、、。
 私なら雑作もなく作れるな、、、。」
 藺晨には、自分の指にはめられた、長蘇の白い毛で作られた指輪が見える気がした。
『講談の中の藺晨は、指輪を見る度に、姿を消した銀香を、想ったのだろうな。
 何(いず)れ長蘇とて、ここを去るのだ。
 、、、長蘇が居なくなったなら、私は、、。』
 そう思うと、藺晨の胸は、ぎゅっと締め付けられ、辛くなった。
《この指に、長蘇の欠片が一つ位有っても、、。》
 
「、、、、だが、長蘇は銀香と違い、行方が分から様になる訳では無い。
 長蘇は、廊州の江左盟か、金陵か、配下が付き添い、常に行き先は分かるのだ。」
 そう言いながらも、左の指を見て。
《一つ位、この指に有っても、、な、、、フフフ。》

 ぎゅっと左手を握り締め、一人、笑みを浮かべ、長蘇の部屋を後にした。


──その二、糸冬──