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Byakuya-the Withered Lilac-6

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 『生体器』のおかげで体を鉤爪で串刺し、ということは避けられたものの、ゾハルはもんどり打って大きなダメージを受けた。
「まだまだ……ごほっ。ごほっ!」
 ゾハルに追撃を加えようと、ビャクヤは動いたが、ここ数日の発作的な咳に足を止められた。
 ビャクヤは、どうにか立ち直ろうとするものの、依然咳が続いている。
「ごほっ……ごほっ!」
「ビャクヤ……?」
 ツクヨミは心配になり、少しビャクヤに近付いた。
 するとツクヨミは、驚愕の極みに至った。ビャクヤは口の周りを血で汚していたのである。
「ビャクヤ!」
 ツクヨミは駆け寄ろうとした。
「そこから動かないで。姉さん!」
 ビャクヤは顔だけをツクヨミに向けて叫んだ。
「ごほ……そんな顔しなくても。僕はまだまだ戦えるさ……」
 ビャクヤは更に喀血する。そして今、自分の身に何が起きていたのかを理解した。
 ビャクヤが偽誕者の力に目覚めた時、蜘蛛に襲われた。その時に体を傷つけられ、そこに顕現が流れた。
 その顕現の他に、蜘蛛からその身の一部、卵を産み付けられていたのである。
 やがて卵は孵り、ビャクヤの中に存在するようになった。顕現の食事でなければ腹が満たされなくなったのは、ビャクヤに宿る顕現の獣、ケリケラータの存在によるものだった。
 今、十分に成長したケリケラータは、ビャクヤという『器』を破って外に出ようとしている。それ故にビャクヤは身体の内部から蝕まれていたのだった。
ーーははは。お医者さんでも分からないわけだよーー
 ケリケラータが今になってここまで活発となった理由、それはヒルダ、メルカヴァといった非常に大きな顕現の持ち主を喰らったために、ケリケラータが急成長を遂げたのだと思われた。
 そして今、ゾハルという『深淵』の顕現にあてられ、顕現が暴走している者を相手している。
 ビャクヤが、この顕現の暴走したゾハルと対峙した事で、ケリケラータの活動が更に活発化した。
 ビャクヤが喀血して苦しむ間に、ゾハルは立ち上がっていた。
「もう許さない。蜘蛛野郎」
 ゾハルは、怒り心頭といった状態だった。
「あはは。元気がいいね。その元気の源。喰らったら僕も大層元気になりそうだよ……!」
 精一杯のやせ我慢であった。ケリケラータに蝕まれ、ビャクヤにこれ以上戦う力はほとんど残されてはいなかった。
「ふん、そんな血反吐出しながら、まだ勝てるつもり?」
「キミを喰らえば全部よくなるよ。さあ。最後の勝負といこうじゃないか。負けた方が確実に死ぬ。本当に最後の勝負にね……」
 ビャクヤは、震える体をおして立ち上がる。そして八裂の八脚を顕現させた。
「最後の勝負か。いいよ、面白い。うちの最大のちからでお前を殺してやるよ!」
 ゾハルは言うと、片目を隠すように巻いていた包帯を解いた。
 出てきたのは、全てを真っ赤に塗り潰したような、おおよそ眼とは思えない代物だった。果たして、その眼を通じて物が見えているのかも分からない。
 しかし、最後の勝負に臨むに十分足り得る顕現を持っていた。
「へぇ。たいした眼を持ってるじゃないか。何ができるのかな」
「答えは死んでからあじわいな!」
 ゾハルの真っ赤な眼が光を放った。
ーー何が来る……?ーー
 何が来るのか分からず、ビャクヤは鉤爪で身を守るように身体の周りに固めた。
「曲がれ!」
「うわっ!?」
 ゾハルが叫ぶと光を受けた鉤爪が、ゾハルの命令通りひん曲げられてしまった。
「潰れろ……!」
 ビャクヤの身を守る鉤爪は、全て地面に押し込まれてしまった。
「さあ、つぎはお前だ! 曲がれ!」
 ゾハルは、真っ赤な眼光をビャクヤに向けた。
 身体にあの光を受けたら一溜りもないと直感で感じ、ビャクヤは地面の鉤爪を一本拾い上げ、それで身を守った。かなりの強度を誇る鉤爪だが、ゾハルの言った通り完全にひん曲がってしまった。
「ふう。なかなか危ない事してくれるじゃないか……ごほ」
「さいごの勝負をのぞんだのはお前だろう。それにいったハズだ。お前をもう許さないって!」
 ゾハルは眼光を放った。
ーーあれは? ゾハルにあんな力はなかったはず。一体何が……?ーー
 戦いを見守るツクヨミは、ゾハルの能力に疑問を抱いていた。
 ゾハルの能力は、彼女が『万鬼会』に所属していた頃にはなかったものだった。
「ふふ、ストリクス、知りたそうだね?」
 ゾハルは、ツクヨミの視線を感じ、真っ赤に光る眼を手で隠しながらツクヨミを見た。
「まあいいや。めいどの土産だ。教えてやるよ」
 ゾハルは、虚無に落ちかけながら数多の偽誕者、虚無と戦う内に新たな能力に目覚めていた。
 『湾曲(ベンド・シニスター)』という能力であり、ゾハルの真っ赤に塗り潰された眼の光を受けると、彼女の思うままに物体を湾曲させる事ができる。
 虚無が相手ならこの力で首を折ってやれば倒せ、生体器がほとんど空の偽誕者でも同じ方法で殺害できた。
 能力の発動には、眼光を当てた後に、物体にどうなってほしいかを言うだけである。非常に簡単であり、ほぼ無敵の能力であった。
「あはは。自分からそこまで言っちゃうなんて。相当自信があるみたいだねぇ」
 ビャクヤは、ゾハルが話している間に鉤爪を再生させていた。
「けど。話を聞く限り。僕には通用しないよ。この八本の爪があればね」
 ビャクヤは既に対策を立てていた。
「だったら、受けきってみろ、蜘蛛野郎!」
 ビャクヤが先に駆け出した。しかし、携えているのは一本の鉤爪であった。
「曲がれ!」
 一本の鉤爪はいとも容易く曲げられてしまう。
 ビャクヤは使えなくなった鉤爪は放り、二本目を顕現させる。
「潰れろ!」
 二本目も押し潰されてしまった。同時に三本目を顕現させた。
「砕けろ!」
 三本目は粉々に砕け散ってしまった。そしてちょうど半分の四本目を顕現させた。それとほぼ同時にビャクヤとゾハルは肉薄した。
「ぐっ、裂けろ!」
「チェックメイトだ!」
 四本目が縦横に裂けた瞬間、ビャクヤは残った四本を顕現させた。間合いはビャクヤの間合いになっており、ゾハルは動けなかった。
 ビャクヤは糸を手繰って少し宙に浮き、二本の鉤爪をゾハルに向けた。
「舐めるな!」
 ゾハルは顕現の盾を作り出した。
「引っ掛かったね」
 ビャクヤは、落下しながら残る鉤爪を足に纏わせて、ゾハルの腹部に蹴りを放った。
「かは……!?」
 ゾハルは、顕現の盾を二度も破られ、『生体器』もかなり消耗していた。地面に叩き付けられ、肺に残る息が全て出ていった。
「ぐっ。ごほごほ……がはっ!」
 ビャクヤは、生命を脅かされるほどの大喀血をした。ビャクヤのいう最後の勝負が終わった瞬間だった。
「ビャクヤ!」
 大量の血を吐き出したビャクヤに、ツクヨミは思わず駆け寄っていた。
「ごほっげほ!……姉さん。今がチャンスだよ。僕に構わずにそのナイフで奴に止めを刺すんだ!」
 大ダメージを負った今のゾハルであれば、ツクヨミでも『器』を割る事は可能であった。
 しかし、ビャクヤを捨て置く事はできなかった。
 ビャクヤとゾハルの二人に共通するのは、顕現の暴走である。暴走の元をツクヨミの『セフィロトの剣』で貫けば暴走は止まる。
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗